地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
私のIDはカンナム美人
2023/11/07配信
容姿に関する日韓の価値観の違いを最も感じさせるドラマ
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日韓の価値観の違いを最も感じさせるドラマの一つが『私のIDはカンナム美人』だろう。
カンナム(江南)とは、韓国ソウル市で漢江より南にある地域を指し、新自由主義的な競争の結果がストレートに現れた超富裕層の街だ。
明洞、仁寺洞、仁川といった旧市街とはまったく異なる、先進諸国共通の風景がそこにはある。新しくできた図書館などまるでテーマパークみたいだし、世界各地の料理も堪能できる。
そして、林立する高層ビルの中には受験塾と美容整形の医院がずらっと並んでいる。
たとえば受験が無事終了したらご褒美に親子で二重にするとか、面接前には鼻の整形といったぐあいに、日本で言えば歯の矯正程度の感覚で美容整形が行われている。
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物語は、容姿のせいでいじめられ続けていた子が一念発起して美容整形をし、それをきっかけに、人の美しさとは何かを考えさせながら、新たな人生を築いていくというものだ。
相手役の恋人に「顔天才」と言われる超ハンサムなチャ・ウヌとくれば、キャスティングだけでも見たくなる。
ラブコメなので、笑ったり泣いたりの人間ドラマがそこに絡み合って、単なる整形物語では終わっていないところが韓ドラの妙だろう。
ところで、日本で韓国の芸能人の名前を検索すると、必ずと言っていいほど「整形」というワードがついてくる。ネットでは、誰が整形だとかそうじゃないとかが面白おかしく取り上げられて、それで「イイネ」を稼いでいる。
他方、韓国社会では、現大統領ユン・ソクヨル氏のパートナーがまさにカンナム美人そのものだ。私などシワ一つないその容姿とひきつった笑顔にエッとたじろいでしまうが、韓国では整形が広範囲に支持されているので私のような反応をする人とは今まで会ったことがない。
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同世代の男性も「え? 整形? 何がいけないの?」といった感じだし、特に若い人など、現大統領夫人を「かわいい」「いつまでも美しくあろうと頑張っている」と評価している。
その理由は、整形も「努力した結果」として受け止められているからだ。
韓国社会では成功した人がそれを誇示するのは当たり前で、それは、そこまで努力した結果なのだと見る。美しくなるのも、男の目を気にしてではなく、自分の身体を自分でより良く磨くという、努力の結果としてとらえられている。
そのせいか、4年ぶりに韓国に行ってみたら男女とも美しいタトゥーをしている若者が本当に多くて、おぉーとなった。ドイツで生活していたときは、「ああ、みんなすげー自然にタトゥーを入れているなぁ、ヨーロッパってそうなんだ」と思ったものだが、韓国はその比ではない。
タトゥーを入れるという行為は、自分の身体は自分のものであり、親や男の所有物ではないという、見事な儒教への決別宣言のようにも思える。もっとも、そうした女性解放への反動としてバックラッシュが台頭し、女性の社会進出にケチをつける現在の保守政権が出現したのだが。
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韓国の友人は、「韓国にいるとあまりの変化について行けずストレスがたまるが、日本に来ると何十年経っても何も変わっていないからホッとする」と言っていた。
思わず爆笑したが、確かに韓国と比べて日本は、まるで「変らない」ことを国是としているかのようだ。
韓国はとにかく、行くたびにすごい変わりように目が丸くなる。こうした変化を許容する社会が発展するのは当たり前で、変わらない日本が経済で韓国に抜かれたのも必然だったのだろう。
それだけに、美容整形で一念発起なんてドラマは、日本では成立しそうにない。
私自身、しわやシミは年輪と同じで自分の生きた価値そのものだと思っているので美容整形には興味がなく、それをする人たちのことも「ああ、そうなの」程度で、関心がなかった。しかし韓国社会では、美容整形は自分磨き、努力の一つで、称賛すべき行為なのだ。
整形を「頑張っている」と見る眼差しは韓国特有の競争社会を映し出してもいるが、努力したものに拍手を送るその姿勢は学びたいと思う。
『カンナム美人』は、まさに、あきらめない努力の物語なのだ。
今回ご紹介した作品
私のIDはカンナム美人
- 以下の配信サービスで視聴できます
- U-NEXT、ディズニープラス、Netflix
情報は2023年11月時点のものです。