地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
王になった男
2025/9/12公開
1200万人を動員した大ヒット映画をリメイク
© STUDIO DRAGON CORPORATION
一人二役というのは役者冥利に尽きるものだが、役者としての力量がはっきり現れる怖い配役でもある。
ヨ・ジングが王とその影武者の二役を演じた『王になった男』は、7年前の2012年にもイ・ビョンホン主演で映画化されている。この映画は1200万人以上が鑑賞し、この年の最優秀作品賞、監督賞、脚本賞を受賞し、そしてイ・ビョンホンは主演男優賞を受賞した。
すでに多くの人の脳裏に焼き付いているこの名作をテレビドラマでやるというのだから、若手ならビビるだろうとしか思えないのに、ヨ・ジングはこれに果敢にチャレンジした。
映画版で設定されている王は第15代朝鮮王の光海君。優秀だったにもかかわらず、先代から執拗ないじめにあって冷や飯を食わされていた。朝鮮王朝実録でも、その忍耐強さが称賛されている。豊臣秀吉の朝鮮侵略時には逃げ出した父王の代わりに闘いぬいた名君だったが、最後は失脚して済州島に島流しにされて没した悲劇の王でもある。
映画では、その光海君が暗殺の脅威から逃れるためによく似た風貌の曲芸師を影武者に立てて難局を乗り切っている。影武者と王妃との淡いロマンスも描かれてはいたが、それはおまけ程度。映画という短い尺の中で何度も王と影武者が入れ替わるのだが、まさに別人じゃないかと思わされるほどのイ・ビョンホンの演技力には圧倒される。
日本で一人二役というと、黒澤明監督の『影武者』を思い浮かべる人が多いだろう。出演者には仲代達矢をはじめ、錚々たる役者たちが並ぶ。映画『王になった男』はこれと同様に息つく間もない完璧な映像美でストーリーを展開し、さらにどの役者も「お見事!」というほど完成度が高かった。
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この作品に、まだ若手のヨ・ジング(1997年生まれ)が挑戦するというのだ。
私がヨ・ジングをはっきり意識したのは2012年の『太陽を抱く月』で、主人公である王の子ども時代を演じた時からだ。
15歳という年齢での世子(せじゃ)役ではあったが、茶目っ気もあり、図々しい世子の感じも見事だったし、また何より色っぽかった。キリッとした眼差しと崩れるような笑顔が、他にはない独特の魅力を感じさせた。なかなかの子役だと思った。そして調べてみると、既に2005年から多くのいい映画やドラマに出ていたことも分かった。
ところで、ドラマ版の『王になった男』では、朝鮮王朝時代ではあっても、光海君ではない架空の人物を王に設定している。
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物語では、王と瓜二つの旅芸人が、首都漢陽を訪れたときに王の側近に見い出され、暗殺に怯え心を病んでいた王の代役として登用される。
彼は多くの暗殺未遂事件や陰謀に巻き込まれながらもなんとか生き延び、庶民の感覚があちこちに垣間見える善政を行っていく。
そして、顔はそっくりだが別人のように性格が変わり優しくなった王に次第に惹かれていく王妃。そこに周辺諸国との軋轢がからみ、と、まぁ、一人二役という設定に意識が行かないほど、見事な男子の成長物語でありラブストーリーとなっているのだ。
そう、韓ドラファンなら誰もが望む、絶望と希望をセットにして見せてくれるラブロマンス。そして、回が進むごとにどんどん主人公を応援したくなるヨ・ジンウの魅力がある。凛とした王妃役は、なんといってもイ・セヨンだろう。
最後まで飽きさせることなく、映画とは別物として仕上がった。だからこそ、映画と見比べて楽しんでもらいたい。
ヨ・ジングが心を病んだ王を演じたシーンもお見逃しなく。私は、旅芸人のシーンよりもこちらが強く印象に残っている。
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今回ご紹介した作品
王になった男
- 配信
- U-NEXTにて独占配信中
情報は2025年9月時点のものです。