今祥枝さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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フリア~孤高の潜入捜査~

2022/07/29公開

主人公はテロ組織に潜入する女性捜査官。ノルウェー発・社会派クライムドラマ

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 北欧ドラマは質が高く、世界的に人気も高い。ハリウッドでリメイクされた作品も多く、2010年代に日本でも人気を博したサスペンス『THE KILLING/キリング』(デンマーク/2007年)や『THE BRIDGE/ブリッジ』(スウェーデン・デンマーク/2011~2015年)、当連載で前回紹介した『コペンハーゲン/Borgen』(デンマーク/2010~)あたりは、マスターピースだと思っている。

 北欧というくくり方はざっくりしているが、日本で視聴できる作品は、これまではデンマークやスウェーデンの作品が多かった(実際には北欧連合の合作が多いが)。近年は動画配信サービスの普及により、フィンランドやアイスランド、ノルウェーなどのドラマも以前より気軽に観られるようになった。当然あらゆるジャンルの作品があるが、やはりどんよりとした陰鬱な空気感や、重めの社会問題を取り入れたノワールタッチのサスペンスが好きな人にとってはたまらないものがある。

 北欧のテレビ業界もまた世界の潮流として、お国柄を前面に出しながら自国のコンテンツを国際市場にアピールしている。その一つが、北欧から世界へ拡大中の配信サービス、Viaplayだ。北欧各国のヒット作が並ぶViaplayの作品群の中から、日本上陸した1本がノルウェーの『フリア~孤高の潜入捜査~』である。

 過去を隠し、小学生の娘とノルウェーの山奥の町にある警察署に異動してきた警察官、アスゲール。雄大な山間の風景はのどかに見えるが、難民を収容する施設でヘイトクライムが発生する冒頭からして、いかにも北欧らしい社会派の側面ががんがん強調されていく。捜査を進めるアスゲールは事件の背後にある組織に近づく中で、組織に潜入捜査しているラグナの存在を知る。

©matti@bernitz.no/www.bernitz.no

 ラグナはPST(ノルウェー国家公安警察)の捜査官で、極右のブロガーでカリスマ的な象徴として君臨するカトーと接触するために、4年前に「フリア」という名前で極右ブログを立ち上げ、組織から信頼を勝ち得て1年前から潜入している。だが、カトーの実体はなかなかつかめないまま、大規模なテロ計画が進んでいく。

 舞台はノルウェーからドイツへ。極右組織と行動を共にするラグナを軸に、ドイツ政府のテロ対策部門のカティ、PSTの指揮官でラグナの潜入捜査をバックアップするインゲルが連携を取りながら、アスゲールも後乗りしてスリリングなドラマが展開する。本作のプロデューサーは、アメリカのテロを題材にした大ヒットドラマ『HOMELAND/ホームランド』(オリジナルはイスラエルのドラマ/2011年~)を参照したというのも頷ける。若干テンポは遅く感じられるが、残酷で苦い教訓に満ちた社会派エンターテインメントとして興味深い作品に仕上がっている。

©Haakon F. Lundkvist

 本作を観る上で重要な前提として、2001年に起きたアメリカ同時多発テロと、2011年にノルウェー・ウトヤ島で発生したノルウェー連続テロ事件がある。後者は白人の極右の男が、首都オスロにある政府中枢部で行った爆破テロで8名を殺害し、続いてウトヤ島で労働党の青年69人を銃で殺害した未曾有の悲劇だ。この事件については、犯人の主張がよくわかる『7月22日』(Netflix)と、何が起きたのかを描く『ウトヤ島、7月22日』(U-NEXTほか)という2本の映画が参考になるので、この機会に鑑賞してみて欲しい。

 フリアが潜入している極右集団は反移民、反イスラムを掲げ、ヨーロッパを自分たち白人の手に取り戻すという思想のもと、人々に訴える手段としてあるテロ計画を実行しようとしている。ブログやSNSを媒介として、過激な思想が伝播していくといった現代社会の非常に厄介な側面にもフォーカスしており、それらは非常にショッキングだが現実味がある。権力サイドにも協力者がいたり、ロシアが間接的に関係してくるあたりも、まさに現在進行中の物語だと思わされる。

 一つ気になるのは、本作で描かれるレイシズムや警察の捜査のあり方、繰り返し詳細に語られる極右の思想が、もしかしたら視聴者の偏見を助長し偏った主張を拡散することにつながるのではないかという点だ。あくまでも本作はエンターテインメントであり許容範囲だと私は考えるが、今の社会をダイレクトに反映したリアルな設定であるがゆえに、その扱いには慎重にならなければならないとは思う。

今回ご紹介した作品

フリア~孤高の潜入捜査~

WOWOWオンデマンドで全話配信中。(カタログハウスのサイトの外に移動します)

情報は2022年7月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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