地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
17才の帝国
2022/07/08公開
AIが選んだ首相は17才の少年?!高齢化が進んだ未来を描くSFファンタジー
第一話冒頭数分でぞくぞくし、毎週、わけもわからず涙が出た。胸のすく思いから、危機感や不甲斐なさ、希望まで、感情が激しく搔き乱されたのが『17才の帝国』である。
制作統括は、『ハゲタカ』など骨太な社会派ドラマを生み出してきた訓覇圭で、プロデューサーは、『カルテット』(TBS)や『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ)などを手掛けてきた民放ドラマプロデューサー・佐野亜裕美(現・カンテレ)。さらに、本作を「アニメと実写の中間くらい」の異色な質感に仕上げているのは、『けいおん!』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』など、アニメ畑で活躍してきた吉田玲子による脚本と、アニメ『さらざんまい』エンディングでもおなじみ、田島太雄による実写の街並みとアニメが溶け合う様を光がつないでいく独特の映像だ。
ただし、SF、ファンタジーで瑞々しく描くのは、「政治と経済」。しかも、202×年、人口の40%を高齢者が占め、経済は落ち込み、「サンセット・ジャパン」と揶揄されている、現在のリアルな日本と地続きの近未来である。
物語は、行き詰った日本に「Utopi-AI」(通称UA/ウーア)というプロジェクトが立ち上がり、その実験都市に青波市が名乗りをあげるところから始まる。AIがウーアの総理大臣として選んだのは、17才の高校生・真木亜蘭(神尾楓珠)で、閣僚も20才前後の若者ばかり(河合優実、望月歩、染谷将太)。真木が総理補佐官に選んだのは、父のリストラや祖父の介護、弟のいじめ・不登校などの問題を抱えつつ、未来に希望を見出そうとするひたむきな高校生・サチ(山田杏奈)だ。
若者たちが総理と閣僚を務め、若者が政治を行う最大の課題「経験不足」をAIが補う国は、輝かしい希望に満ちているように見える。「経験はときに人を臆病にする」「人を腐らせることもある」と言う真木の言葉は真っ当で、ウーアの在り方は今後の日本の正解じゃないかとも思わされる。
しかし、物語が進むにつれ、市議会や一部の職業など、AIによって不要になり、合理性から切り捨てられる人やモノが浮かび上がってくる。そして、「大人」世代の視聴者の多くは、自分や自分の大切にしているものが切り捨てられる側であることに気づき、ゾッとする。
「理想の国」に対するワクワク感と期待感は、同時に、政治を我が事と考えず、腐敗を見過ごし、今の社会を招いた「大人」世代の後ろめたさや良心の呵責にもつながる。アニメでなく、普通の実写ドラマでもなく、アニメと実写の融合を目指した本作の意義は、まさにここにあるだろう。
その象徴的存在が、「若者」世代と「大人」世代の狭間で揺れる、星野源演じる内閣官房副長官の平清志だ。平もまた、かつては真木のように真っすぐで青く、高い志を持ち、政治の世界に入った。しかし、いつしかそれを失ったことで、真木の「間違っていることを間違っていると言わない大人にはなりたくない。自分と自分の周りしか守らない大人にはなりたくない」という言葉が鋭く突き刺さる。
「今の僕に17歳の総理は少し眩しい」と寂しそうに、しかしちょっと嬉しそうに眉を上げる平。「裏切ったり出し抜いたり騙したりが当たり前の世界で暮らしていると、逆にこういう真っ直ぐさが怖い」「でも、このままの私で戦うしかない」という言葉は、失い続けた我々自身の現在地と重なるものだ。
一方、本作で重要な意味を担っているのは、前・青波市長・保坂(田中泯)をはじめとした「権力側」だ。一見既得権益にしがみつく私欲にまみれた権力者たちも、地域を豊かにするため、貢献してきたことは事実。しかし、自身や家族、身の回りの人々など、小さな単位で身近な人たちの願いを聞きいれてきた「便利屋」が町の権力者になっていった繰り返しが、実際、今の日本でもある。
保坂にとって真木は権力を奪う者だったが、真木が真摯に住民の声に耳を傾け、過去の祭りを復活させようとする姿に心打たれ、私有地を広場として提供する。両者の間には理解や共感が生まれた。しかし、「救世主になったかもしれない少年」を市民は選ばなかった。
「若者」と「大人」、「搾取される者たち」と「権力者たち」――分断がますます進む社会において、我々一人一人がすべきことは何なのか、本作を通して見つめ直してみたい。