田幸和歌子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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往生際の意味を知れ!

2023/5/18配信

映像も音楽も芝居も痺れるほどにカッコいい渾身作

 ※本文中に、第1~3話のネタバレ要素を含みます。ご注意ください。(編集部注)

 コロナ禍以降、増え続けているドラマ枠。配信オリジナルドラマも充実しているし、多すぎてどれを観れば良いのか迷う人は多いだろう。

 そんな中、地上波連ドラで攻めた作品に出合いたい人の一つの指針として勧めたいのが、「製作委員会」方式のドラマだ。

 例えば、近年では『シジュウカラ』や『雪女と蟹を食う』(共に2022年)や『今夜すきやきだよ』『シガテラ』(共に2023年)など話題作を多数生み出してきた、テレビ東京の「ドラマ24」。さらに刺激的な作品が多いのは、MBS(毎日放送)の「ドラマ特区」「ドラマイムズ」だ。

 中でもコロナ禍以降で、こうも熱い作品があったかと思わされたのが、米代恭の中毒者続出の同名漫画を原作に据えた、MBS「ドラマイズム」の『往生際の意味を知れ!』だ。

 W主演は、加藤拓也脚本の『きれいのくに』(NHK総合/2021年)の見上愛・青木柚のタッグ。脚本は『シジュウカラ』や『ロマンス暴風域』(MBS/2022年)などの開真理。監督は『日本ボロ宿紀行』(テレビ東京/2019年)や『ムショぼけ』(ABCテレビ/2021年)『東京放置食堂』(テレビ東京/2021年)などのアベラヒデノブ。

 なぜ製作委員会方式のドラマが攻めているかというと、映画作りと同様、スポンサーへの配慮やお付き合い事情がないだけに、原作の世界観と実写化する意義を大事にし、作品作りへの妥協のなさが見られるものが多いから。その点、本作は冒頭から映像も音楽も芝居も痺れるほどにカッコいいのだ。

 主人公は、国民的エッセイ漫画「星の三姉妹」の著者・日下部由紀(山本未來)を母に持つ謎の美女・日下部日和(見上)と、7年前に別れた元カノ・日和を忘れられず、執着し続け、日々元カノの写真や映像を摂取するエネルギーでのみ生きていた市役所職員・市松海路(青木)。海路は学生時代に日和を撮った映画で大きな賞を受賞していたが、日和を失って以来映画が撮れなくなってしまっていた。そんな海路はある日、落雷で自宅が全焼したことから、自身を生かし続けてくれた元カノとの思い出が全て灰になってしまい、全てを失ったために自殺を試みる。しかし、そのとき元カノから電話が……。

 最初は元カノに執着し続ける男と、振り回す小悪魔美女の話かと思えば、そんな生易しいモノじゃない。何故なら、突然海路の前に再び現れた日和は、出産ドキュメンタリーを撮ってくれと言うのだ。しかも、日和は結婚しておらず、それどころか妊娠もしていない。海路の精子が欲しいが、SEXはしない。生まれて来る子の扶養も認知もしなくて良い、父親は要らないが、子どもは欲しい――そんな荒唐無稽な依頼の目的は、実は「母親への復讐」だった。

 自分が妊娠することで、自ら母のエッセイ漫画「星の三姉妹」にネタを提供して世間の注目を浴び、と同時に海路の撮る出産ドキュメンタリーによって母がこれまで行ってきた数々の嘘と夫(日和たちの父)殺しの罪を暴くこと、「星の三姉妹」の“ひよりん”を消し去り、自分の人生を歩むことが狙いなのだという。

 まず圧倒されるのは、見上愛の口角は綺麗に上がっているのに全く目が笑っていない、冷たく遠くを見る微笑み。開真理が原作の日和を見て「アルカイックスマイル」と命名したというが、最初は何を考えているのかわからず、視聴者も海路と一緒に翻弄される怖さと楽しさがある。一方、翻弄され、目を泳がせ、挙動不審になる青木柚扮する海路は、一見情けない男に見え、むしろ強欲で、内面的には日和よりももっと狂っているように見える。
 そんな海路を見て、話を聞いて、「ヤバイ」と三日月目で笑い、楽しんでいたはずが海路にのめり込んでいく同僚・八幡典子(樋口日奈)も、海路を慕う大学時代の後輩で人気俳優の榊田(三山凌輝)も、日和の二人の妹(安西星来、宮﨑優)も、日和たちと復讐の共謀する叔母(遊井亮子)も、一人残らず何かに並々ならぬ執着心を抱き、往生際が悪く、狂っている。にもかかわらず、そんなみっともないほどの執着や、狂気も感じさせる欲望、業の深さに人間臭さがあって、それぞれに愛おしく思えてきてしまうのだ。

 そして、そんな一人一人の背景や心情が徐々に見えて来るにつれ、物語自体が復讐モノから毒親モノ、サスペンス、ホラー、恋愛へと、その色をくるくる変えてみせる。毎回どこに連れて行かれるのか全く予想のつかない、行き先不明・ジャンル不明の刺激的な展開と、生々しい芝居の掛け合いに引き寄せられ続けるのだ。

 思えばコロナ禍以前は、連続ドラマに「刑事モノ、医療モノ」だらけ&「一話完結」だらけだった時期が長らく続いた。今ももちろんそうしたわかりやすいドラマは健在だが、エンタメの需要が高まり、ドラマ枠も増加し、様々な意欲作が生まれてくる中で、脚本と役者と演出がフル出力で情熱を注いでくる本作のような作品がときどき登場する。
 この顔触れで、今この瞬間にしか生まれなかった、圧倒的熱量の渾身の作品『往生際の意味を知れ!』の余韻からまだまだ抜け出せない。

今回ご紹介した作品

往生際の意味を知れ!

配信
Huluにて全話配信中

情報は2023年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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