小西未来さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

>プロフィールを見る

リクエスト

オビ=ワン・ケノービ

2022/06/27公開

『スター・ウォーズ』シリーズ 最新作は、シリーズきっての人気キャラが主役の全6話ミニシリーズ

 ぶっちゃけ『オビ=ワン・ケノービ』(2022年)には期待していなかった。なぜなら、コンスタントに一定のレベルをクリアするマーベル・スタジオとは対照的に、ルーカスフィルムが手がける『スター・ウォーズ』シリーズは、控えめに言っても、むらがありすぎるからだ。

 ディズニー傘下となった新星ルーカスフィルムの第一弾『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)こそ批評・興行ともに大成功を収めたものの、その後の『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)、『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』(2019)が同様の成功を収めたとは言いがたい。

『ローグ・ワン』や『ハン・ソロ』、『スカイウォーカーの夜明け』に関しては方向性の対立から監督が途中交代しているし、ライアン・ジョンソン監督による野心作『最後のジェダイ』はキャラクター描写やストーリー展開をめぐり一部のファンからの激しいバッシングを浴びている。毎年2、3本の新作を発表し、平均点以上を獲得しているマーベルとは大違いである。

 ストリーミングサービスが乱立し、コンテンツで溢れるいま、世界的に有名なIP(知的財産)でないと生き残りは難しい。その点、この世に『スター・ウォーズ』ほどの知名度を誇るコンテンツはほぼ存在しない。それなのに、なぜルーカスフィルムは横綱相撲が取れないのか?

 実は、1999年に封切られた『エピソード1/ファントム・メナス』も、さんざん酷評されている。だが、ルーカスフィルムはぶれずに『エピソード2/クローンの攻撃』(2002年)『エピソード3/シスの復讐』(2005年)を手がけていった。生みの親であるジョージ・ルーカスが指揮を執っていたからだ。

 だが、2012年のディズニーへの売却をきっかけに、ルーカスは同社を去った。かくして、キャスリーン・ケネディ社長は次世代のクリエイターとともに、『スター・ウォーズ』の新たなチャプターを生みだしていくことになる。莫大な投資を行った親会社と、同シリーズを熱烈に愛するファンたちからのプレッシャーは相当なものだったと想像する。実際、もしも新三部作の時代にSNSがあったら、ルーカス自身だって猛烈なバッシングに気持ちが折られていたかもしれない。

 つまり、知名度が高すぎることがハンデとなっていたのだ。

 だが、2019年、ルーカスフィルムはついにヒットの法則を発見する。それは大量の製作費を投じて作られた5本もの超大作映画ではなく、『スター・ウォーズ』シリーズ初の実写ドラマ『マンダロリアン』だった。善良なヒーローからはほど遠く、顔すらみせないキャラクターを主人公にしたドラマが社会現象を巻き起こすことができたのは、“ベビー・ヨーダ”として知られるザ・チャイルドとの“親子”の絆を丁寧に描いたことにある。『スター・ウォーズ』世界の魅力を維持しつつ、新たな物語を紡ぐことが可能であることを同作は証明したのだ。

 時を同じくして、ルーカスフィルムは通算9作目となる『スカイウォーカーの夜明け』をもって、スカイウォーカー・サーガを終結させると発表した。既存の人気キャラクターから離れたほうが、自由に物語作りができることを悟ったのだ。いまではさまざまな企画が準備中である。

 さて、本題の『オビ=ワン・ケノービ』だが、もともとはスピンオフ映画として企画されていた。『スター・ウォーズ』ファンなら誰でも知っている人気キャラクターだけに、『ハン・ソロ』のような凡庸な作品になってしまうリスクがあった。

 なにしろ、オビ=ワン・ケノービといえば、卓越したジェダイの騎士であり、暗黒面に決して墜ちることのない強い心を持っている。そんな優等生を主人公にしたところで、葛藤など生みだせない。強くて賢いけれど、面白味がないキャラクターなのだ。

 そこで『オビ=ワン・ケノービ』のクリエイターたちは、主人公をどん底に突き落とす選択を下した。プライドも使命感も失い、幼いルークを見守ることだけを生き甲斐にしているという設定だ。そんな落ちぶれたオビ=ワンのもとに、旧友から救援依頼が届く。かくして、彼はいやいやながら冒険の旅に繰り出すことになるのだ。

 全6話で綴られるミニシリーズの『オビ=ワン・ケノービ』は、ヒーローの成長を描く古典的なストーリーパターンを採用している。かつてジョージ・ルーカスが『新たなる希望』(1977年)で十代の若者を主人公にして描いたパターンを、中年オヤジに差し替えているのだ。主人公の心の旅路をきちんと描きつつ、『スター・ウォーズ』世界のネタもてんこ盛りだ。これが面白くないはずがなく、実際、新三部作のどの作品よりも優れていると思う。

『スター・ウォーズ』はようやく次世代に引き継がれたのだ。

今回ご紹介した作品

オビ=ワン・ケノービ

ディズニープラスで独占配信中

情報は2022年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

週刊テレビドラマTOPへ