地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
贅婿[ぜいせい]~ムコ殿は天才策士~
2024/3/19配信
近年の中国の歴史が重なる爆笑サクセス&ラブストーリー
©New Classics Media U-NEXT配信中
だいぶ前からマンガや韓ドラで「契約結婚」が流行っていたが、平凡な女性が金持ちの男(または権力のある男)と仕方なく、あるいはビジネスとして結婚したふりをするが、結果として本当の恋人になる、というパターンばかりだった。
『贅婿[ぜいせい]~ムコ殿は天才策士~』は、ちょうどその逆のパターン。
物語の入り方も面白い。
連載小説の主人公(バリバリのビジネスパーソン)が、報われない状態のまま連載が打ち切りになってしまい、作者はその主人公を過去に転生させてコメディとして物語を続けることにするのだ。
武王朝時代に転生した主人公が目覚めると、借金のカタに富豪の商家に婿養子として提供されていた。しかも転生後の彼は手足短めの見事な三枚目。それが家父長制の下、孫娘でありながら商家を継ごうとする才覚ある美しい女性との形だけの結婚である。お飾りどころか足を引っ張るなというレベルの存在。
ちなみに、贅婿[ぜいせい]とは、「贅肉」同様「余り者」のムコという意味。漢字すごい!
そのムコ殿が、利権を求めて商家の中外でくり広げられる妻に対する陰謀術策を、ゲームのように一つひとつクリアしていくのだ。
現代を知っているからこその知識を活用し、在庫が足りなくなったら特典付きの予約販売を始めるなど、私たちの日常で見る光景が展開される。今では普通に食べられているピータンで一儲けする展開など、まさにタイムスリップドラマならではの楽しさだ。
さらに、男尊女卑の時代のただ中にあって、女が商売をして何が悪い、とフェミニストさながらの言葉を連発する。何が面白いって、驚きまくる男たちの姿が化石オヤジそのまんまで、どの回も「あるある」と爆笑しっぱなしなのだ。
個人的に一番受けたのは、主人公が送られた婿殿養成学校「男徳学院」。問題行動を起こした入り婿を反省させ、良きムコになるための様々なスキルを身に付けさせる学校なのだが、かつての花嫁修行を思い出しては、ああ、性別が変わるだけでこんなに滑稽なものなのかと実感する。自分を殺した内助の功に価値などあるわけがない。
一度は結婚から逃げ出そうとした主人公が、様々なハードルを必死に越えようとする妻のために智恵を働かせてサポートする姿は、内助の功というより、対等なパートナーとしての新しい中国の男子像を彷彿とさせた。
©New Classics Media U-NEXT配信中
思えば、30年以上前でも、中国人の知人男子は自然に厨房にも入っていたし、家事はやっていないという知人に「あんた、それじゃ捨てられるよ」と言うと、「僕はたくさん稼いでコックを雇って妻と一緒に美味しいものを一生食べるの」と返されたことがある。
そうかぁ、と感心したものだ。
このドラマが中国で爆発的な人気を博した理由の一つとして、ムコ殿の姿に近年の中国を重ねた人が多かったという。植民地状態から脱してからも文革や一人っ子政策という想像を絶する困難を経て、今では世界第二位の経済大国になった中国の、私たちの姿だというのだ。
そう、困難を笑って、笑って、気が付くとスカッとしていると。
韓国で人気を博した映画『82年生まれ、キム・ジヨン』は、女性の生きづらさを描いて大ヒットした小説の映画化だった。
日本や韓国が、化石化した男どもの存在のせいで社会全体が行き詰っている中、ドラマ『贅婿[ぜいせい]』は風穴を開けるがごとく走り抜けた。この作品がヒットした事実を見ると、中華圏の女性たちはシンデレラ物語も鑑賞するが、実際には、ムキムキマンでも、俺が男だ、でもなく、かわいく面白く、女の人生の邪魔にならない男性に拍手喝采しているんだよね。
主役は、中国でものまねや漫才芸人として活躍している郭麒麟(グオ・チーリン)。すっとんきょうな彼の存在なくしてこのドラマは成立しないだろうと思うほどのはまり役だった。
いやぁ、笑った笑った。
今回ご紹介した作品
贅婿[ぜいせい]~ムコ殿は天才策士~
- 配信
- U-NEXT、Hulu、みるアジアほか
情報は2024年3月時点のものです。