田幸和歌子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

>プロフィールを見る

リクエスト

リバーサルオーケストラ

2023/03/01公開

門脇麦×田中圭主演。音楽愛溢れる秀作コメディ

 豊作の1月クールの中でも健闘が目立つ日テレ系ドラマ。本命は、バカリズム脚本×安藤サクラ主演の『ブラッシュアップライフ』。もう一つはダークホース的存在、門脇麦×田中圭出演の『リバーサルオーケストラ』だ。

 オーケストラを題材とするドラマといえば、名作『のだめカンタービレ』(2006年/フジテレビ系)があるだけに、放送開始前には二番煎じという声もあった。ところが、いざ放送が始まってみると、ドラマ好きの間でじわじわと評価が高まっていったのだ。

 正直、設定や展開に目新しさはない。だからこそ、清々しいまでにど真ん中ストレートを堂々と投げ込んでくる王道ドラマとしての覚悟や自信に痺れる。しかも、驚くのは、これが漫画原作モノなどでなく、オリジナル脚本ということ。脚本を手掛けるのは、『最愛』(2021年)や『わたし、定時で帰ります。』(2019年/共にTBS系)などの清水友佳子だ。

 まず出し惜しみのなさに圧倒されたのが、第一話。

 ドイツで活躍していた天才マエストロ・常葉朝陽(田中)は、母が危篤と聞き、帰国する。しかし、それは西さいたま市で市長を務める父・修介(生瀬勝久)の策略だった。修介は音楽で地域を活性化するため、シンフォニーホールの建設を進めており、完成したら真っ先に地元のオーケストラ「児玉交響楽団」(通称「玉響」)に演奏してもらう予定だった。ところが、玉響はあまりにポンコツで、修介の後釜を狙うイケボ市議・本宮雄一(津田健次郎)に挑発されたことから、柿落とし公演で2000人を満席にすると宣言。それができなければ市長を辞任すると言ってしまったために、朝陽に玉響の立て直しを命じたのだ。

 しかし、朝陽の厳しさに団員たちはついていけず、コンサートマスター(コンマス)が3日で逃げ出すピンチに。そんな中、朝陽が見つけた「救世主」が、市役所で働く元・天才ヴァイオリニストの谷岡初音(門脇)だ。

 初音は10年前、妹・奏奈(恒松祐里)が心臓病で倒れたことで、舞台を途中で降りてしまい、以降、舞台に立てなくなっていたのだ。

 そんな初音の過去がじっくり描かれていくのかと思いきや、初音が玉響に加わるのがなんと第一話。初音に入団を断られ続けた朝陽は、修介の力を利用して初音を玉響専属の広報担当にし、玉響の演奏に巻き込む。個々に良い音はさせているものの、バラバラだった演奏が、天才が一人加わったことでみるみる変化する様にも、一人の世界で音楽と向き合ってきた天才が他者と音楽を作り出す喜びに目覚める笑顔にも、ワクワクした。

 それでも舞台に上がることを拒む初音の背中を押したのが、奏奈だ。互いに相手を思い、自分を後回しにしてきた姉妹が思いをぶつけ合い、わだかまりが解消――まるで最終回のような高揚感である。

 第一話が良すぎて不安を感じたほどだが、以降、団員たち一人ひとりの背景が丁寧に描かれていく。

 遅刻魔のフルート・蒼(坂東龍太)は、親の反対を押し切り、奨学金で音大に入学したため、玉響に入団しつつバイトを掛け持ちしていたこと。ヴィオラのみどり(濱田マリ)は、大学受験を控えた娘とうまくいかず、夫には音楽を「仕事」と認めてもらえず、家庭とオケの両立に悩んでいたこと……。

 そんな中、団員たちを引き留めたり、支えたりすることには必死に、大胆になれるのに、自身は「天才」のくせに目立つのが苦手で、落ち込みやすい初音のクヨクヨ具合が実に人間らしい。

 また、そんな「天才」と自身を比較し、才能の差に落ち込んだり、羨んだりしつつも、音楽をもっと好きになり、自身に誇りを持ち始める団員一人ひとりが、愛おしい。クセ強メンバーたちを愛情深く見守り、ときにはボロボロになりながら支える事務局長・小野田(岡部たかし)も、「敵」ながら憎めない本宮も、みんな魅力的だ。

 さらに、天才マエストロ・朝陽にとって、初音が特別な存在であることも明らかになる。朝陽が過去に団員たちに嫌がらせを受け、挫折しそうになっていたときに勇気を与え、音楽の世界に引き戻したのが、ヴァイオリンを楽しそうに演奏していた当時12歳の初音だったのだ。

 そんな初音もまた、仲間を、自分を信じることにより、過去のトラウマを乗り越えることができたのが第7話。初音にステージに立つ資格がないと冷たく言い放った三島(永山絢斗)が、自らの「挑発」で初音が完全復活する様を見た瞬間の、本当に嬉しそうな笑顔にも胸が熱くなる。

 そしてなんといっても、本作の魅力は「音楽愛」に溢れていること。

 門脇麦は実際に譜面を丸ごと暗譜し、演奏時の指の動きなど完璧にこなしているそうで、「天才」を表現する大きな説得力になっている。また、清塚信也が監修を務めるストーリー展開と楽曲のリンク具合も心地良い。ちなみに、SNSの動画を見ると、中の人が漏れなく好きになるし、公式サイトの「豆知識」では各楽器の音を聴くこともできる。

 演者と作り手が本気で楽しんでいる様子が伝わる音楽愛溢れるドラマを、あらゆる方面から味わい尽くしてみたい。

今回ご紹介した作品

リバーサルオーケストラ

放送
日本テレビ系列にて毎週水曜よる10時~放送中
配信
TVerにて第1話~3話と最新話を無料配信中
Huluにて全話配信中

情報は2023年3月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

週刊テレビドラマTOPへ