田幸和歌子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

>プロフィールを見る

リクエスト

姪のメイ

2023/10/06配信

わかりやすさを拒否した噛み応えたっぷりのヒューマンコメディー

 自然豊かな癒しドラマか、心温まるヒューマンドラマか、被災地復興支援ドラマか――そんな思いで本郷奏多×大沢一菜W主演の『姪のメイ』(テレビ東京系)を観た人は、いきなり肩透かしを食らうだろう。

 そのいずれでもあって、いずれでもない。本作は、合理主義で現代的な都内在住の32歳独身・叔父の「小津」(本郷)が、姪の「メイ」(大沢)をお試しで引き取ることになり、1ヵ月間だけ福島に仮移住するという物語だ。

 叔父×姪の絶妙な距離感により引き出せることや、与え合う影響については、金子茂樹脚本×生田斗真主演、清原果耶出演の『俺の話は長い』(日本テレビ系)に、ドラマの新たな鉱脈を見た気がしていた。本作もそうした系譜だろうと思いきや、同居のきっかけは小津の姉夫婦でメイの両親の死という、かなりヘビーなもの。

 それでも、メイは泣くわけでも混乱するわけでもなく、無邪気に(?)遊んでいる。それを親戚たちが訝し気に見ていると、「葬式ハイ」という言葉で説明する小津の “おとなこども”感。数々の人気漫画の実写化をはじめ、宇宙人や人造人間、天邪鬼など、これまで“人ならざる者”を多数演じてきた本郷奏多だが、本作では、姪にとっては近いようで遠い、ある種の宇宙人的距離感の叔父が想定以上にハマっている。

 一方、視聴者をざわつかせたのは、メイを演じる大沢一菜。主演映画『こちらあみ子』で鮮烈な印象を残した大沢だが、いまどきの「芝居の達者な子役」たちとは一線を画している。なにしろ「両親を亡くした女の子」の悲哀はなく、かと言って「健気で明るくたくましい」わけでも、自暴自棄なわけでもなく、叔父を「小津」と呼び捨てしているからと言って、下に見ているわけでもない。大人のようで子どものようで、無邪気なようで冷めているようなメイ。「人はいつどうなるかわからない」「他人を変えようとしない。他人に期待しない」と達観しているのは、おそらく哲学好きだった両親の影響もあるのだろう。

 彼女の境遇を気の毒がりたい人や、強く生きる姿に感動したい人などにとっては、このメイという子も、あまりに自然体で、道端に生えた誰の手も入っていない野草のような大沢一菜も、この作品自体も、正直どうとらえて良いのかわからず、感情のカテゴライズができずに戸惑うことだろう。

 そして、そのカテゴライズできない感覚は、本作のロケが行われた福島12市町村を取り巻く状況にも近い気がする。

 小津が都内1ルームで姪を預かるのは手狭なため、部屋を探す中、女性の上司に紹介されたのが、福島にある平屋の借家がだった。しかし、「福島ってさぁ……なんか、いいのかなぁって思っちゃうな、どうしても。中でも大変だった場所」と戸惑う小津に、メイは言う。 「だからいいじゃん。やれることがいっぱいある」

 実際、小津とメイが移住者コミュニティーで出会う人々は、ロボットの開発者や、東京の暮らしに息苦しさを感じていたハンドメイド作家と「隣でそれを見ている」友人(後にスナックを開業)、ロケ地誘致のために地元住民を巻き込んだドラマを作ろうとする自称「若手天才起業家」(ネットでは「脳ナシのボンボン」と揶揄される)など、さまざま。

 そこも美しい動機があるわけではなく、ドラマチックな挫折を抱えているわけでもなく、みんな思い思いに小さく自己矛盾を抱えている。

 ドラマ出演に抜擢され、「大女優が出ちゃうかも!」とはしゃいでいたメイが、監督に何度もNGを出された挙句、交代させられると「やってしまった……プロデューサーとコネを作っておくべきだった。こうして人間はチャンスを逃していく」と呟くのも、「子ども=純粋、可愛い、天使」と思いたい大人たちの平和をぶち壊す。

 その一方、「現実的」「合理的」を自負する小津が、メイや福島の人々との交流を通して、着実に変化してきている。最初は「つなぐとか、コミュニティとか、意識高いっスね」と冷笑気味だった小津が、メイに勝手に申し込みをされて、婚活パーティに参加したり、畑を手伝ったり。遅い時間にメイが外出し、姿が見当たらないと、一人必死で探しに行き、呑気に帰って来たメイに心配したと怒る。「家族」としての意識が芽生えてきていたのだ。

 そして、「他人を変えようとしない。他人に期待しない」と言っていたメイもまた、必死で自分を探し、真剣に怒る小津に「かっこよかった、嬉しかった」と呟くようになる。

 わかりやすさを拒否した、噛み応えたっぷりのヒューマンコメディー『姪のメイ』の作り手は、ギャラクシー賞を受賞したドラマ『直ちゃんは小学三年生』(テレビ東京)シリーズを手掛けた青野華生子プロデューサーの企画・プロデュース作と聞くと、妙に納得。

 人は自分が見たいように見ようとするが、真実はもっとずっと複雑で矛盾を孕んでいて、だからこそチャーミングであることを改めて思い出させてくれる作品だ。

今回ご紹介した作品

姪のメイ

放送
テレビ東京系、BSテレ東、福島テレビで放送中
配信
Amazonプライムビデオ、U-NEXT

情報は2023年10月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

週刊テレビドラマTOPへ