今祥枝さんのドラマ批評 - BLOOD & SWEAT

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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BLOOD & SWEAT

2026/4/3公開

日本✕フィンランド共同製作のサスペンスドラマ

画像:BLOOD & SWEAT 1

 WOWOWと言えば、見応えのある作風の「連続ドラマW」のクオリティの高さに定評があるが、近年戦略的に国際共同製作に本腰を入れ始めたようだ。その流れの中で現れた一本として、『BLOOD & SWEAT』はなかなか象徴的な作品だ。『TOKYO VICE』(2022〜2024)が日本が舞台ではあるがハリウッド主導の作品だったとするなら、本作はかなり異なる。WOWOWと日本の制作会社AX-ON、そしてフィンランドのICS Nordicという3社協業体制のもと、日本と北欧、それぞれの製作スタイルと両国の文化が正面からぶつかり合っている。

 物語の入口は、いかにも“北欧ノワール”らしい。全身の血を抜かれ、奇妙な焼き印を押された死体。しかもその異様な遺体が、日本とフィンランド、約7800キロも離れた2カ国で同時に発見される。警視庁捜査一課の刑事・涼宮亜希(杏)が強引にフィンランドに飛び、フィンランド国家捜査局の刑事ヨン・ライネ(ヤスペル・ペーコネン)を相棒として連続猟奇殺人の真相に迫っていく。

 主演の杏は英語が堪能で、身体能力の高い亜希のイメージにぴったり。硬質な知性と人間的な脆さを同時に滲ませる芝居で、今回も“ただの有能な刑事”に収まらない奥行きを与えている。一方のヤスペル・ペーコネンは、フィンランドではドラマ『ヴァイキング 〜海の覇者たち〜』や映画『ブラック・クランズマン』などに出演し、国際的にも活動の幅を広げている国民的人気俳優。寡黙で影を背負ったヨンというキャラクターは、いかにも北欧ノワールの系譜に連なる雰囲気で、杏とのケミストリーもしっくりくる。

画像:BLOOD & SWEAT 2

 ミステリーとしての面白さはもちろんだが、国際共同制作ならではの見どころに醍醐味がある。それは日本とフィンランド、それぞれの“生活の手触り”が、物語の中に惜しみなく差し込まれている点だ。

 東京スカイツリーと水辺の風景に始まり、都会の団地や夜景から地方の神社や田舎の風景。対してフィンランドでは、白銀の雪原、凍てつく湖、深い森。どちらも単なるロケーションではなく、ストーリーテリングにおいて有機的に文化や精神性を背負った“場所”として機能しているのだ。

 特にフィンランド側の描写は、北欧ドラマファンにとってかなり楽しい。例えば、雪が降る中でも外で朝食をとるといった日本人には考えられない日常の断片が、妙に憧れを掻き立てる。制作に関わったフィンランド出身のダニエル・トイヴォネン(AX-ON所属)に取材した際に聞いた話だが、雪が降っていても外でコーヒーを飲むといった行為は“あるある”だと笑っていた。こうしたシーンの描写にはフィンランド人の監督のこだわりが反映されているのだが、それこそが日本人からするとまさに異文化体験そのものだ。

 北欧と言えば思い浮かぶサウナの描写も強烈だ。熱々のサウナから出て、雪の中を歩き、凍った湖に飛び込む。理屈では理解しても、見ていると「大丈夫か」と思わず心配になる。しかし、それもまた彼らの日常であり、文化なのだ。

 こうしたローカルな風景が、単なる観光的な挿入ではなくミステリーの不穏さと結びついていくのが巧い。しばしば登場する森の奥に分け入るシーンなどは、映画『ミッドサマー』を思わせる神秘性と不気味さを帯びており、この要素は物語に深く関わってくる。

画像:BLOOD & SWEAT 3

 興味深いのは、それがフィンランドだけの話では終わらないことだ。日本側でも土着の思想が描かれ、いわゆる“村”的な閉鎖性と神秘が顔を出す。文化的には遠く離れているはずの両国が、実は似たような精神性を持っているのではないか。そんな奇妙な共鳴が浮かび上がってくる。

 近年は、アメリカ主導で他文化を取り込み再構成するタイプの作品、例えばKカルチャーをモチーフにしたハリウッドによる文化的ハイブリッド作品『K-POPガールズ!デーモン・ハンターズ』なども増えているが、『BLOOD & SWEAT』は少し違う。どちらか一方に回収されるのではなく、日本とフィンランド、それぞれの文化を“そのまま見せる”ことを選択している。

 英語を媒介にしながら、日本語とフィンランド語を含む文化が交差し、時にすれ違い、時に重なり合う。そのプロセス自体がドラマの一部になっている。世界がOTT(インターネットを通じて動画、音声、メッセージなどのコンテンツを直接配信するサービス)で一つの市場になった今だからこそ、このような各々の文化の描写の正当性が誠実に映って好ましい。

画像:BLOOD & SWEAT 4

 もう一つ、本作が現代的なのは、その奥にあるテーマだろう。詳細はネタバレになるため避けるが、「人は極限状況で何にすがるのか」という問いが、物語の底に流れている。現実が過酷であればあるほど、人は合理性だけでは生きられない。心のよりどころや共同体、あるいはもっと曖昧な“何か”に救いを求めるのではないだろうか。

 それは、いま世界各地で困難に直面している人々の姿とも重ねることもできる。本作はあくまで娯楽作品だが、その娯楽の中で社会や人間の問題と接続することに成功している。この点は、従来の日本の実写の娯楽作品がやや苦手としてきた部分でもあり、国際共同製作という枠組みがうまく機能した結果とも言えるだろう。

 文化の違いを“面白さ”として提示しながら、その奥にある共通性にも光を当てる。『BLOOD & SWEAT』は、ミステリーやアクションの要素を軸にした純粋なエンタテインメントであると同時に、今の時代にふさわしい形で国際共同製作の一つの答えを提示している。

画像:BLOOD & SWEAT 5

今回ご紹介した作品

日本✕フィンランド共同製作ドラマ
「連続ドラマW BLOOD & SWEAT」

放送
WOWOWにて4月5日(日)22:00~放送開始(全8話)
配信
WOWOWオンデマンドにて4月5日(日)22:00~配信開始
第1話は無料放送・配信

情報は2026年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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