地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
卿卿日常 ~宮廷を彩る幸せレシピ~
2024/10/25公開
宮廷で繰り広げられるロマンスと美食
© 2022 New Classics Media, All rights reserved.
中華圏で最も評価が高い歴史ドラマは『宮廷の諍い女』(2011年)だ。皇帝の寵愛を求めて繰り広げられる人間模様はいまだに色褪せることなく、まさに華流ドラマの頂点に君臨し続けている。
宮廷ラブロマンスと呼ばれるジャンルの作品は日本でもすさまじい量が紹介されているが、これらは伝統的なシンデレラ物語の範囲を出ることがない。ほとんどのドラマの最後は結婚式か結ばれた二人の姿で、結婚は女の幸せという‟妄想古典芸能”が詰まっている。
これはいわば華流ドラマの定食のようなものなので、そこはわかっていながら見るというのが通。
対して、華流歴史ファンタジーと言われる作品群は発想が自由で何でもありだ。時空を超えたり魔法が出てきたりと、娯楽路線を突き進んでいる。
そんな中、ふと『卿卿(きょうきょう)日常 ~宮廷を彩る幸せレシピ~』を観て爆笑してしまった。あっという間に40話を一気見。
見終わって、これは韓ドラでは作れないだろうなぁ、と思ったほどだ。
物語は、9つの国の盟主となっている架空の国「新川(しんせん)」の皇子たちの嫁選びからスタートする。
周囲のどの国も、新川国との姻戚関係を強化するための政略結婚に奔走する。また新川国側にとっても、どの国とも均衡を保つことが平和を維持する上で最重要課題となるので、カップリングは重要な政(まつりごと)となる。側室制度があって何人でも娶れるので、婚姻を重ねて体制を強固にしていくわけだ。
一方、新川国の皇子たち(11人いて、うち7人が未婚)に嫁ぐ女性にとっては、嫁入りは人質にされることでもあり、同時に母国のための密偵となることをも意味する。それに、一度結婚したら、夫や皇帝の許可なく実家に帰省することもできない。
そんな中、弱小国の娘たちは、新川国のような古い男の価値観を持つ国とは関わりたくないと無能を装って嫁選抜から逃れようとしたり、反対に力ある皇子に取り入ってその権力を我が物にしようとしたり、自尊心が高く夫を尻に敷くことに何の抵抗もなかったりと、まぁ、設定が実に今風なのだ。
そして皇子たちのほうはどうかというと、DV男やモラハラ男だったり、女好きで熱烈求愛の末に側室にしたのに相手の名前すら憶えていなかったり、権力闘争から脱落して適当に生きていたり、好き嫌いが激しくて胃腸が弱かったりと、いずれも何らかの問題を抱えている。
そんなバカボンたちが、それぞれの妻との関係からやがて何かに気付いて意識を変えていくのだが、このドラマがすごいのは、決して女同士の闘いにはせず、自分たちを苦しめているのは「仕組み」「制度」であると見抜いて、それを変えようとするところだろう。
誰のおかげで飯が食えてんだ!と怒鳴る皇子に対して、20名の側室全員が、だったら食わしてもらわんでいいと言って家を出ていく様には拍手喝采。しかも、なんで女が商売しちゃいけないの?と、自分たちの手で自分たちの人生を切り開こうとする。
随所に「やればできる」がちりばめられていて、男たちがいがみ合っていても、女たちは、私たちは友達よ、と夫の指示に従わず宴席を設けては飲みまくる。このシーンなど、男によって分断されていたシスターフッドの復活宣言でもあった。よく飲み、よく語り、よく食べる女たちの姿に、口元がゆるみっぱなし。
好きな人と結婚したい、まだ結婚したくない、やりたい仕事があるという意思を抑圧されてきた正室と側室が、がっちり手を組んで既存秩序に挑戦していく姿は、まるでパリ・コミューンだ。
とまぁ、何しろ陰湿な人間関係や復讐劇といった華流ドラマの王道とは対極にある、後味がよくすっきり感が残る作品なのだ。
毎回、さすが中国、と唸らされる美食の数々が登場するが、むしろ、強固な体制と権力に抗った革命のドラマなのだと言いたい。
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(以下は補足)
主役の二人は新人だが、第六皇子を演じた白敬亭(バイ・ジンティン)が、一見頼りなさそうで実は強いという、味のある演技をこなしていたことに注目している。
彼は『君だけのヒーローになりたい』(2021年)で特殊部隊の隊長役を演じたが、これは韓ドラ『太陽の末裔』のパクリと思えるほど設定が同じで、演技もソン・ジュンギのコピーみたいでどう評価していいか分からなかった。しかし、卿卿では彼らしいシャイな演技が存分に発揮できたと思う。
また、その妻を演じた田曦薇(ティエン・シーウェイ)はこの作品で大ブレイクし、新しい華流ドラマの顔となった。
ちょっと目を離すと、どんどんいい俳優が出てくるから楽しみだ。
今回ご紹介した作品
卿卿日常 ~宮廷を彩る幸せレシピ~
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情報は2024年10月時点のものです。