地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ジョンニョン:スター誕生
2025/10/17公開
「百想芸術大賞」で最優秀演技賞など受賞!
ⓒ 2024 STUDIO DRAGON CORPORATION & CJ ENM Co., Ltd.
韓ドラでもとうとうこの手の作品が出てきたか!と思ったのが『ジョンニョン:スター誕生』だ。
強いて例えるなら、伝説の少女マンガ『ガラスの仮面』(美内すずえ作 1975-1997年)と、パンソリの旅芸人を描いた名作『風の丘を越えて 西便制』(1993年)を合わせたような作品と言えば、少しは想像がつくだろうか。
1950年代、朝鮮戦争後の荒廃した社会の中で、魚を売って生計を立てていた少女が地方巡業に来た女性国劇に出会ったことから、歌と演劇の道を上り詰めていく物語なのだが、韓ドラ定番の「親の代からの因縁」に加えて見事なまでのシスターフッド、そして、何度挫折を繰り返してもめげず、天性の才と言われた声が出なくなっても、それでも前に進んでいくという、王道のサクセスストーリー。
その姿は、あの『ガラスの仮面』で主人公北島マヤが伝説の舞台『紅天女』に挑む姿と重なって見えたほどだ。
このドラマ、なにしろ俳優たち全員、ソリ(歌)が上手すぎて、唸るなんてレベルじゃないのだ。最初は下手だった新人が舞台を重ねるごとに上達していく姿など、鳥肌ものだった。
2025年の「第61回百想(ペクサン)芸術大賞」では、主演のキム・テリが最優秀演技賞を受賞し、作品としても芸術賞(音楽:チャン・ヨンギュ)も受賞したほどだ。
ⓒ 2024 STUDIO DRAGON CORPORATION & CJ ENM Co., Ltd.
キム・テリはこのドラマの準備で3年ほどソリの練習を続けていたというが、たった3年でここまで仕上げるとは恐ろしい。演技派俳優の気概を見せつけられた気がしたほどだ。
韓国の女性国劇は、宝塚と同様、すべての役を女性が演じ、歌と踊りに剣術なども加えた総合芸術として人気を博した。もちろんトップスターは男性役で、舞台の中には女性たちが望む男性像があり、女性が言って欲しいセリフが満載だったという。
女性国劇は、1909年に官妓制度が廃止され、伝統芸能の技を身につけた女性たちが世に放たれたことから始まった。しかし、社会的には低級な娯楽と見なされていた。
その後、1948年に韓国国楽同好会が結成されて伝統音楽をベースにした活動が活発となり、1950年からは、朝鮮戦争の最中にも、夢と希望を与えてくれる存在として大衆から支持され続けた。ドラマの背景となっている1950年代は、まさにその人気の絶頂期だった。
だが、日本の大衆演劇が次第に衰退していったのと同様に、映画やテレビの普及につれて、韓国の女性国劇も衰退していった。
ドラマは、その奇跡の10年間の輝かしい姿が眼の前に蘇ったかと思わせるほどで、時代考証も「あるある」感満載だった。
ⓒ 2024 STUDIO DRAGON CORPORATION & CJ ENM Co., Ltd.
女性国劇最高峰の男役ムン・オッキョンを演じたチョン・ウンチェは、女性の心をつかむ美男子役を見事にこなした。モデル出身で身長170センチ。よく見つけてきたなぁ、と思うほどのはまり役だった。
韓ドラは、「ビビンパプ(混ぜご飯)」と言われているように、ストーリーの中に社会問題や笑い、ミステリーなどがごちゃ混ぜになっているのが特徴だ。それにより既存のジャンルの境界線を越えて世界のマーケットに進出できた。当時の女性だけの韓国国劇もまた、総合芸術という形をとりながら、伝統芸能の壁も「男」という壁も越えて、女性に夢を与えたと言っていいだろう。
このドラマは、鬱屈した韓国社会で女性たちに勇気を与えるだけでなく、韓ドラに新しい世界を一つ増やしてくれた作品でもある。
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今回ご紹介した作品
ジョンニョン:スター誕生
- 配信
- ディズニープラスのスターにて全話独占配信中
情報は2025年10月時点のものです。