田幸和歌子さんのドラマ批評 - ユミの細胞たち

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ユミの細胞たち

2026/8/21公開

閲覧回数30億回を超える大人気ウェブ漫画を実写化

画像:ユミの細胞たち 1

(c) 2026 TVING Co., Ltd & Studio Dragon All Rights Reserved

 4月13日から独占配信が始まった「ユミの細胞たち」シーズン3をもって、2021年に始まったユミの物語がひとつの区切りを迎えた。ディズニープラスではシーズン1・2も含め、全話が見放題だ。原作は、韓国の漫画家movin' Gun(本名イ・ドンゴン)による同名ウェブトゥーンで、海外累計閲覧回数は30億回を超える。韓国で初めて実写と3DCGアニメーションを融合させた作品でもある。以下、結末までのネタバレを交えながら振り返りたい。

 本作の核となっているのは、感性細胞、理性細胞、愛細胞、腹ペコ細胞といった無数の細胞やホルモンが、ユミの選択を左右する存在として可視化されている点だ。気に入ったワンピースを買ったことから「これを着ていく場所がない」とプーケット旅行を思い立ち、どうせならと靴を新調し、パーマまでかけて3か月分の給料を使い果たしたファッション細胞が監獄に入れられるくだりなど、細胞の構成要素や力関係が人それぞれ異なる設定も面白い。恋愛ドラマでありながら、お金の使い方、仕事への向き合い方、プライドの持ち方まで突きつけてくる。主演のキム・ゴウンは出演作にハズレがなく、本作でもユミという一人の女性の揺れ動きを説得力を持って演じている。

 ユミは理性細胞より感性細胞が強く、愛細胞がプライム細胞として君臨するタイプだった。シーズン1で交際したゲーム会社経営者のク・ウン(アン・ボヒョン)をめぐっては、彼に昔から思いを寄せる同僚セイ(パク・ジヒョン)にマウントを取られ続け、ウンがそれを見ないふりをしていたことが尾を引く。それでも別れなかったのに、メッセージのやりとりがそっけない状態が続いたことでふと冷静になり、それが別れの引き金になった。傍から見ると「そんなことで?」という小さな原因は、いかにもリアルだ。

画像:ユミの細胞たち 2

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 結婚観の変化も見どころのひとつだ。元カレから結婚の予定を聞かされたユミは、とっさに来年結婚すると見栄を張ってしまう。居合わせたウンは話を合わせたが、実際には結婚への思いを心の奥に沈めていた。のちに業績不振で困窮したウンを知り、自宅に住まわせる。結婚を切り出すと、ウンは黙り込み、以来ユミは意識しないふりをする。ウンも同居を心地よく感じていたが、先の見えない仕事とお金の問題で答えを出せずにいた。シーズン2で会社を立て直したウンはユミに気持ちを伝えようとするが、そのときすでにユミの心はボビーにあった。

 シーズン2の相手は会社の同僚ユ・ボビー(ジニョン)。ウンとの交際中はまったく恋愛の対象外だった相手が、傷ついた自尊心を回復させてくれる存在に変わっていく。ボビーはユミの文才を見出し、退職して小説家を目指すよう導き、見守ってくれた恩人でもあった。だがボビーの済州支社への異動による遠距離恋愛の中、現地インターンのユ・ダウン(シン・イェウン)からの告白に彼の心が揺れたことを知る。明確な浮気ではないのに許せず、別れを決意する。心が揺れたきっかけが上着やマフラーを貸すという無意識の行動だったこと、それが自分との恋の始まりと重なって思い出される。振り返れば、才能を認めてくれた相手から、一方的に与えられるばかりだった恋でもあった。この恋の終わりの苦しさに、ユミはプライム細胞の座を愛細胞から作家(仕事)細胞へと譲る。

画像:ユミの細胞たち 3

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 細胞の制御方法は人物ごとに異なる。ユミの細胞は個々の力が強く、それぞれが好き勝手に動く。一方ウンの細胞村には「Yes or No」のアルゴリズムで判断するメインコンピューターが備わり、片付けの得意さも合理的な判断の結果として描かれる。ボビーの細胞村は理性・感性・愛の細胞が一体化し、争いが少ないぶん、心の揺れは村全体を揺るがす地震として表現される。ダウンへの一瞬の心の揺れは「激震」だった。シーズン3のスンロク(キム・ジェウォン)の細胞村には、29年かけて積み上げた「ルールの塔」がそびえ、規則が破られるたびにブロックが崩れていく。頭では分かっていても心が動かない部分、逆に理性で止められない部分を、誰もが抱えている。分かり合えない他者理解の手がかりが、こうした違いで表現される。

 シーズン3のユミは売れっ子作家になり、恋愛からも心の揺れからも遠ざかった凪の日々を送っている。作家細胞以外はやることを失い、休眠状態だ。そこに現れるのが、甘いマスクとは裏腹に辛口な新人編集者スンロク。失礼な物言いに腹を立てるうち、眠っていた細胞たちが次々と目覚め始め、気づけばずっと不在だった愛細胞までもが動き出す。

画像:ユミの細胞たち 4

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 3シーズンを通して描かれてきたのは、恋愛の甘さだけではない。お金の使い方に表れる自己肯定感、仕事への向き合い方に映る自尊心、対等ではない関係で搾取される優しさ。ユミの一喜一憂は、働く女性が日々直面する感情の揺れそのものだ。細胞という可視化装置が、言語化しづらい心の動きを誰の目にも見える形にする。だからこそ本作はラブコメの枠を超え、共感を集めてきたのだろう。

今回ご紹介した作品

ユミの細胞たち(シーズン1~3)

配信
シーズン1&2ディズニープラス スターで全話配信中
シーズン3ディズニープラス スターで見放題全話独占配信中

情報は2026年8月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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