地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
『六龍が飛ぶ Roots of the Throne』から『明成皇后』まで/朝鮮王朝絵巻
2023/9/5配信
国家を超えた、個人の人権の尊重を伝える歴史ドラマ
朝鮮王朝(1392年~1910年)の始まりは、武闘派李成桂による高麗からの権力奪取だった。そしてその実質的な終わりは、高宗の妃である閔妃を帝国日本の軍隊が殺害した「閔妃暗殺」(1895年)だろう。ちなみに「閔妃」というのは日本側が彼女を貶めるためにつけた蔑称で、朝鮮半島では明成皇后と呼ばれている。
朝鮮王朝の成立過程をドラマ化したのが名作『六龍が飛ぶ』(2015年、50話)で、王朝の最後を描いたのが『明成皇后』(2001年、124話)だ。いずれもむちゃくちゃ長いが、それでもこの二作品を見れば、血統による権力統治というのがいかに愚かしいのものかがよくわかる。
実際、初代王からの直系は早い段階で途絶え、その後は縁戚による王権の争奪戦によって、朝鮮王朝五百年の歴史は血にまみれたと言っていいほどだ。朝鮮王朝ではその成立当初から派閥争いが繰り返され、王朝が崩壊したのも、民衆を徹底的に収奪し利益をむさぼった権力の腐敗が原因だった。
『六龍が飛ぶ』が秀逸なのは、単に朝鮮建国の物語というだけでなく、武骨な父を知恵を使ってサポートし、一族の中で唯一科挙にも合格した5男の李芳遠(跡継ぎになれなかった)の視点から歴史を描いているところだ。(父王が後継者に指名したのは母違いの幼い8男だった。)
その先には、歴史に残る兄弟殺しが続く。王権を狙える立場の人物とその一族を徹底的に殺しつくして確立した3代王李芳遠(太宗)の盤石な王権があって初めて、4代王世宗の治世があり得たのだ。
朝鮮王朝最高の名君とされる世宗だが、父親から継承した絶大な権力がなければ多分ハングルの制定はできなかっただろう。彼の治世は、血塗られた権力の上に現れた蜃気楼のようなものだったと思う。
そして、王朝の崩壊過程が手に取るようにわかるのが、高宗の妃選びの場面から始まる『明成皇后』だ。
明成皇后 © SAMHWA NETWORKS CO., Ltd All rights
U-NEXT配信中
劇中で流れる曲「ナ・カゴドゥン(If I Leave)」の中の、「私は悲しくても生きなければならない」というフレーズは、その後の朝鮮民族の歴史をたどるような言葉として、いまも多くのアーティストによって歌い継がれている。
明成皇后は「国母」とも呼ばれているが、自分たちが生き残るためには虫けらのように朝鮮の民を殺している。また、一族あげての贅沢三昧の果てに、軍人への給与の米を着服し、米袋に砂と砂利を混ぜて水増しした話はつとに有名だ。これでは国など守れる訳がない。
それにしても、このドラマで何が切ないかと言えば、あれほど自分たちを苦しめ殺しまくった「王」であっても、外敵が来れば守ろうとする大衆の心理だろう。国家があって初めて民があるという考え方がどれほど多くの人々の人生を厳しいものにしてきたか。
韓国は、日本の植民地支配から解放された後も、南北分断と朝鮮戦争、そして軍事独裁政権が続き、光州蜂起という血の代償を支払ってようやく民主主義を勝ち取った。しかし、その民主主義で選ばれた者たちも、権力を手にしたとたんに腐敗し、さらに、女性やセクシュアルマイノリティの新たな人権を押さえつけている。
歴史ドラマが伝えるべきなのはまさにここ、国家を超えた、個人の人権の尊重なのだと思えてならない。国というものがいかに幻想で、また人々がいかに簡単にその幻想にからめとられるか、ということだ。
明成皇后 © SAMHWA NETWORKS CO., Ltd All rights
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映画『トンマッコルへようこそ』(2005年)は、朝鮮戦争のさなか、南北朝鮮の兵士と国連軍(米軍)の兵士が太白山脈の山奥の村に迷い込み、戦争など知らない村人たちの中で友情を育んでいくというフィクションなのだが、韓国では800万人もの観客を動員した。
映画やドラマには、人間の切なさと同時に、ささやかな願いがいつも込められている。
今回ご紹介した作品
六龍が飛ぶ Roots of the Throne
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明成皇后
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情報は2023年9月時点のものです。