辛淑玉さんのドラマ批評 - 北極星

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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北極星

2026/1/23公開

韓国ノワール的な要素と伝統的なラブロマンスが融合

(c) 2026 Disney and its related entities

 北極星は、地球の自転軸の延長線上に位置するため、常に真北の空に輝いている星だ。そのため、古くから「道しるべの星」とされてきた。

 私たちの世代なら、あの『冬のソナタ』で語られた「君のポラリス(北極星)になる」というセリフを思い浮かべるかもしれない。しかし、そんな甘い大人のラブロマンスだと思っていると、いい意味で期待を裏切られる。

『愛の不時着』路線を狙ったドラマだという人もいるが、これはあんなふうにノー天気に安心して見られるものではない。全9話を見終えて、かつての韓国ノワール的な要素と伝統的なラブロマンスが融合したドラマだと強く感じた。

 物語は、大統領選候補者チャン・ジュニク(パク・ヘジュン)が教会で暗殺されるシーンから始まる。妻のムンジュ(チョン・ジヒョン)は元外交官で、この暗殺には裏があると直感して動き出す。

 そこに、遺産問題や愛人問題、隠し子問題といった「韓ドラあるある」がちりばめられて、誰が敵で誰が味方なのか分からなくなりながら見入ってしまう。

(c) 2026 Disney and its related entities

 しかし、本作の基底に流れていたのは、「戦争は、戦争で儲けられる人、得をする人が始めるのであって、戦争屋には国境も思想も民族も関係ない」というメッセージだ。

 物語では、北朝鮮が原子力潜水艦を売買しているとの情報が入るところから米朝の核戦争前夜に至るまで、息を呑むような緊張が続く。核戦争となれば、かつての朝鮮戦争のように半島が焼け野原になるだけでは済まない。それこそ世界の破滅である。原子力潜水艦からの核ミサイル発射を食い止めようと奔走するスリリングな展開の中に、韓国の近現代史が見事に盛り込まれていた。

 ムンジュの父親は、かつてスパイ容疑で投獄された。母子は国外に逃れて貧しい生活の中で娘を育て、事切れる前には「韓国には戻るな」と伝えていた。しかし、娘は韓国で生きる決意をする。そして、ジュニク(のちにムンジュの警護)の警護を依頼されたサンホ(カン・ドンウォン)は脱北者だった。この二人の背景には、棄民の歴史が重なる。

(c) 2026 Disney and its related entities

 かつて、韓国の独裁政権は、北朝鮮が戦争準備をしているとして独裁権力を維持してきた。2024年の12月3日に尹錫悦前大統領が「非常戒厳」を発令したことは記憶に新しいが、その理由もまた「北が攻めてくる」だった。

 戒厳令とは、政権による無差別殺戮を許すことでもある。それを民衆の力で阻止してから1年。この事件は、たとえ民主国家であったとしても権力は暴走すること、戦争を望む者が跡を絶たないことを見せつけた。

 国家に裏切られた者たちが国家の危機を救うというのは、名作『緑豆の花』や『ミスター・サンシャイン』にもつながるストーリーだが、虐げられた者たちこそが大地(国)を支えるという、切ない現実をも見せつけている。

 そして、日本の視聴者には理解されづらいだろうと思うのが、韓国人の米国(米軍)へのまなざしだ。

 1950年6月25日に始まった北朝鮮軍の南進に対して、米軍は9月15日には仁川上陸を果たし、38度線の休戦ラインまで押し返すのではなく、そこを越えて「北進」していった。それはまさに、防衛の一線を越えた、支配領域の拡大だった。マッカーサーの核使用要請をトルーマンは断ったが、米軍は老斤里(ノグンリ)での無差別虐殺や少年兵をおとりにした陽動作戦など、非情な手段を駆使していった。植民地の朝鮮人は、勝つためには殺してもいい存在だったのだ。後の光州民衆虐殺(1980)も米軍の許可なしでは行い得なかったことは周知の事実だ。

 1980年代、素行の悪い韓国駐留米兵に対してソウル市長が公式に「ふざけるな」と抗議したときの、公務員たちの歓喜の声を覚えている。米国の核の傘の下で帝国日本と手打ちをしてありがたがる韓国ではない、という現実を見れば、このドラマもまた違って見えることだろう。  

(c) 2026 Disney and its related entities

 人間の歴史を見ると、あらゆる事件の裏に私情や欲望があり、簡単ではない。歴史も人も絡みあう。その中で何を信じ、何を見つめて、何を道しるべにするか。

 大人のラブロマンスは横に置いて、タイトルである「北極星」の意味を、今も考え続けている。  

今回ご紹介した作品

北極星

配信
ディズニープラスのスターで全話独占配信中

情報は2026年1月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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