辛淑玉さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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花様衛士~ロイヤル・ミッション~

2022/11/18公開

本格推理と恋の行方に目が離せない中国ミステリー時代劇

 若い頃世界22カ国を貧乏旅行した経験のある故小田実さんにアジア各国の民族性について尋ねたとき、比喩的に面白く語ってくれたことがあった。

「宴会の席で、酒を飲む前から踊りだすのが朝鮮人、飲んで酔ったら踊りだすのが日本人、飲んでも酔わずに、じっと席で全体を見ているのが中国人」と。

 実はこれ、ドラマの組み立てでも同じような違いがある。たとえば復讐劇の場合、韓ドラなら敵と出会った瞬間、チャンスとばかりにさっさとケリをつけようとする。日本の時代劇なら、「お上」が出てきて悪を成敗するというように、その勝負も保険付きだ。

 しかし、これが華流ドラマだと、目の前に復讐すべき宿敵がいても「まだ時期ではない」と言って何十年、下手したら世代を超えて待ったりするのだ。そう、『宮廷の諍い女』で見られるような、気の遠くなりそうな奥深さが華流ドラマの醍醐味の一つなのだ。

 しかしそのせいで、最初からちゃんと観ていないと人間関係が分からず混乱することも多い。

 なので、こうなってあーなってこうなってと、「風が吹けば桶屋が儲かる」式の想像を毎回強いられるのはさすがに疲れるという人には「ロイヤル・ミッション」をお勧めしたい。何も考える必要がなく、えげつない場面もなく、スカッと爽やかに毎回爆笑できる、ラブコメミステリーの王道ドラマなのだ。

 明朝時代の1558(嘉靖37)年、朝廷では厳嵩・厳世蕃の父子が裏の支配者として我が物顔にふるまっていた。

 当時、海賊の出没に悩まされていた朝廷は、盗まれた機密文書(沿岸防衛地図)の調査を特務機関「錦衣衛(皇帝直属の秘密警察・軍事組織で禁衛軍の一つ)」のトップである陸繹/りく・えき(任嘉倫/アレン・レン)に命じる。

 その捜査の中で、陸は監察機関「六扇門(刑部、大理事、都察院の総称)」の優秀な捜査官・袁今夏/えん・きんか(譚松韻/タン・ソンユン)と出会う。

 錦衣衛と六扇門は、米国で言えばCIAとFBIのようなもので、ライバル関係にある。CIAの超エリートとFBIの現場叩き上げの庶民派みたいな二人が、相棒として一緒に事件解決を目指す中で、互いに惹かれ合いながらも噛み合わず、丁々発止のやりとりを繰り返しつつ影の権力者厳世蕃に対抗してあらゆる難題を解決していく。

 しかも、やっと二人が相思相愛であることを確かめあった途端、袁今夏の一族を崩壊に導いたのが他ならぬ陸繹の父親であったことが判明するというどんでん返し。これ、「おお、来たかぁ」と声が漏れるほど、鉄板ラブコメの王道パターン。もちろん、華流・韓流お約束のお風呂シーンもある。

 二人の関係の描き方がニクいのは、袁今夏が酔っ払って「実は(陸繹を介抱しているときに)キスしたことがある」と言ってはしゃぎだすと、陸繹が「記憶にないので、なんだったらもう一度キスしてみてはどうか?思い出すかもしれない」と迫るシーン。このとき、カメラがアップして目だけになるという、華流ドラマの眼差し演技が炸裂するのだ。

 まぶたを閉じるだけで意味を持たせるっていうのは、まさに華流俳優さんの独断場。

 主演のアレン・レンは、韓国での練習生を経て中国でデビューした歌手兼俳優だ。主題歌も彼が歌っている。ツンデレの陸繹に対して、まっすぐで愛くるしいタン・ソンユン(譚松韻)の演技が見事に重なり合って、あっという間に55話観てしまう。

 これ、本当に華流ドラマなの?と思うほど、ただただ面白いのだ。

今回ご紹介した作品

花様衛士~ロイヤル・ミッション~

U-NEXTにて全話配信中

情報は2022年11月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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