田幸和歌子さんのドラマ批評 - リラの花咲くけものみち2

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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リラの花咲くけものみち2

2026/9/4公開

獣医師を目指して試練に立ち向かう

 獣医学部を舞台にした名作といえば、佐々木倫子の『動物のお医者さん』(漫画雑誌『花とゆめ』にて連載)を思い出す人が多いだろう。1987年からの連載はハスキーのブームと志望者の急増を招いた。動物が好きな気持ちを進路にまで押し上げた。だが、その気持ちだけでは立っていられない場所が獣医学の現場にはある。本作が向き合うのはそこだ。何度もえぐられる。

『リラの花咲くけものみち2』(NHK総合)が8月22日に始まった。原作は藤岡陽子の同名小説(光文社)。2025年2月に全3回で放送された前作の続編だ。

 主人公の岸本聡里(山田杏奈)は、人と目も合わせられない元引きこもりの娘だった。小4で母を亡くし、父の再婚後は継母に愛犬パールを捨ててこいと言われる。学校に行っている間に捨てられるのが怖くて行けなくなった。本当は行きたかったのに、中学の3年間をパールと部屋で過ごした。高校はチャレンジスクール。祖母のチドリ(風吹ジュン)に引き取られ、動物の医者になる夢を得て北農大学へ入る。だが、同室の梶田綾華(當真あみ)に「キモい」と言われ、聡里は勇気を出して理由を尋ねる。それは、毎晩ベッドの下から出す箱の中身が、パールの骨だったからだ。パールは合格発表の日に、合格だけを見届けて死んだ。その骨を聡里は連れてきた。話してみれば、ちゃんと受け止めてくれる。人づきあいの苦手な孫を案じるチドリに、寮長の静原夏菜(石橋静河)は、動物が好きなら人も好きなはずだと伝えた。

 しかし、大学で待っていたのは、生い立ちとは別の種類の過酷さだった。馬のフェアリーの出産で、聡里は生まれてくる子馬にスノーパールと名付ける。ところが胎児は産道で引っかかり、能見(甲本雅裕)は母体を守るために胎児を切断する道を選ぶ。「やめて! 殺さないで!」と絶叫する聡里に、夏菜は「獣医師を目指すのはやめたら?」と告げた。実は夏菜の父も獣医師だった。命の選択を迫られる仕事に心を病み、退職後に自ら命を絶っている。好きでなければ続けられない仕事は、好きであるがゆえに人を追い詰める。

 落ち込んで祖母の家に戻った聡里を、綾華が帰省のついでと言って訪ねる。渡り鳥を追いかけていたらと言って残雪(萩原利久)も現れる。スイカを食べて笑い合う。それだけのことが、不登校だった聡里には奇跡だった。前作は春から冬、また春へと季節がめぐる。動物と人、命に向き合うたびに、聡里の表情も仕草も変わっていく。そうした変化には、山田が聡里として過ごした時間がそのまま映っているようで、ドキュメンタリーを観ている気分になる。前作の終盤、聡里はチドリの最期に間に合わず喪主を務めた。

 はまり役は山田だけではない。とげのあった綾華も、聡里に思いを寄せる残雪も、先輩の加瀬一馬(佐藤寛太)も、それぞれに成長、関係性も変化していて、愛おしい。続編ではまた会える嬉しさが先に立つ。家畜保健衛生所の職員・犬飼健太郎役で上川隆也も加わった。

 続編の聡里は5年生。任される仕事も増えたが、猫を置いて行こうとするカップルに説教してしまう。相手は迷い猫を拾って届けてくれた観光客だ。動物に寄り添いすぎると視野が狭くなる。事情を確かめる前に、動物のことだけで動いてしまう。視野を広げろと、聡里は言われ続けている。

 突きつけられるのは、救えない命だ。妊娠したと連れてこられた犬キナコに腫瘍が見つかる。その場で告げた聡里は、飼い主の気持ちを置き去りにするなと叱られる。野崎(竹原ピストル)は妻を亡くし、保護犬のキナコと2人で暮らしてきた。進行は早い。痛みがひどくなる前に楽にしてやってほしいと決める。獣医師は命を救う仕事であり、命の終わりに立ち会う仕事でもある。ナナカマド動物病院の院長・久恒先生(山﨑静代)が、そう聡里に告げる。頑固なキナコは納得しないと尻尾を振らない。穏やかにいかせてやりたいと野崎が伝えたとき、その尻尾が動いた。最後の散歩で、野崎は「ありがとな」と繰り返す。生かしたい側と終わらせたい側が、同じ愛情から向き合う。

 やがて聡里たちは国家試験を突破する。能見のもとで働き始めた聡里の前で、出産を助けた子牛サトの牧場に口てい疫が出る。山田は宮崎県で対応に当たった獣医師に話を聞いて撮影に臨んだという。劇中には「赤字の命は救わない」という方針の病院も出てくる。母が拾った猫の治療に30万円かかったと語る人もいる。息子は母を叱ったが、猫が戻ると泣いて母は喜んだ。前作では、聡里が助けた捨て犬が供血犬になった。一生大事にされる犬もいれば、捨てられる犬も、他の犬を救う犬もいる。命をどこで諦めるかを決めるのは獣医師の覚悟ではない。経営であり、家計であり、防疫である。好きを仕事に、という言葉の軽さを突き崩す。

 朝ドラで観たいという声も多い。ただ、2027年度後期の連続テレビ小説『なぎさの進化論』が史上初の獣医師ヒロインを掲げる。比較される分、ハードルは上がるのではないか。

今回ご紹介した作品

リラの花咲くけものみち2

放送
NHK総合にて毎週土曜22時~放送中
配信
NHKオンデマンドにて配信中

情報は2026年9月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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