辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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明日、私は誰かのカノジョ

2022/05/23公開

300万部突破の人気コミックが実写化。現代女性の「心の闇(病み)」をシビアに描く

「東京でたった一人生きていくためにどれだけのお金が必要か……」
若い女性の切実な心のつぶやきからはじまる「明日、私は誰かのカノジョ」。美女たちが寂しげな瞳でほほえみかけるオープニングが印象的です。レンタル彼女やパパ活稼業で泡銭を稼ぐ女性たちの生活を描いたシビアな内容のドラマです。

 19歳の女子大生、雪(吉川愛)は、複雑な家庭で育ち、学費を稼ぐために「レンタル彼女」として働いています。
「はじめまして、雪です」と、デート相手の太ったメガネ男性にほほえみかけ、「オレみたいなキモい客にも……」と卑下する男性の手を握る雪。事務所でリピート率ナンバー1の彼女はプロの接客ぶりですが、「演じている時の言葉に本当のことなんて一つもないのに」と、さめた表情をかいま見せます。

 その雪の友達のリナは孤独を埋めるためとおしゃれするために、肉体関係ありのパパ活をしています。いっぽうで交際している彼もいたのですが既婚者だと発覚。ショックでナンパしてきた男性とラブホに行ってしまいます。といってもドラマではベッドシーンの詳細は描かれず、女性たちの感情や内面にフォーカスされています。
 前半、雪とリナという女子大生を中心にストーリーが展開していき、2人とも超絶かわいいのですが、内面は結構病んでいます。かわいさだけでなく、心の闇の深さでも競い合っているかのようです。

 雪は、レンタル彼女としてサラリーマンの壮太とグループデートに参加します。屈託なく映画の感想を述べる壮太を一瞥し、(想像力のない人)と、心の中で毒を吐く雪。そんな彼女の発する殺伐とした波動に影響されてしまったのか、壮太の女友達が雪の露出度高めの服を見てビッチだと揶揄。雪はますますダークな心境に……。

 数日後、壮太と偶然書店で再会した雪は心の闇が炸裂。友人の失礼を詫びる彼に対し
「見ないでよ! その視線が私を哀れにさせるの!」「私はあなたが知ってる雪ちゃんじゃない!」などと震え声で叫びます。家庭環境以外にも闇を抱えているようでした。

 メンタルが不安定な美女にかえって心惹かれたのか、その後、またデートの申し込みを入れた壮太。水族館で楽しげにデートして、彼に動物の生態の豆知識を教えてもらいながらも、(私もひなたぼっこしたら寄生虫……いなくなるかな)と、また闇が深い系の心のつぶやきが。

 リナの方も病んでいる度合いでは負けていません。「誰でもいいから誰か私を肯定して」と心の中で叫び、常に孤独感を抱いています。
「今すぐ会いたい……」と震え声で電話した相手は、パパ活相手のお金持ちのおじさん、飯田さんでした。病んでいる演技といえば、震え声、そんな暗黙のセオリーがあるようです。
「お金持ってて悪い人じゃなければ、お父さんくらいの年の人でも平気で寝られる」と豪語するリナ。飯田さんとは1回4万円でパパ活しています。百戦錬磨の飯田さんは狡猾で、リナに紹介された雪と個別に会い、1万円上乗せしてパパ活を持ちかけます。

 また、他にもアプリで女をあさっている飯田さんも相当ストレスフルで闇が深いです。申し出を断った雪に「君たち女の子の価値には期限があるってこと忘れない方がいいよ」と、最低なセリフを吐き捨てて去っていきます。後日、リナが寂しくなって飯田さんに電話をかけて、パパ活でことを済ませたあと、「もうさ、潮時じゃない」と冷たく告げる飯田さん。こんな邪気まみれのおじさんに若いエネルギーを吸い取られていたなんてもったいないです。

 しかし病んでいる女性の魅力は、さらに殺伐としているおじさんには響かなかったようです。壮太のようなまだ若くて女性経験も少なめでピュアな会社員なら、庇護欲をかき立てられるのかもしれません。実生活では使う機会がないですが、男性へのアプローチ法やお金を引き出すテクニックもさり気なく学べるドラマです。

今回ご紹介した作品

明日、私は誰かのカノジョ

放送
毎週火曜
MBS系 深夜0:59~
TBS系 深夜1:28~
見逃し配信
MBS動画イズム/TVerにて配信中
配信
ディズニープラスで全話配信中

情報は2022年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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