松本侑子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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いつかの君に

2023/10/10公開

時空をこえて恋しい人に会いに行くタイムスリップ&サスペンス

Netflixシリーズ「いつかの君に」独占配信中

 見終わったあと、甘く切ない感動で、胸がいっぱいになりました。

 と同時に、このドラマはタイムスリップものなので、「あれは、いつの時期のこと?」とか、「あの場面の、あの人は誰だったの?」といった疑問がうかび、時系列の表を書きたくなりました。

 そこでネットで検索すると、年表を書いている人がたくさんいたのです! (年表は、ドラマを見終わってから、ご覧ください)

 この作品は、時間軸に仕掛けがあり、その複雑さに、面白さと驚き、深い感動が、ギュッとつまっています。

Netflixシリーズ「いつかの君に」独占配信中

 主人公は、2023年のソウルで働く36歳の女性ジュニ(チョン・ヨビン)。企業のチーム長として活躍する積極的な女性です。

 しかし彼女は、恋人ヨンジュン(アン・ヒョソプ)を、一年前、飛行機の墜落事故で亡くし、喪失感に沈んでいます。遺体が見つからないため、彼が死んだと諦め切れないのです。

 そこで、いつか彼に会いたいと、恋人が使っていたスマホにメッセージを送り続けています。もちろん「未読」のままですが、愛の言葉を書き送っているのです。

 そんなある日、「いちばん幸せな時間につれていってくれますように」とペンで書かれたカセットテープで、昔のヒット曲「涙を集めて」を聞いていると、いつのまにか眠ってしまい、目がさめると、目の前に、死んだはずの恋人ヨンジュンがいました。

 ジュニは、やっと会えた感激に、抱きついて泣きますが、彼は、シホンという名前の別の男子高校生(アン・ヒョソプ、一人二役)でした。

 しかもジュニ本人も、ミンジュという名前の女子高校生(チョン・ヨビン、一人二役)になっていて、おまけに1998年の田舎町にタイムスリップしていたのです。

Netflixシリーズ「いつかの君に」独占配信中

 普通のタイムスリップものは、主人公が、同じ人物のまま、過去や未来に行くことが多いと思いますが、このドラマでは、36歳の女性ジュニの魂が、顔が似ている17歳の女子高生ミンジュの体に入るのです。

 そのミンジュは、寂しい少女です。
 父親は、家を出て不在。母は夜の接客業のため、ミンジュが下校すると、入れ替わりに出勤。弟は反抗期の生意気盛り。話し相手がいません。学校でも、人付き合いが苦手なミンジュには、友だちがなく、劣等感があります。

 しかし、そんなミンジュに、好意をよせて、優しくしてくれるおとなしい男子インギュ(カン・フン)がいます。その親友が、死んだ恋人と瓜二つの美男子シホンです。

ドラマの前半は、この三人の高校生の初々しい青春物語として進んでいきます。

Netflixシリーズ「いつかの君に」独占配信中

 そして気がつくと、ジュニは2023年の自分に戻っていました。しかし現在に帰ってきても、死んだ恋人のスマホに送ったメッセージが「既読」になるなど、不思議な出来事が続きます。

 恋人ヨンジュンは、本当に死んでいるのか? 死んだはずの恋人と、彼に生き写しの過去の男子高校生シホンは、どんな関係があるのか? 謎が謎を呼びます。

 さらに驚くことに、タイムスリップして別人になるのは、主人公のジュニだけでなく、他の人たちも、一人は純愛のため、もう一人は歪んだ欲望のため、時をこえて移動して、顔が似ている別の人物になるのです。

 そのとき、複数の殺人事件が起き、この悲劇を止めようと、ジュニは勇敢にも、未来から事件の現場へ、戻ろうとします。

 果たして、犯人は誰なのか? 事件を阻止することはできるのか? 時空をこえていく人々の恋は、実るのか?

Netflixシリーズ「いつかの君に」独占配信中

 ドラマの視点は、主人公のジュニから、恋人を追い続ける純愛の男性へ、さらに鬱屈した心の女子高生ミンジュへ移り、三部構成で展開。凝った脚本のすばらしさを堪能できます。

 登場人物たちが、タイムスリップする時に聞く曲「涙を集めて」は、1996年の韓国のヒット曲です。
 これを歌った男性ソ・ジウォンは、1996年に19歳の若さで他界。韓国では、彼への哀悼もこめて、たくさんの歌手がカバーしています。

 その歌詞にある「あなたのことを忘れない、ずっと愛している」、「あなたを、いつまでも待っている」、「あなたはいつか、私のもとに帰ってくるだろう」といった意味の言葉が、ドラマの人々の心情にぴったりで、情感が盛りあがります。

Netflixシリーズ「いつかの君に」独占配信中

 本作の原作は、台湾ドラマ「時をかける愛」(2020年)、全26話。世界で10億回閲覧再生され、映画版も公開された大ヒット作と知り、視聴しました。

 韓国のリメイク版は、ロマンチックな雰囲気、人気俳優の演技、映像の美しさ、またセンチメンタルな歌も魅力的でした。

 台湾版は、もっと素朴な温かさがあり、叙情的です。エピソードが多く、じっくりと丁寧に人々の心のうちを描きます。店の看板や学校の教室などに漢字が使われているせいか、日本人には、どことなく親近感もあります。台南(タイナン)の南国らしい風景にも心ひかれました。
 主演の女優アリス・クー、男優グレッグ・ハンが、田舎町の生き生きとした高校生と大人を演じて分けて圧巻。台湾のエミー賞とも言われる「ゴールデン・ベル・アワード」で四部門を受賞。韓国版との結末の違いも、興味深いものです。どちらもオススメの傑作です。


新宿の講座 『アンの娘リラ』2023年11月11日(土)13時~14時半
主催・朝日カルチャーセンター。詳細は松本侑子さんのホームページをご覧ください。

今回ご紹介した作品

いつかの君に

配信
Netflixで独占配信中

情報は2023年10月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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