辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ゴシップガール

2022/04/20公開

ゴシップはいつの時代も蜜の味。コロナ禍のNYの「今」を写し取る青春グラフィティ

©2021 WarnerMedia Direct, LLC. All Rights Reserved. HBO Max™ is used under license.

 全世界がハマったドラマ『ゴシップガール』(2007~2012)放送開始から早15年。超富裕層が集まるNYの私立高校の噂話がブログに書かれている、という設定でした。今、ちょうど暴露系YouTuberが話題ですが、他人の暴露話は蜜の味。いつの時代も普遍的なテーマです。

 そして最終話から10年ほど経ってHBO Max(編集部注:米のビデオ配信サービス)オリジナルの新『ゴシップガール』が配信されました。前作はブログで暴露されていたのが、今回の舞台はInstagram、というのは自然な流れ。しかも話題の生徒にタグ付け(編集部注:投稿された写真の人物にリンクする機能)までして、誰も追求から逃れることができません。なんと噂話の発信源は、高校の先生たちでした。薄給で働き富裕層の生徒にバカにされている先生たちのルサンチマンがたまっていたようです。生徒たちの態度を正す、という大義名分のもと、情報戦が始まります。

生徒たちのゴシップを暴露していたのは、なんと教師…
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 アメリカの高校には学園の女王が君臨している、というのは15年経っても変わっていません。かつての『ゴシップガール』はセリーナとブレアというタイプの違う美女が覇権争いを繰り広げていました。今回の女王は、多様性を体現しているかのような、坊主頭のジュリアンです。インフルエンサー(編集部注:主にSNS上で強い影響力を持つ人)でもあるジュリアンはどんなファッションでも着こなし、自信に満ちあふれています。ただ最初から何の説明もなく坊主頭なので、見慣れるまで少し時間がかかりました。ジュリアンの異父妹で転校生がゾヤ。庶民的な高校から奨学金を得てセレブ高校へ入ってきて、ジュリアンに対しても臆せずぶつかっていきます。ジュリアンの友人のオードリーのBFのアキはバイセクシャルで、同じく男女とも両方恋愛対象の友人マックスを交えて3人で楽しむ関係に発展。早熟さと多様性が渦巻いています。

 かつての『ゴシップガール』もパーティシーンが多かったですが、どこか虚無感が漂っていました。今回も富裕層のパーティは楽しいのか楽しくないのかわかりません。一応コロナ禍の設定なのですが、とくにマスクをしている人がいないのも気になります。会場や料理がゴージャスなのは伝わりますが、SNSばかり気にしていたり、お互い品定めし合って一触即発の不穏な空気が漂っていたり……。安っぽいレストランで、Instagramへの投稿の戦略を練る教師たちの方が楽しそうに見えます。といってもその教師も投稿のルールを巡って仲間割れしたり、Qアノン(編集部注:米国発の陰謀論集団)が紛れ込んだりで、平穏無事ではありません。

©2021 WarnerMedia Direct, LLC. All Rights Reserved. HBO Max™ is used under license.

 とにかく皆、SNSに翻弄されすぎです。スマホばかり見ていて、ゴシップの投稿があると、学園中は大騒ぎ。とはいえ現実の社会も同様なのですが……。噂も一斉同時配信できるInstagram。ブログよりも影響力が増していて、ジュリアンが父親の女性スキャンダルの影響で失脚したときは、フォロワーだけでなくスポンサー企業も失ってしまい、ダメージが大きいです。しかしジュリアンは痛い目に遭いながらも、恋のライバルが現れた時は「彼女を酔わせて動画を撮ろう」なんて悪巧みをしていて懲りないです。そしてジュリアンの元カレのオビーが、異父妹のゾヤと付き合ったのを寝取った、という一件もありました。もしかしたら、坊主頭は伏線だったのでしょうか? やりたい放題しても、禊は済ませていますよ、というヘアスタイルだったのかもしれません。

 SNSの常習性や危険性を教えてくれる新『ゴシップガール』。展開や情報のスピードが前回以上で、ブログ時代が少し懐かしいです(といっても日本には未だに1日数十回もブログを更新する芸能人が存在していますが……)。また10年後くらいに新たな『ゴシップガール』が作られるとしたら、どんな情報伝達手段になっているのか楽しみです。

予告編

今回ご紹介した作品

ゴシップガール

U-NEXTにて見放題で独占配信中

情報は2022年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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