田幸和歌子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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クラスメイトの女子、全員好きでした

2024/10/4公開

文学賞受賞作が盗作!? 笑って泣ける青春群像ドラマ

 ただ楽しく、登場人物全員が魅力的で、笑いながら観ていたはずが、不意に涙腺を刺激されたり、意外な学びがあったりする技巧派ドラマがときどき登場する。単に美味いから食べていただけなのに、実は栄養豊富で、手のこんだ料理だったみたいな予想外の出会いは嬉しい。

 近年では、例えば『おいハンサム‼』(東海テレビ制作・フジテレビ系)がその一つだが、その系譜にある名作がまた1つ生まれた。爪切男によるエッセイを基にオリジナル要素を加えた木村昴主演の『クラスメイトの女子、全員好きでした』(読売テレビ制作・日本テレビ系)だ。

 主人公・枝松脛男(木村昴)は、害虫駆除のアルバイトで生計を立てる小説家志望の37歳独身男性。そんな彼の小説『春と群青』が新人文学賞を受賞するが、そのアイディアは‟盗作”だった。

 半年前、脛男のもとに中学時代に埋めたタイムカプセルの中身が届いた。中には、懐かしい品々と共に、見覚えのない1冊のノートが。表紙には『春と群青』の文字が、中身は‟女子っぽい字”で書かれた恋愛小説が書かれていて、脛男は出来心で盗作してしまう。ところが、その小説が新人文学賞を受賞、激推しした片山美晴(新川優愛)が担当編集となり、小説を連載することに。そこから、脛男はノートの持ち主である‟真の作者”を探しつつ、中学時代に恋したクラスメイトたちの思い出を回想、小説を紡いでいく。

 脛男の愛すべきところは、すぐさま隣人でバイトの後輩・金子(前原滉)にも片山にも盗作を打ち明けてしまう正直さ。ダメ具合と正直さ、優しさの良い塩梅を木村昴が好演している。

 また、驚いたのは、「才能クラッシャー」と呼ばれる、元「売れっ子ワガママ子役」の編集者・美晴を演じた新川優愛の受けの芝居とコメディの巧さ。そこに、コメディの好手・前原滉が加わり、脛男の家でくつろぎ、ダベるトリオ芸はテンポも実に良い。
 脛男の秘密を知り、足を引っ張るのかと思いきや、美晴を下に見ていた‟しごでき”編集者・猫魔(結城モエ)は頼もしく、事なかれ主義でなぜか首相に似ている編集長(阪田マサノブ)も良い感じにイラっとするおかしみを加えている。

 この物語の原点にあるのは、元学生アマチュアレスリングの猛者で、借金に追われながら内職をし、男手一つで脛男を育てる富士夫(皆川猿時)。ダメ親父で、顔や家柄で女の子と恋はできないだろうと脛男にややモラハラ発言をする一方、女の子たちの顔や話したこと、過ごした時間をずっと覚えておけ、それはお前が大きくなったら財産になるとアドバイス。脛男の‟才能”の育ての親でもあった。

 回想シーンに登場する、「インポッシブル」と言うとき大量のツバを飛ばす担任(チャンカワイ)も愉快だが、何より素晴らしいのは、200人超のオーディションで選ばれた中学生たち。特に全員一致で選ばれたというスネオ役・及川桃利の豊かな表情、全身を使った愛嬌たっぷりの表現力は傑出している。本作がドラマ初出演という恐るべき逸材だ。

 毎回クラスメイトの女子に恋に落ちる展開は『男はつらいよ』の寅さん的でもあるが、スネオの素晴らしさは、一般的に欠点とされたり本人的に黒歴史としたりしがちな個性に魅力を感じ、恋するところ。スネオがどのクラスにも、どの集団にもいたら、クラスからいじめが、世界から差別が大幅に減るんじゃないかと妄想してしまうほど多様性の時代を先取りした、人間愛に満ちた人物だ。

 そんなスネオが恋するのは、ベルマーク委員でいつも寝てばかりの女子や、長身+短髪でプロレス技が得意だった女子、よくゲロを吐いていた女子、乙女の不登校児、霊感少女、嘘つき少女など。どのエピソードのディテールも、演じている役者陣もリアリティがあり、なおかつ魅力的だ。

 これらエピソードは爪切男のエッセイによるものだが、驚いたのは、「盗作してしまい、真の作者を探す」という縦軸の物語はドラマオリジナルだということ。また、毎回大人になったクラスメイトとして石田ニコル、剛力彩芽、田辺桃子、土村芳、長井短、中村静香、野呂佳代、橋本淳という豪華な顔触れが登場するにもかかわらず、半分くらいの尺を中学生の回想シーンに割いていること。

 視聴者が頭を使わず楽しくスイスイ観られてしまうのは、手間のかかったオーディションと、構成力と技術力とセンス、作り手たちの良心の賜物なのだ。本作のプロデューサー・矢部誠人は、『自転しながら公転する』『彼女たちの犯罪』『Nスぺドラマ こもりびと』などを手掛けてきた人で、チーフ監督・綾部真弥は『おいしい給食』シリーズを手掛けている人。知ると納得の布陣である。

 本作や先述の『彼女たちの犯罪』をはじめ、ときどき秀作が飛び出す読売テレビ制作の木曜ドラマ。ただ1つ希望を言うなら、月曜10時のフジテレビ系に関西テレビ放送制作ドラマがあるように、日本テレビでもゴールデンプライム枠に読売テレビ制作枠を作って欲しいものだ。

今回ご紹介した作品

クラスメイトの女子、全員好きでした

配信
Huluにて配信中

情報は2024年10月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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