辛淑玉さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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『ゴースト・ドクター』
『今日のウェブトゥーン』

2025/4/7公開

観るだけで職業倫理や仕事がわかるマニュアルドラマ

 韓ドラの中で、私が勝手に「マニュアルドラマ」と呼んでいるものがある。
 観るだけで、企業内研修でしつこく教え込むより数段レベルの高い研修になるドラマのことだ。

 今回は、二つご紹介する。
 まず、青臭いほど職業倫理について語り続けている『ゴースト・ドクター』(2022年)。

『ゴースト・ドクター』
© STUDIO DRAGON CORPORATION

 天才外科医が事故で昏睡状態に陥る。しかし、意識がないわけではなく、魂が身体から抜け出てしまい、病院内をさまよっているのだ。

 戻ろうとしても元の身体には戻れないまま、他者の身体には入り込めることが分かり、超不器用な新人外科医に乗り移って難しい手術をやりまくるというお話。

 で、実は病院の中には同じように浮遊している霊魂たちがいて、医者や看護師の会話を聞いているのだ。彼らが吐き捨てた言葉に胸を痛めたり、うまく回復できた人との別れを悲しんだりと、そこには別空間での人間ドラマが展開されている。

 思えば病院とは、生と死の間を行き来している境界線のような場所だ。このドラマは、生死が表裏一体となっているその空間で、医者とは何か、命とは何か、ということを徹底的に、青臭く、真正面から説き続けるのだ。

 天才外科医役があのRAIN(ピ/チャ・ヨンミン)で、傲慢かます姿は地じゃないかと思ってしまうほどのはまり役。不器用なお坊ちゃま外科医はキム・ボムで、あの『花より男子』に出ていた育ちの良さそうに見えることこの上ない俳優とのコンビがまたいい。

『ゴースト・ドクター』
© STUDIO DRAGON CORPORATION

 病院とは言っても企業体である以上、利益を出さなければならないし、時にはトリアージなど、非情にならなければならない場面もある。かと思えば理不尽な患者とのやり取りもあって、その一つひとつに、命に携わる者はどのような思いで向き合えばいいのかを考えさせてくれる。

 終盤には、歴代の医師たちが築いてきた命へのバトンをどう受け継ぐのかまで。
 見終わって、ああ、これ、新人研修用のマニュアルとして完璧、と拍手したほどだ。医師や看護師、医療関係を目指す人には、就職前にぜひ見ておくことをお勧めする。

 もう一つ、「仕事」がわかるドラマが、キム・セジョン主演の『今日のウェブトゥーン』(2022年)だ。原作は松田菜緒子の漫画『重版出来!』で、日本では既に2016年にドラマ化されている。コミック誌の編集部の仕事とは何かを知るにはうってつけの作品だ。

『今日のウェブトゥーン』
原作/松田奈緒子「重版出来!」(小学館刊)
©SBS
©Naoko Mazda/Shogakukan

 かつて、銀行の窓口が3時で閉まることから、銀行に就職すれば3時に帰れると勘違いした人がいたが、さすがにこれは笑い話としても、新しくできた職業に関しては、外から見たイメージと実態がまるで異なることが山のようにある。

「マンガ」は、既に日本を代表する文化の一つになっている。私が在籍したドイツの現代日本研究所では、研究テーマの7割から8割が日本のアニメ・マンガ研究であることに驚いたものだ。

 院生の研究発表に『デスノート』や『スラムダンク』『日出処の天子』などが出てくると、日本人相手の美容室に行っては1冊2ユーロで借りて、一晩で一気読みして臨んだものだ。人生の中であれほどマンガを読んだときはないと言っていいほど。

 土曜日になると、日本人街で日本アニメ好きのドイツの若者が集まってコスプレをして楽しんだりもしている。世界中の若者の心をつかんでいるのが日本の「マンガ・アニメ」なのだろう。

 漫画雑誌の編集をするということは、新たな才能を発掘するというだけでなく、漫画家と共に考え、育ち、ケアしていくことでもある。

 はっきり言って、他者を感動させる作品を作れる人はみんな個性的だし、またそれぞれの歴史を背負っていると言える。そんな人たちと向き合っていくのが編集者の仕事なのだ。

編集の技術以上に、それはまず感情労働であり、他者への眼差しが重要となる。

『今日のウェブトゥーン』
原作/松田奈緒子「重版出来!」(小学館刊)
©SBS
©Naoko Mazda/Shogakukan

 マスコミの仕事がしたいとか、雑誌社に就職したいと思ったら、その前に、まずはこのドラマをチェックしてみてほしい。

今回ご紹介した作品

ゴースト・ドクター

配信
U-NEXTにて配信中

今日のウェブトゥーン

配信
Amazon Prime、U-NEXTなどで配信中

情報は2025年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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