辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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絶叫パンクス レディパーツ!

2022/06/01公開

ムスリム女性だけのガールズバンドが誕生!抱腹絶倒の青春コメディ

©WTTV Limited 2021. ALL RIGHTS RESERVED.

 日本人から見ると異文化すぎて、謎めいた存在のムスリム(イスラム教徒)女性。ヒジャブの下に隠されていた音楽の才能や個性に驚かされるのが、青春音楽コメディ『絶叫パンクス レディパーツ!』です。舞台はロンドンでイギリスでも大ヒット。英国アカデミー賞(BAFTA)テレビ部門では3部門受賞(脚本賞、衣装デザイン賞、キャスティング賞)を果たしました。

 海外の青春ドラマというとキラキラしていたり、スペクタクルな恋愛が展開しそうなイメージですが、このドラマで描かれる青春はディープでどちらかというとダーク系です。

 ギターが特技のムスリムの理系女子、アミーナは猫をかぶって婚活に励む日々。しかしなかなか運命の男性には出会えません。いっぽう、ロンドンの片隅では同じくムスリム系女性たちが集まってパンクバンドの練習に励んでいました。メンバーは、肉屋で働き肉をぶった切りながら創作意欲を高めているギター&リードボーカルのサイラ、ウーバーのドライバーをしているドラムのアイーシャ、グロ系の漫画家でベース担当のビズマ、放火で投獄されたという噂もあるマネージャー、モンタズ、といった気骨あふれる面々。

 そしてそのバンド名は……「女体(レディ・パーツ)」!。「姉貴を殺してやる♪」「やっちゃえ!」「アイライナーを盗まれた♪」「クズだね!」と激しい歌詞を絶叫しながら演奏。曲は結構かっこよくて、一瞬で心掴まれ、この後ろ暗い青春を応援したくなります。しかし彼女たちは「こんなのダメ、オナニー以下よ」「そんなのある?」「痔よ」とあられもないトークを炸裂させ、音が薄っぺらいのはリードギターがいないから、とギタリスト探しをスタート。ある日、シリアの募金イベントで、ステージの陰でギターを弾いていたアミーナのギターの音色を聞き、彼女こそギタリストだと確信するメンバーたち。

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 しかしアミーナは人前に出ると緊張して嘔吐してしまうという難点が。この日もステージ上に出る羽目になって思いきり募金用のバケツに嘔吐。第1話の最後がヒロインの嘔吐シーンで幕を閉じる、という衝撃の番狂わせ的展開で期待が高まります。

 そんなアミーナは、バンドメンバー、アイーシャの弟でイケメンのアッサンにひと目惚れしていました。アイーシャが弟とのデートをセッティングするという特典をエサにアミーナをスカウト。しかしデートしても陰で「必死すぎてタイプじゃない」と言われてしまいます。私も以前嘔吐癖があったのでアミーナの気持ちが少しわかりますが、常に不安で自己肯定感が低くなり、それがにじみ出てしまって恋もうまくいかないのでしょう。バンドメンバーはアミーナを吐き気から解放してあげようとサポート。田舎で叫んだり、焚き火の前で自分を解放したり、アミーナは少しずつリラックスしているように見えました。

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 しかしスムーズにことが進まないのがこのドラマの見どころかもしれません。せっかくバンドのオーディションの機会を得たのに、アミーナが緊張して何も弾けず、デビューのチャンスを失ってしまいます。「全部ぶちこわし、私は破壊魔」と落ち込むアミーナ。メンバーは失望して離れていってしまいました。このどん底から後半どうやって持ち直すのか、予測がつかない展開に。

 でも、やらかすのはアミーナだけではなく、後半、メンバーそれぞれトラブルを起こして謝ったり反省したりで女の友情が深まっていきます。青春とは思えないほど、度重なる修羅場。でも、そのおかげでパンクバンドの音楽性が高まっていきます。幸せでリア充な青春だったら、「祖国に違和感♪でもフィッシュ&チップス」「即死でPTSD♪」なんてキレキレのフレーズの曲は作れないですから……。異文化でも価値観やユーモア精神は一緒だと共感が高まりました。

予告編

今回ご紹介した作品

絶叫パンクス レディパーツ!

配信情報
スターチャンネルEXにて字幕版・吹替版共に独占配信中
放送情報
BS10スターチャンネルにて放送
【字幕版】6月13日(月)より 毎週月曜よる11:00 ほか
【吹替版】6月15日(水)より 毎週水曜よる10:00 ほか

6月5日(日)夕方4:00 吹替版 第1話 STAR1で先行無料放送

情報は2022年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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