地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
家族の名において
2023/3/24配信
一人っ子政策下の中国ならではの「家族」の物語
1979年から2014年まで「一人っ子政策」という世界でも例を見ない産児制限を行った中国は、経済の復興こそ成し遂げたが、それまでの「家族」のあり方を根底から変えてしまった。
この時期に生まれた中国の若者は、兄弟姉妹、叔父叔母、いとこハトコといったものが存在しない空間を、およそ二世代にわたって経験してきたのだ。夫婦の関係を構築するにも過去のロールモデルがまったく役に立たず、たった一人の子どもには、両親と四人の祖父母という重圧がのしかかる。
よく、それだけたくさんお小遣いがもらえるからいいよね、という話ばかりが出てくるが、こうした環境では親子関係がより濃密になり、結果として親による支配も強化されるだろう。しかも、クラス中の同世代がみな同じ一人っ子で、その中で将来にわたって過酷な生存競争を強いられるのだ。
これは、一人っ子政策下の中国ならではの親子の葛藤、「家族」とは何なのかを、「食事」を通して描ききった、中国ならではのドラマである。
物語は、幼くして母を亡くした少女リー・ジェンジェンの家の二階に少年リン・シャオが父母と引っ越してきたことから始まる。お兄ちゃんが欲しくてたまらなかったジェンジェンは大喜びでシャオにちょっかいを出すが、シャオは心を閉ざしたまま。上階から聞こえてくるのは激しい夫婦喧嘩の声。母親が離婚して出ていく姿を黙って見つめるシャオに、ジェンジェン親子が距離をとりながら関わっていく。
ジェンジェンの父ハイチャオは小さな麺屋を営んでいて、料理が上手で人懐こい。そんなリー家の食卓に、いつしかシャオが座っている。気が付くと、ハイチャオの見合い相手の息子ハー・ズーチウも座っている。ジェジェンは、最初は父親を取られるような気がしてズーチウをいじめていたのだが、シャオのケンカに二人で助太刀してから一緒の食卓を囲むようになったのだ。
シャオもズーチウも共に母に捨てられ、シャオの父は仕事一途で家庭を顧みず、ズーチウは父の顔さえ知らない。血の繋がらない三人の兄妹が、おかずをそれぞれのお皿に乗せあって、テーブルの上を箸が行きかう。家族の存在を確かめあうかのように。
しかし、共に食卓を囲む二人の兄の背中にはそれぞれの歴史がある。シャオは、親が無理して生んだ二番目の子だった妹の事故死のトラウマを持ち、ズーチウは都市と地方の格差による貧困から逃れることができない。
そんな彼らが高校を卒業し、それぞれがそれぞれの人生を歩み始める。そこに、ジェンジェンの友達二人の親との葛藤が絡み、子どもが自らの意思をもって生きることの困難や、親の愛が見事な支配(暴力)であることを、それぞれの恋愛に絡めつつドラマは進む。
笑いながら泣いてしまったシーンの一つに、中学生になったジェンジェンが食卓で「生理になったぁー!」と明るく発表し、父も二人の兄も、男ども全員が言葉をなくすシーンがある。娘の生理にどう対応していいか分からず右往左往する男親の切なさ。さらに、見事なラブロマンス(しかも二人のイケメン兄に好かれるという王道パターン)もある。学校、仕事、恋愛と、女性が抱える様々なハードルも描かれていて、あっという間に40話を見終わってしまった。
ジェンジェンの底抜けの明るさのおかげでラブコメの要素もあるのだが、あの台湾の侯孝賢監督の『悲情城市』を彷彿とさせる、「食べていれば生き続けられる」と言わんばかりの展開はあっぱれだ。どんな困難も乗り越える楽天性と人間愛で貫かれた本作は、一人っ子政策のもたらした痛みを見事に描き切っているからこそ、中国で爆発的な人気を得たのだろう。
見方を変えれば中国共産党批判ともとれる内容なのだが、こんなドラマがちゃんと世に出て社会的に支持を得るところが中国の強さなのだと思う。華流ドラマはこれからも進化し続けるはずだ。
なお、ジェンジェン役の子役もうまかったが、中学生から大人までを演じたタン・ソンユンの演技ぶりは見事だった。以前、アレン・レンとの『花様衛士 ロイヤル・ミッション』や『宮廷の諍い女』でも紹介したが、今回の演技にはもう脱帽としか言いようがない。
今回ご紹介した作品
家族の名において
- 放送
- BS12にて毎週日曜ひる14時~16時(2話連続)無料放送中
- 配信
- U-NEXTにて配信中
情報は2023年3月時点のものです。