地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
瓔珞<エイラク>~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃
2024/1/9配信
韓国や日本のドラマでは追随できない華流ドラマの脚本の妙
©2018 Dongyanghuanyu Film & Television Culture Co., Ltd. All Rights Reserved
華流ドラマを語るとき、絶対に外せないのが名作『瓔珞<エイラク>』だろう。
全70話という大長編だが、あれよあれよというまに見終えてしまう。
ドラマの舞台は清朝最盛期、乾隆帝時代の紫禁城。奴婢として生まれた瓔珞は、女官として働いていた姉の死に疑問を持ち、真相究明と仇討ちのために自分も女官となって宮廷に入り込む。
華流ドラマの醍醐味は、何といっても複雑に絡み合う人間模様だ。昨日の味方が今日は敵になっていたり、あえて敵と同盟を組んだりと、人間の心の弱さや卑怯さ、切なさを表現する脚本の妙は、韓ドラや日本のドラマでは追随できないものだ。
いやぁ、こいつ意地が悪いなぁ、と思わせるシーンに何度も出くわすが、そのたびに瓔珞がばっさばっさと反撃していくさまは痛快そのもの。見ているだけで胸がスーッとする。
確固たる信念を持ち、決めたことには責任を持ち、決して諦めないという、華流ドラマの女性主人公の王道あるあるを見事に描いているのだが、そこに彼女のお茶目さ、頭の回転の速さにとんちまでが加わり、見るものを飽きさせない異次元のレベルに仕上がっている。
たとえば、階級が上の者を罰するとき、自分で手を出すのではなく皇帝にルールや道理を認識させて裁かせるというやり方など痛快そのもの。皇后から皇帝を虜にした方法を聞かれたときなど、「自分から先に思いを告げたら負け」ときっぱり。皇后や側室たちが寵愛を得ようと必死になっている中で、あえてそっぽを向くことで気を引くという、一歩間違えばその場で殺されかねない命がけの賭けで皇帝を射止めたのだ。
瓔珞が本当に皇帝を愛していたかは最後まで私にはわからなかったが、幾つもの困難や謀略を乗り越え、彼女は最終的に紫禁城の頂点に立ち、姉の敵討ちを完遂した。
学ぶことも許されない奴婢でありながら、他者を決していたぶらないその生き方が彼女の味方を増やし、その上で悪を成敗する(しかも皇帝まで虜にして)という、スカッと爽やかな長編歴史ドラマだ。同時に、男に、力ある者に媚びることなく社会的上昇を果たした女の出世物語でもある。
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また、後宮の妃たちの粒ぞろいの美しさと見事な悪役への変貌ぶりは思わず拍手喝采してしまうほど。その一人ひとりが一族の様々な思惑を秘めた皇帝への献上品であり、家制度の犠牲者なのだ。
その女性たちが生き抜く唯一の手段は、後宮という隔離された空間の中で皇帝の子どもを産むことだった。かつて、ある日本の政治家が「女は産む機械」だと言ったが、人間としての尊厳を奪われた女の哀しみを、それぞれの妃が見事に演じきっていた。今に通じる問題提起があるからこそ、世界的なヒットにもなったのだろう。
なお、瓔珞(ウー・ジンイェン)の恋人、皇后の弟である富察傅恒/フチャフコウ(シュー・カイ)との出会いと別れは、世界に通じるメロドラマであり、まさに多くの女性が男に望んできた「初恋」の物語だった。
この二人は、『尚食』(2022年)でも女官と皇太子という配役で共演し、シュー・カイは一人の女性に(心だけは)操を尽くす皇太子を演じた。
立っているだけで絵になるシュー・カイは、ただ見ているだけで満足という、アイドルドラマの王道そのものだ。
ウー・ジンイェンに至っては、かつてハリウッドでオードリー・ヘップバーンが登場した時のような衝撃だった。新しい美の発見と言えるほど、物語を高貴で凛とした作品に仕上げた。
『瓔珞<エイラク>』は、舞台の豪華さ、紫禁城の王朝絵巻、出演者、どれを取っても一流の、華流ドラマを代表する作品と言える。
人間を描かせたら華流ドラマが一番というのも、うなずけるなぁ。
今回ご紹介した作品
瓔珞<エイラク>~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃
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情報は2024年1月時点のものです。