地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
大草原の小さな家
2026/8/28公開
大人の視点から描く開拓時代の現実と理想

Netflixシリーズ「大草原の小さな家」独占配信中
ローラと言えば、1970年代からNHKで放送されたドラマ「大草原の小さな家」が大好きでした。
茶色の髪を三つ編みにした少女ローラの明るさ、父さんのたくましさ、母さんの優しさ、姉メアリーの行儀のよさ、妹キャリーのかわいさ。
このインガルス一家の笑顔、幸せな家庭、開拓時代の手作りの暮らしに喜びと驚きを感じ、毎週、待ちかねてテレビの前に座ったものです。
ローラやメアリーが着ていた木綿地のワンピースにも憧れました。
ドラマをきっかけに、原作本を読み始め、それ以来、『大草原の小さな家』シリーズ全9巻(福音館書店、岩波書店)は、『赤毛のアン』シリーズと並ぶ私の愛読書です。
作家になってからは、ローラの人生の足跡をたずねて、アメリカ中西部4州を旅しました。
生誕地であるアメリカ北部のウィスコンシン州ペピン、子ども時代のミネソタ州ウォルナット・グローブ、少女時代のサウス・ダコタ州デ・スメット、結婚後に定住してシリーズ全作を執筆した南部に近いミズーリ州マンスフィールドの農場。
これらの土地を旅したエッセイは『アメリカ・カナダ物語紀行』(幻冬舎文庫Kindle)に書きました。
アメリカ中西部へ行くと、バスで何時間走っても景色が変わらない平原が、どこまでも続いています。
この果てしない原野を開墾して、畑を作り、麦を育てたアメリカ開拓農民の根気と根性、未来と自分を信じる向日性に圧倒されたものです。

Netflixシリーズ「大草原の小さな家」独占配信中
書籍『大草原の小さな家』シリーズの著者は、19世紀後半の開拓時代に生まれ育った実在の女性ローラ・インガルス・ワイルダー(1867~1957)。
ローラは、開拓農民の両親のもとで暮らした子ども時代から少女時代、結婚、みずからも開拓農民となる新婚時代、定住の地ミズーリ州へ幌馬車で旅した道中記まで、60代になってから、全9冊の本に書きました。
そのタイトルは、第1巻『大きな森の小さな家』、2巻『大草原の小さな家』、第3巻『プラム・クリークの土手で』、第4巻『シルバー・レイクの岸辺で』、第5巻『長い冬』、第6巻『大草原の小さな町』、第7巻『この楽しき日々』、第8巻『はじめの四年間』、第9巻『わが家への道 ローラの旅日記』。
ほかに、ローラの夫アルマンゾ・ワイルダーの子ども時代を描いた『農場の少年』もあります。
さて今も根強いファンがいる旧作ドラマの監督は、マイケル・ランドン(1936~1991)。彼は俳優であり、ドラマでは、快活で力強い父さん役チャールズ・インガルスを熱演。
主人公のローラ役は、メリッサ・ギルバート(1964~)。
母さんのキャロラインは、カレン・グラッスル(1942~)。
金髪に青い瞳のメアリーは、メリッサ・スー・アンダーソン(1962~)。
意地悪な女の子ネリー・オルソンを演じたアリソン・アーングリン(1962~)の顔つき、金髪の縦巻きロールも、忘れがたいものです。
この旧作ドラマは開拓時代の家族愛と勇気、ローラの成長を明るく描いて大人気を博し、9年間にわたり1983年まで制作されました。
それから40年以上がすぎて、21世紀の新作ドラマ「大草原の小さな家」が、2026年夏からNetflixで世界配信されています。

Netflixシリーズ「大草原の小さな家」独占配信中
この原作本は、シリーズ第2巻の『大草原の小さな家』。
インガルス一家は、ウィスコンシン州の森を出て、ミシシッピ河をわたって西部に入り、幌馬車でカンザス州へ。
大草原に丸太の家を建てて、入植者の町インディペンダンス(意味は独立)の近くで暮らします。
西部開拓の背景には、リンカーン大統領が1862年に作った自営農地法があります。原野を農地に開墾して家を作り、5年農業をして定住すると、その土地を無償で所有することができたのです。
さて、原作小説は児童文学であり、子どものローラの視点で見た世界でした。
いっぽう新作ドラマは、大人の視点で、開拓時代の厳しい現実を映し出します。

Netflixシリーズ「大草原の小さな家」独占配信中
たとえば入植者の貧困、僻地の孤独と過酷な労働によるアルコール依存症、南北戦争(1861~1865、戦死者70万人以上)の戦闘体験による男たちのトラウマと精神的な後遺症……。いずれも原作小説にはないエピソードです。
さらに先住民、黒人、女性の人権に配慮して、独自の物語も加わっています。
先住民については、アメリカ大陸には、もともとは多くの部族からなる先住民が暮らしていました。
先住民が狩猟採集をして食料を得て、先祖代々から受け継いできた大地に、いきなり白人が来て、畑を作り、野鳥や動物を銃で大量に殺して、自然の生態系を変え、先住民の食生活、言葉、文化を奪っていきます。しかも先住民は、アメリカ政府によって特定の居住区に追放されたり、白人によって大量虐殺されました。
新作ドラマでは、先住民が、奇異で野蛮な存在としてではなく、独自の文化をもった白人と同じ人間として描かれ、夫婦と娘からなる先住民オーセージ族の一家が、インガルス家の父さんと交際し、先住民の女の子とローラは親友になります。
黒人については、原作小説に出てくる医師のタン先生に加えて、黒人女性のよろず屋店主も登場し、この男女の人生にも触れます。
驚いたのは、ローラの母さんです。原作でも旧作ドラマでも、母さんは控えめで、どちらかというと夫に従順でした。
ところが新作では、夫の前でも、開拓民の男たちの前でも、自分の意見をきちんと述べる意思の強い女性です。
このように新作ドラマは、開拓生活の苦しい現実を見る視点、さらに先住民族差別、黒人差別、女性差別に配慮したポリコレの理想的な世界観から、ローラの物語を再構築しているのです。
俳優は、父さん役はルーク・ブレイシー(1989~)。旧作ドラマの決断力があってタフなスーパーマンのような父さん像とは異なり、絶妙な色気が漂い、内省的、思索的、さまざまな迷いもある男性です。つまり実際の男性と同じように悩む人間的な姿が印象的です。
ローラ役のアリス・ハルシー(2014~)は12歳。茶目っ気があり、活動的で、好奇心旺盛な女の子を生き生きと好演。
メアリー役は、スカイウォーカー・ヒューズ(2011年~)。原作小説のメアリーは8歳前後ですが、ドラマでは思春期の10代で、異性が気になったり、家族がうとましくなったりする微妙な年頃をしっとり演じています。
母さん役は、クロスビー・フィッツジェラルド。自分の意見を語る聡明な女性像を堂々とした演技で表し、存在感があります。

Netflixシリーズ「大草原の小さな家」独占配信中
続くシーズン2の制作も決定し、次なる舞台は、第3巻『ブラム・クリークの土手で』のミネソタ州ウォルナット・グローブ。
あの意地悪な女の子ネリー・オルソンも登場します。
どのような新しい解釈のドラマになるのか、続きも期待しています。
●講座「大草原の小さな家とローラ・インガルス・ワイルダーの生涯」2026年8月29日(土)13時半~15時。朝日カルチャーセンター新宿教室で開催。Zoom受講も可能。
●第3回「大草原の小さな家とローラの米国中西部4州ツアー」2027年9月下旬。詳細は松本侑子ホームページへ。
今回ご紹介した作品
Netflixシリーズ「大草原の小さな家」
- 配信
- Netflixにて独占配信中
情報は2026年8月時点のものです。














