辛淑玉さんのドラマ批評 - 捜査班長 1958

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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捜査班長 1958

2026/6/22公開

韓国の伝説的刑事ドラマの前史を描く

画像:捜査班長 1958 1

© 2026MBC. All Rights reserved.

 韓ドラで伝説の刑事ドラマといえば『捜査班長』だろう。1971年から89年まで放映が続き、全880話、最高視聴率は70%超えという長寿お化け番組だ。

 防犯カメラなどない時代の刑事たちが地味な張り込みや聞き込みで事件を解決していく典型的な刑事ドラマだが、時代と社会の背景が事件ごとに見事に映し出されていた。

 貧困ゆえの窃盗や強盗、急激な経済成長のひずみから起きた犯罪、少年犯罪、人身売買、麻薬密売など、様々な犯罪が続いていくが、物語の基本は「罪は憎んでも人は憎まず」で、常に犯罪の背後にある社会構造に目を向けていた。

 2024年制作の『捜査班長 1958』は、その主人公の前史を描いたものだ。経験豊かな刑事となるまでの成長記録とでもいおうか。

 あのベテラン刑事たちが、最初はどれほど無茶で無謀で、何度も失敗しては周囲をハラハラさせてきたか。紆余曲折しながらも正義を追い求めた若者たちの青春群像なのだ。

 オリジナル版でチェ・ブラムが演じた主役パク・ヨンハンを前史ではイ・ジェフンが演じている。往年のファンにはたまらない作品だが、オリジナルを見たことのない人でも十分に堪能できる名作となった。

画像:捜査班長 1958 2

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 地方の酒屋の息子だったヨンハンは、正義感が強く型破り、そして鋼鉄(はがね)のメンタルの持ち主。地元では牛泥棒の検挙率NO.1として地元紙をにぎわせ、めでたくソウルに栄転となったが、赴任先のソウル警察は汚職が蔓延する典型的なクズ組織。警察が泥棒じゃないかと思うほどの賄賂社会だった。

 ヨンハンは、そんな中で冷や飯を食わされていた刑事を一人ずつオルグしながら、伝説の捜査班を作り上げていく。

 外はヤクザと米軍、中は汚職警官と下駄の雪ども、そしてやられっぱなしの市井の人々。

 暴力がはびこる社会にチームを作って立ち向かおうと、まずは人間にも噛みつく野蛮な狂犬刑事サンスン、米俵をポンポン投げ飛ばす怪力ギョンファン、そして英語もできるエリート新人ホジョンを、あの手この手で仲間に引き込む。

 これは、野武士の襲撃におびえる貧しい農民たちに雇われて村を守るために戦う侍たちを描いた、黒澤明監督の名作『七人の侍』(1954年)でも使われた手法だ。

 そして、困難な事件を仲間とタッグを組んでクリアしていく。面白くないわけがない。

画像:捜査班長 1958 3

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 時代背景の描写も見事だ。セットも衣装も時代考証のレベルが高い。
 当時日常的に使われていた日本語(ジャンケンポンなど)が出てくるのはまさに植民地時代の名残だし、米軍がらみの犯罪エピソードは占領軍時代を反映している。

 ドラマの中盤では、1960年代の韓国を特徴付ける貧困や格差による難事件が続く。銀行強盗事件、女工失踪事件、そして、実の母親を殺した少年の事件。そこに、同胞同士が殺し合った朝鮮戦争当時のトラウマとの闘いが絡み合う。

 朝鮮戦争で学徒兵だったヨンハンは、敵(アカ)とされた民間人を銃殺せよと命令される。そして、それを命じたかつての上官が、新たな署長として赴任してくるのだ。

 終盤は、権力の闇との闘いだ。
 朝鮮戦争当時も戦後もその力を保持し続けるかつての「上官」との対決は、まさに韓国の近代史そのものだった。

 この重い内容を、これほど軽やかに演じて胸を打つ韓流エンタメのすごさを、改めて思い知らされた。

『捜査班長 1958』はコメディタッチで進むので、爆笑しながら涙腺がゆるむの連続だ。主演のイ・ジェフンもそうだが、周囲を固める脇役もうならせる。

 オリジナル版で主役を演じた俳優チェ・ブラムが冒頭に出てきたのでおおっと思ったら、なんと老年期のパク・ヨンハン役での出演だった。これは本当に憎い演出で、新旧のファンをつなぐ見事な作品となった。

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 2024年度のMBC演技大賞で、主役のイ・ジェフンは「男性最優秀演技賞」を受賞し、狂犬キム・サンスン役のイ・ドンフィも「男性優秀演技賞」を受賞した。韓国では、2024年を代表する完成度の高いレトロ捜査劇として評価された。

 世代を超えてつながれる、新しい手法の韓流エンタメの登場である。

 初めて観る人にとっては、笑って泣いてスカッとして、そして一息置いて深く考えさせられる作品だが、後味は最高になるはずだ。

今回ご紹介した作品

捜査班長 1958

配信
ディズニープラス スターにて全話独占配信中

情報は2026年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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