田幸和歌子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

>プロフィールを見る

リクエスト

おいハンサム!! 2

2024/4/24配信

令和の頑固おやじと三姉妹の「日常系」コメディ

 続編&映画化が発表されたとき、SNSの一部に歓喜の声が溢れた。吉田鋼太郎主演の連続ドラマ『おいハンサム‼』(東海テレビ・フジテレビ系)の話である。

 同作は、吉田演じる「令和の頑固おやじ」伊藤源太郎と、家族を見守り(受け流し)つつ一家を取り仕切る妻・千鶴(MEGUMI)、幸せを求め、さまよう3人の娘たち(木南晴夏、佐久間由衣、武田玲奈)の恋×家族×ゴハンをめぐるホームドラマだ。

 実は秀作の多い東海テレビ「土ドラ」だが、2022年にシーズン1がスタートした当初の注目度は高いとは言えなかった。自分自身、毎年とある媒体で発表している年間ベストドラマで1位にしたときも「偏愛ドラマ」と思っていた。しかし、「Filmarks」(映画やドラマの情報・レビューサイト)では2022年上半期国内ドラマ満足度第一位を獲得、数々のドラマ賞も受賞。知らない人は知らないが、1度観たことのある人は伊藤家の魅力にハマり、1話55分が体感15分程度に思える不思議な楽しさなのだ。

 実は非常に難度の高いことをやっている技巧派の作品で、それを成立させているのが器用な役者陣・そして本作の脚本・演出・プロデュースを手掛ける鬼才、『ランチの女王』や『きらきらひかる』シリーズから『闇金ウシジマくん』シリーズ山口雅俊の手腕だ。

 例えば、シーズン2第1話の冒頭。1組のカップルと三姉妹がそれぞれ時間差ですれ違う。

 三女・美香(武田玲奈)は「なんか初々しくていいなあ、一番楽しい時期だよねえ」と言い、次女・里香(佐久間由衣)は「堂々と不倫かよ! 大丈夫かー、わが国は‼(大声)」、長女・由香(木南晴夏)は「はぁ~、発情してんなあ(中略)誰もお前らのことなんか見てねーよ。いや、めっちゃ見てるか?(終始ブツブツと独り言)」。

 また、時間差で帰宅した三姉妹は、冒頭に巻き戻し、観そびれたドラマを「全録」で再生する。

 美香は「いるんだよなぁ。こういう優柔不断な男が。許さんぞ!」と憤り、里香は「出たよ、しかもコイツ、別の女と結婚してんだよなぁ。(中略)。イイ男は売れちゃってんだよなあ、チキショー!」と公私混同にキレ、由香は「贅沢言ってんじゃないよ。いいじゃん、カラダ目的。カラダ目当てにされるだけいいじゃんよ」とぼやく。

 このわずかなシーンの反復のみで、初めて観る人にとっては三姉妹のキャラが、前作からのファンには2年間のそれぞれの変化と近況がサラリと提示される。実に巧い導入だ。

 モテなくなった由香は、近所の独身女性・大杉さん(富田靖子)に自分の未来を重ねて不安を抱いていた。また、不倫されて離婚した里香は不思議な男性(藤原竜也)に出会い、惹かれるが、既婚者であることが発覚。美香は頼りない彼氏・ユウジ(須藤漣)が売れっ子漫画家になり、婚約中だが、ストーカー女に対する優柔不断な対応に苛立ちを抱えている。

 そんな三人三様の恋模様の真ん中を貫く柱が、第1話ではコルセットを首に巻いた源太郎だ。首を寝違えた源太郎は、娘たちがまだ幼い頃に使用した古いコルセットを千鶴が持って来たことで、手術後にカラーを巻いたワンコ状態になっている。威厳を保とうとしても、娘には「(コルセット)似合う」とイジられるし、仕事中には部下もプレゼンをする業者もみんな源太郎の目ではなく、首を見て説明する。おまけに、コルセットには幼少期の娘たちのサインのような落書きまである。

 視界が狭まり、不自由だが、それにより普段なら見逃してしまうような部分に目が行く源太郎。身なりも態度もシュッとした業者が、SDGs関連のプレゼンなのに、自分が持ち込んだ飲みかけのペットボトルを放置して行ったことや、逆に地味でボソボソ喋る業者のポケットがふくらんでいたことが妙に引っかかる。実は立派に見える前者は、AI作成のプレゼン資料を読んでいただけだったこと、逆に地味な後者は、ポイ捨てされたペットボトルを見逃せず、拾っては捨てられる場所まで持って行くためにポケットが膨らんでいたことが判明する。

 一方、由香が自分の未来を重ねて勝手に不安になっていた大杉さんは、かつて看護師をしていて、源太郎のコルセットも大杉さんからもらったものだったこと、看護師だったキャリアを生かして自宅でできる仕事をしており、昼から蕎麦屋で日本酒と天抜きを頼み、「自分の好きなように楽しんでいる」人だということがわかる。

 毎回恒例「伊藤家リモート会議」のこの日の「ハンサム格言」では、人は見た目ではわからないこと、安易に人を見くびってはいけない、気の毒に思った人が私達よりずっと幸せだったりするかもしれないことが語られる。

 娘たちの日常を源太郎は当然知る由もない。しかし、バラバラに散りばめられた一見カオスなエピソードが毎回格言と心地良くつながり、実に深い。

 小ボケ満載の「日常系」コメディのようでいて、スルーされがちな小さな引っ掛かりをすくいあげる繊細さとそれを言語化して「あるある」の共感に落とし込むロジカルさ、不意に人生の本質を突いてくる技アリドラマなのだ。

今回ご紹介した作品

おいハンサム!! 2

放送
東海テレビ・フジテレビ系で土曜23時40分~
配信
FOD、TVerほか

情報は2024年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

週刊テレビドラマTOPへ