地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
カレーム 宮廷料理人
2025/9/8公開
美食と愛憎と陰謀が交錯、ナポレオン時代の元祖セレブシェフ
画像提供 Apple TV+
メディアへの露出が多く、世界的に知名度が高い料理人で著名人との交流があり、料理界で絶大な影響力を持つスターシェフ。ゴードン・ラムゼイやアレックス・アタラからジェイミー・オリバーといったセレブリティ・シェフ(セレブシェフ)たちの名前は枚挙に暇がない。そんなカリスマ性を持ち、圧倒的なスター性を誇るセレブシェフの元祖と言われる人物を描いたのが、フランスのドラマ『カレーム 宮廷料理人』だ。
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ナポレオン時代、マリー・アントナン・カレーム(バンジャマン・ヴォワザン)はパリの貧しい家庭からパリの一流パティシエに弟子入りし、そのパティスリーの腕で名声を得た。さらに当時の一流シェフたちのもとで修行を重ねてセレブシェフとしてその名を轟かせていく。カレームのセレブぶりがどれほどのものかというと、彼が料理長を務めた著名人には政治家のシャルル・モーリス・ド・タレーラン=ペリゴールやロシア皇帝アレクサンドル1世、イギリスの摂政皇太子ジョージ4世など、錚々たる時の権力者たちの名前が並ぶ。
また、古典フランス料理を体系化し、フランスをはじめとするエリート層を顧客に持つシェフたちに絶大な影響を与えた。ドラマは、イアン・ケリー著『宮廷料理人 アントナン・カレーム』をベースに、1800年代初頭のパリを舞台にあり得たかもしれないフィクションを織り混ぜながら、激動の時代を生きたカレームの愛憎と陰謀が渦巻くドラマチックな物語を描き出す。
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野心にあふれ魅惑的で、頭の回転が早く、何よりも彼が生み出す料理の数々、特にデザートに関しては卓越した才能を発揮する。この料理の才能とカリスマ的な人柄を武器として、カレームは狡猾な政治家タレーラン(ジェレミー・レニエ)にスパイとして幾度となく重大な交渉(主に外交)の場においてミッションを託される。美食の提供により交渉を有利に導く、いわゆる「食卓外交」が本作の醍醐味だ。カレームはナポレオンに私怨を抱いており、同時に行方不明の父親の存在を盾にカレームに脅しをかける非情な政治家ジョゼフ・フーシェ(ミシャ・レスコー)を宿敵としながら、タレーランとの複雑で奇妙な関係を続けていく。
カレームをめぐる恋愛と政治絡みの緊迫した状況下での情事の数々はメロドラマ的で、美食とセックス、裏切りや愛憎が一体となった人間模様は甘美だ。しかし、それらはしばしば毒のように危険でもあり、高いリスクを意識しながらも人々の愛と権力、そして美食への欲望が尽きない姿は、ある意味で今も昔も変わらないと言えるだろうか。主演のバンジャマン・ヴォワザンは、賞レースを席巻している『一流シェフのファミリーレストラン』のカリスマシェフを演じてブレイクしたジェレミー・アレン・ホワイトのように、料理には妥協を許さず、大胆で繊細なシェフをセクシーに体現して印象に残る。
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本作のもう一つの主役は、義務教育で学ぶ世界史にあるような歴史的瞬間にふるまわれる、カレームの芸術的な料理とその料理を作る工程だ。食材がないなどの物理的な困難はもちろんのこと、カレームに課された「食卓外交」におけるミッションにはしばしば邪魔が入る。現代のように便利な状況にはないこの時代に、カレームは創意工夫を凝らして自分が納得する一皿を生み出すために死力を尽くす。
この面白さは、Netflixなどの動画配信サービスに山ほどある料理を題材にしたリアリティ・ショーをはじめ、前述の『一流シェフのファミリーレストラン』やAppleTV+のドラマ『神の雫/Drops of God』、あるいは『美味しんぼ』にも通じると思う。シーズン1第8話(最終話)ではナポレオンの戴冠式が描かれ、一般人の常識をはるかに超えたゴージャスで、遊び心に富んだ仕掛けが人々をあっと言わせる黄金のケーキが登場する。ヴェルサイユ宮殿とパレ・ロワイヤルで一部撮影されたロケーションや美術、セット、衣装、そしてカレームが腕をふるう料理など本物志向の映像世界にどっぷりと浸ってみたい。
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今回ご紹介した作品
Apple TV+「カレーム 宮廷料理人」
- 配信
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情報は2025年9月時点のものです。