地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜
2023/9/28配信
生と死の意味を宗教的な深さまで掘り下げた感動の名作
© STUDIO DRAGON CORPORATION
U-NEXT配信中
韓ドラ不朽の名作の一つに『トッケビ』がある。
「トッケビ」は、日本語では「鬼」と直訳されるが、韓国では幽霊と鬼を足したような存在というか、コミカルでむしろ妖精に近いものだ。
このドラマのトッケビは、実在した高麗の武将チョク・ジュンギョン(拓俊京)をモデルとしている。
謀反の罪(冤罪)で処刑された高麗の武将キム・シン(コン・ユ)は、処刑に使われた剣が胸に刺さったまま、その魂が浮遊していた。日本で言う「成仏」のためには剣を抜く必要があり、それができるのは「トッケビの花嫁」だけ。トッケビだと認識できる能力を持つチ・ウンタク(キム・ゴウン)と巡り合うために、1000年もの間、何度も生まれ変わりながら探し求めてきたのだ。
ドラマは、ふたりのラブロマンスに寄り添うように死神(イ・ドンウク)が登場することで、生きることと死ぬことの意味を宗教的な深さまで掘り下げている。まさに感動の名作だ。
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韓ドラのお化けものの面白さは、それを日本の『リング』や『貞子』のような見えない恐怖として描くのではなく、『ハロー!?ゴースト』『ああ、私の幽霊さま』『ホテルデルーナ』のように、お化けが人間に危害を加えるどころか利用される存在だったり、あるいは近しいところにいるおせっかいな隣人として描かれているところだろう。
この違いについて、比較文学をやっている友人は、「日本のホラーは、ビデオを見たら殺されるとか、関係ない人が無差別に殺されるというように得体の知れない恐怖を描くが、そのベースになっているのは自然災害の多さではないか」と言う。
プレートがひしめき合う上に位置している日本では、噴火に地震や津波など、個人の力ではどうにもならない天災が多く、災害に遭遇したら運が悪いと思ってあきらめるしかない。
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他方、韓国での災害とは圧倒的に大陸からの侵略、つまり人災が中心なので、ドラマに登場するお化けにもそれぞれ「出てくる理由」があり、その多くは人間の力でなんとかなるものとして描かれている、と。
無差別殺戮だった原爆や津波対策の手抜きが原因だった福島の原発事故でさえ自然災害と同列に扱うような、あきらめが早い人の多い日本では、韓国人の、お化けでさえ説得しようとし、独裁政権下の歴史の検証や責任追及に取り組み、何度も大統領を刑務所にぶち込む執拗さは理解されないだろう、と。これには思わず笑ってしまった。
個人的には、韓ドラのお化けものが恐怖を感じさせないのは、それが佐野洋子の『100万回生きたねこ』のような「生まれ変わり」ものがベースだからではないかと思えてならない。
これは絵本の名作で、王様の飼い猫になったり、サーカスの手品師の猫になったりと、輪廻転生を繰り返してきた猫の物語だ。何度でも生まれ変われる彼は、死など怖くなかった。ところがあるとき一匹の白猫と出会い、彼女と一緒にいたいと願い、自分の子どもを持ったとき、初めて自分以外の誰かを大切に思う気持ちがわいてくる。
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愛する白猫が年老いて死んだとき、彼は100万回も泣き続けた。そして泣き止んだとき、彼もその白猫の隣で死んでいて、二度と生まれ変わることはなかった、というお話。
猫は、愛を知って初めて死ぬことができたのだ。
生は死に向かって毎日進んでいることを考えると、人を愛する気持ちを持てたとき、人は初めて人間としてのこの世を終えられるのかもしれない。ドラマ『トッケビ』の「花嫁」は、まさに、愛と悲しみを伝えた白猫なのだ。
韓ドラのジャンルの一つにもなっている輪廻転生ものだが、私たちの社会には今でも、「障がい」を過去生での悪の報いと考えるような差別的な迷信が残っているので、その点には気をつけなければならない。
輪廻転生ドラマのメッセージは、死んでもなお伝えたい、語りたいと願う人の声を聞くところにある、というのも忘れないでね。
今回ご紹介した作品
トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜
- 以下の配信サービスで視聴できます
- U-NEXT/Netflix/Amazonプライムビデオ/Hulu
情報は2023年9月時点のものです。