田幸和歌子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~

2022/05/30公開

父娘のダブル婚活の行方は?!新しい「家族像」を問いかけるファミリーコメディ

 恋愛ドラマが作りにくいと言われる時代に、「いよいよここまで来たか……」としみじみ考えさせられる恋愛ドラマが登場した。上野樹里主演、田中圭、松重豊、磯村勇斗らが出演する『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~』(TBS)だ。

 フジテレビ月9ドラマが近年、恋愛ドラマ路線を撤退した一方で、2014年から“ドラマ好きの大人”に向けたドラマ枠として誕生したのが、TBS火曜夜10時の「火曜ドラマ」である。新垣結衣×星野源の『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)、綾瀬はるか主演の『義母と娘のブルース』(2018年)、多部未華子主演の『私の家政夫ナギサさん』(2020年)など、今の時代ならではの恋愛ドラマを多数生み出している。

 そんな中、本作は食わず嫌いの人が少々いそうな気がする。

 タイトルで謳った「持続可能」=「SDGs(持続可能な開発目標)」には、その文言を冠した有象無象のサービスや商品から胡散臭い印象を抱く人もいるだろうし、主人公がヨガインストラクターで結婚願望のない女性で、妻に先立たれた父と共に婚活するという設定にも、どこか意識の高さを感じて尻込みしてしまう人もいるかもしれない。しかし、実は尻込みする層や、恋愛モノがあまり得意でない層にこそ響く作品なのだ。

 第一話冒頭で、主人公・杏花(上野)はヨガ教室で生徒たちにヨガの教えを説いている。その教えはどれも素敵だが、現実にはそんな風に生きられないよね……と思っていると、杏花自身もまた、私生活は大雑把で常にバタバタしていて、しかも、前職では仕事を頑張り過ぎ、後輩に「頑張って沢田さんみたいになるなら、頑張りたくないです」と否定されていた人だったことがわかる。人に優しくなりたくて始めたヨガだが、「人」の中に自分も含まれていることを忘れていたというつぶやきには、思わずドキリとする。

 また、「結婚願望がない」のも、「雑でズボラ」「なんなら奥さんが欲しいくらい」「結婚って、相手の幸せを考えなきゃいけないでしょ」「自分のことでキャパオーバー」というのが、現実だ。杏花がそう考えるのは、自分の母が家族最優先の「良き妻・良き母」だったからこそ「自分にはできない」という一種の呪いがあるせいだろう。

 これは個人の問題ばかりではない。なぜなら、母親がキャリアを捨てて家庭に入った頃と違い、今はどんな会社や仕事に就いていても、一度キャリアを捨てるとその先が見えない時代だ。おまけに、「人生100年時代」で、単身だろうと既婚だろうと、生涯働き続ける女性は多いだろうから、将来を考えると誰もが「自分のことでキャパオーバー」なのだ。

 その一方で、父・林太郎(松重)が婚活パーティで出会う整形外科医・明里(井川遥)は、経済的にも自立しているが、逆に「美人で医師」という“条件”が婚活で障害になっている。

 また、林太郎の婚活は、妻に先立たれてから荒んだ生活を送っていた林太郎を心配し、再び同居を始めた杏花にとって「親の老後」から解放されるか否かの問題……のはずだった。しかし、林太郎が突然一緒に婚活しようと言い出したのは、杏花を縛り付けたくない思いと共に、亡くなった妻から手紙で娘の幸せについて頼まれていたためだったことがわかる。

 そんな中、杏花が出会い、「結婚を前提としないお付き合い」を提案し、断られて「友達」となったのが、シングルファザーの晴太(田中圭)だ。晴太は、かつて杏花の母がそうであったように、家族のことを一番に考え、神社のお参りでは家族の健康と幸せを願うタイプ。しかし、そんな「良きパパ」に見える晴太も、かつては「口だけ優しい夫」で、4年前に妻に愛想をつかされていたのだった。その反省があるからこそ、息子の幸せだけを願うと決めた晴太の気持ちを揺るがすのもまた、恋だ。

 そして、本作において恋愛と同等、あるいは、より大きなウェイトで描かれているのが「家族」「家庭」だ。杏花と再会し、猛アプローチする幼馴染・颯(磯村勇斗)は、実は幼い頃に両親が不仲で、離婚する前には杏花の家によく預けられていて、仲が良くあたたかな杏花の家の子になりたかったと言う。

 颯がいつでも笑顔でいるのは「先に親がケンカしてるのに、僕まで怒ったらややこしいでしょ」という幼少時からの経験があった。そんな颯と対で描かれるのが、彼が勤める英語学童保育に通い、親が離婚しているものの「好き嫌いを素直に言えて、ありがとう・ごめんなさいがちゃんと言える」晴太の息子・虹朗(鈴木楽)だ。

 幸せな家庭で育ったゆえに自身の無力さを感じる杏花と、そんな杏花の家庭に憧れ、母性や温かな家庭像を杏花の中に見る颯、家庭が壊れてから「自分」は捨てて家族のことだけを考えようとする晴太――それぞれが「家族」「家庭」を大事に考えるからこそ、それぞれを結び付けるのも壊すのも、きっと「恋」だ。だとしたら、「持続可能な恋」とははたして?と考えずにいられない。

今回ご紹介した作品

持続可能な恋ですか?
~父と娘の結婚行進曲~

放送
TBS系 毎週火曜夜10時放送
配信
Paraviにて全話配信中

情報は2022年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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