田幸和歌子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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マイファミリー

2022/06/08公開

連続誘拐事件、いよいよ完結。TBS日曜劇場のスマッシュヒット作

 軒並み苦戦と言われる今春の民放連続ドラマ。そんな今クール全体を見ても、多数を占めるジャニーズ出演ドラマにおいても、視聴率やSNSなどの盛り上がりを含めて最も好調と言えるのが、TBS「日曜劇場」枠・二宮和也主演の『マイファミリー』だろう。

 これは、『グランメゾン東京』(2019年)などで知られる脚本家・黒岩勉氏による、人生最悪の事態に見舞われた家族の絆が試される、ノンストップファミリーエンターテインメント。

 5年前の誘拐事件を機に引き起こされる連続誘拐事件が描かれるために、一見ミステリーなのかと思いきや、「ファミリーエンターテインメント」という点が、本作の肝だろう。
 何しろ驚くほど展開が早い。第一話冒頭5分で、ゲーム会社CEOの主人公・鳴沢温人(二宮)とその妻・未知留(多部未華子)の一人娘・友果(大島美優)が誘拐される。自動音声を利用した犯人の要求は、身代金5億円を用意することと、警察に連絡しないこと。

 警察を完全に排除した一方、ネットニュースで誘拐事件を公表し、世論を味方につけた温人と未知留夫妻は、大学時代の友人で弁護士の三輪(賀来賢人)、元刑事の東堂(濱田岳)の協力を得て、友果を救出。そこまでわずか3話分である。

 しかし、温人が見逃した犯人は、次に三輪の娘・優月(山崎莉里那)を誘拐し、身代金の取引の交渉人に温人を指名してきた。ここでも警察を排除し、温人らだけで無事優月を救出したが、次の誘拐は、鳴沢家と家族ぐるみの付き合いで、温人の会社の社外取締役を務める阿久津(松本幸四郎)の娘・実咲(凛美)だった。

 ここでも交渉人として温人が指名されるが、犯人を追う中、温人は、東堂と東堂の義妹で温人の会社の社員・鈴間(藤間爽子)が誘拐犯だという事実にたどり着く。東堂は自分の娘・心春(野澤しおり)を5年前に誘拐されたが、警察の介入がバレて取引終了。その際、妻・亜希(珠城りょう)の狂言誘拐を疑った警察が捜査を縮小してしまったことから、警察をやめ、心春を誘拐した犯人をおびき出すために模倣犯として友果を誘拐したのだ。

 しかし、それも警察は公表しなかったために、友果の誘拐事件の暴露本を出版。それを見た犯人が接触して来て、今度は優月を誘拐するよう東堂に命じる。さらに、実咲だけは真犯人が自ら誘拐したが、阿久津が警察に連絡してしまい、その頃、監禁場所から脱出しようと試みた実咲が高所から転落し、意識不明の重体に。警察は現場にいた温人を逮捕、東堂は逃亡し……という展開に。

 本作のポイントは、実に狭い人間関係と、少ない登場人物を軸に、スピーディーかつテンポよく事件が次々に進むことだろう。何しろ最終回を残した9話までが放送された6月6日現在、思い返されるのは、二宮がひたすらお金の入ったスーツケースをゴロゴロ転がし、必死に走る姿ばかり。他の場面といえば、温人の自宅と会社、阿久津や三輪の自宅、薄暗い監禁場所、車の中、公園くらい。そして、繰り返されるスマホの着信音と、取引を要求する自動音声。

 時折、排除された警察の間抜けな大集合ぶりがさしはさまれるものの、ほとんどのシーンが見事に密を回避した、小規模でクローズドな画となっているのだ。正直、スーツケースゴロゴロシーンと電話のシーンは、抜き出しても、どの回のどの場面か見分けがつかない人が多いだろう。そのくらいに映像も音も正直、単調で貧しい。にもかかわらず、視聴者は毎週SNSを中心に「考察」で大盛り上がりである。

 なぜなら、濱田岳の他に、温人の共同経営者・香菜子(高橋メアリージュン)をはじめ、阿久津、事件に異様な執着心を見せる特殊犯罪対策係の葛城(玉木宏)、管理官の日下部(迫田孝也)など、対象をコロコロ変えつつ、ミスリードとも思える露骨に怪しい人物描写が毎回あるのだ。

 高橋メアリージュンは、終盤に向けて陰影くっきりの黒ずんだ怪しげなメイクになっているし、目をギラギラさせるだけの凡庸イケメンに見えた玉木は9話に来て急に勘の鋭さを発揮するし、挙句、迫田は突然ウザく仕切り始めて、怪しいそぶりを見せる……。それぞれ「そんなキャラだっけ?」と思うほど極端な変貌ぶりだが、これは実際の彼らの言動に、視聴者の「疑心暗鬼フィルター」を1枚かけて見えてくる映像だと解釈しておきたい。

 何より『半沢直樹』(2013、2020年)大ヒット以降、ただでさえ大仰なBGMと歌舞伎役者、決め台詞など、固定フォーマットで縛られている感のある「日曜劇場」において、さらにここ数作は『日本沈没―希望のひと―』(2021年)『DCU』(2022年)と様々なコラボや付き合いまで加わって、ずいぶん窮屈そうな作品が続いていた。

 そうした流れで、低予算と少人数・小規模、ワンパターン映像と、役者の力でこれだけ盛り上げた『マイファミリー』は、日曜劇場のミニマムな成功パターンと言えるだろう。
 そして、気づけば崩壊していた家庭がそれぞれ、誘拐事件を乗り越え、再生して来ている。「ファミリーエンターテインメント」の終着点に期待したい。

今回ご紹介した作品

マイファミリー

放送
TBS系 毎週日曜夜9時放送
6月12日最終話は15分拡大
配信
Paraviにて1話~最新話 配信中
TBS FREE、TVerにて放送後7日間無料配信中

情報は2022年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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