松本侑子さんのドラマ批評 - Missホンは潜入調査中

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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Missホンは潜入調査中

2026/5/29公開

30代女性が証券会社の裏金を暴く社会派&痛快コメディ

画像:Missホンは潜入調査中

Netflixシリーズ「Missホンは潜入調査中」独占配信中

 ヒロインは、ホン・グムボ(パク・シネ)。証券監督院で働くエリート監督官です。職務は、証券会社や証券市場の不正を調べ、検察に報告すること。

 グムボは、徹底した調査と、大企業や政治家にも忖度しない正義感の強さと行動力から、「汝矣島(ヨイド)の魔女」と呼ばれています。

 汝矣島はソウルにあり、「韓国のウォール街」と言われます。
 私はたまたま2025年に行ったところ、国会議事堂、証券取引所、証券会社、放送局KBS、大企業の高層ビルが建ちならび、まさに金融と政治の中心地でした。

 その汝矣島で働くグムボは、ハンミン証券からの内部告発を手に入れます。

 告発の内容は、ハンミン証券では、公開される会計とは別に裏帳簿があり、会社の利益から莫大な裏金を隠し持ち、経営者一族が私腹を肥やしている、というものです。

 グムボは、さっそく、情報提供者の一人に接触しますが、翌朝、その人物は交通事故で急死。口封じのために殺されたのです。

 もう一人の情報提供者も危険を察してか、音信不通となり、連絡がとれなくなります。

 そこでグムボは考えます。

 ハンミン証券に潜入して、もう一人の内部告発者を見つけ、裏帳簿を手に入れて、裏金の証拠をつかもう!

 幸いなことに、ちょうどこの時、ハンミン証券では高卒女性の社員募集をしていました。

 グムボ35歳は、可愛い髪型と服装に変えて20歳になりすまし、入社試験をうけ、トップの成績で合格。

 35歳の女性が20歳に若作りする様子はユーモア満載で、本作は金融不正というシリアスなテーマながら、全体的にコメディ・タッチで愉快です。

 入社したグムボは、色々な社員にさりげなく接触して、経営者一族を調べます。

 そこへ外部から新しい社長が来ることになり、就任式に出席すると、なんと、新社長はグムボの元カレ!

 この元カレとグムボは、元同僚です。以前、二人は、同じ会計事務所で公認会計士として働いていたのです。

 その時も、ハンミン証券の裏金疑惑が判明したのですが、元カレは、大企業に忖度して黙殺、隠蔽した心がけの悪い男です。
 正義感の強いグムボは、彼への怒りと失望から、別れたのです。

 そんなグムボは、監督官である自分の極秘調査が、元カレにバレないように、緊張感とドタバタがあり、これまた面白い。

 このドラマの見どころは、少なくとも6つあります。

 1つには、エリート女性監督官が、身分を隠し、証券会社に潜入して、時には命を狙われながらも、巨悪を暴き、倒していく大活躍の痛快さ。

 しかもグムボの目的が、当初の裏金調査から、古い企業風土と経営陣の刷新へと変わっていく展開も感動ものです。

 グムボは、創業者一族による独占的・閉鎖的な経営から、民主的で開かれた経営と企業文化へ変えるため、株主総会に出席するなど、獅子奮迅(ししふんじん)の働きをするのです。

 2つには、心がけの悪い(?)元カレ新社長とグムボの関係。
 グムボの素性は、もちろん、すぐに元カレにバレるのですが、ドラマの後半にむけて、二人の関係が、対決から協力へ、変わっていきます。

 別れたとはいえ、もとは恋人同士。お互いに気心の知れた仲であり、それぞれの得意分野を活かして、協力体制へ変わっていく男と女の妙味。

 3つには、女性社員の一致団結。
 入社したグムボは、女子寮で共同生活をして、同じ職場の女性社員と親しくなり、力をあわせて、証券会社の古い企業体質を変えていきます。

 その仲間が個性的です。たとえば、役員秘書の女性は、もともとは地方銀行で横領して逃げてきた曰く付き。ハンミン証券の老獪で独裁的な会長の娘は、意外にも、純情で世間知らずのお嬢さんなど……。こうしたユニークな女たちが連帯して、問題を解決していくシスターフッドの爽快さ。

 4つめは、レトロなオフィスの懐かしさ。
 実は、ドラマの時代背景は1997年。パソコンのモニターは大きなブラウン管タイプ、仕事のデータはフロッピー・ディスクに保存、インターネットは普及しておらず、パソコン通信の掲示板で情報交換。この古さがレトロで面白い。

 5つには、女性差別をギャグにしつつ告発。
 グムボがハンミン証券に入ると、女性社員だけが制服を着せられ、仕事は、男性社員のお茶くみ、タバコの買い出し、昼飯の出前の手配、コピーとり、といった補助的な作業のみ。

 しかもグムボは、「ミス・ホン」と呼ばれます。男は「■■課長」とか「▲▲部長」と「名字+役職」なのに、女は「ミス+名字」。

 つまり女は、未婚か既婚か、といった仕事とは無関係な属性で呼ばれ、その背景には、結婚後は退職させられる習慣もうかがえます。
 しかしドラマの最終回で、「ミス+名字」は廃止され、女性たちが歓喜します。本作の脚本家ムン・ヒョンギョンさんは女性で、1990年代の性差別を意識的に取りあげているのです。

 6つには、1997年の韓国通貨危機。
 このドラマの1997年は、韓国ウォンが大暴落。通貨と経済の大混乱を、IMF国際通貨基金が介入して解決した激動の年です。

 このドラマでも、証券会社の経営悪化、不況によるリストラの断行が描かれます。

 通貨危機の原因は、アジアの通貨危機の影響など複数ありますが、このドラマに出てくる金融機関の不透明な会計、金融機関と政治家の癒着も一因とされ、ドラマはまさに歴史的な事実を描いているのです。

 本作は、こうした多彩な見どころがあり、女優パク・シネさんの新たな代表作となること確実です。


7月から始まるZoom講座「新作ドラマ『大草原の小さな家』とローラ・インガルス・ワイルダーの生涯」。詳細は講師の松本侑子さんのホームページにて。

今回ご紹介した作品

Netflixシリーズ「Missホンは潜入調査中」

配信
Netflixにて独占配信中

情報は2026年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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