辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ユニコーンに乗って

2022/08/03公開

IT企業にデジタル音痴の中年新入社員が加入したら…?

 教育系アプリを手掛ける「ドリームポニー」の若きCEO、佐奈と、彼女をとりまく仲間たちの物語。佐奈を演じるのは永野芽郁、ビジネスパートナーの功は杉野遥亮、佐奈にとってカリスマ的な存在の女性起業家、早智を広末涼子が演じています。そして年齢差があるおじさん社員、小鳥を演じるのは西島秀俊です。

スタートアップ企業(編集部注:創業間もないベンチャー企業)がテーマというのは珍しく、意識高い系のキャラがたくさん出てくるのかもしれない、と興味を持って観たのですが、適度にスキがある登場人物たちに突っ込みながら観られる楽しいドラマでした。

 序盤は『マイ・インターン』のオマージュ的な要素が感じられました。2015年の名作映画で、若い女性起業家(アン・ハサウェイ)の会社に、シニア・インターン制度で採用された70歳の男性(ロバート・デ・ニーロ)が入社する、というストーリー。最初は浮いていた70歳も、スーツの着こなしやにじみ出る優しさで次第にCEOの女性に信頼されていきます。

『ユニコーンに乗って』も、年齢のギャップがテーマの一つのようです。元銀行員の48歳、小鳥が「ドリームポニー」の採用試験にエントリー。70歳に比べれば48歳は若いですが、このドラマでは徹底的にITが不得意なキャラとして描かれています。一緒に面接した、理数系に強い若者がその場で3DCGを披露していたのに比べて、「得意な言語とかありますか?」とプログラム言語を聞かれたのに「漢字検定準一級」と答えたり。すると、20代の起業仲間の面接官たちは「誰だよ。募集要項に年齢不問って書いたやつ」と後ろを向いてヒソヒソと陰口。これはむしろ意識低い系では……。しかも社員は「佐奈」「功」「次郎ちゃん」などと名前で呼び合って内輪ノリが激しいです。もし中途採用される側だったら、この空気感についていけないと思ってしまいそうです。

 ちなみに「ドリームポニー」は、陰口をいう風習が横行していて、3話で出資者のベンチャーキャピタルの社員が会社を訪問した時、「けど」を連発しているのを見て社員が「ケド男」という悪意がある似顔絵を描いて陰で笑っていました。バレたら出資も終わるのでは……。こんな空気の悪い会社、そのうち業績もトーンダウンしてしまいそうな予感です。

「ドリームポニー」の行き詰まりを前もって予感していたのは、広末演じる起業家の早智。「ユニコーン創出プロジェクト」(※編集部注:ユニコーン企業とは、創業10年以内で10億ドルの評価額を付けられている非上場ベンチャー企業のこと。非常にまれな存在であることから、架空の動物であるユニコーンの名が付けられた)の審査員である早智に、佐奈はなんとか取り入ろうとして、会社に押し掛けます。落合陽一並に忙しそうな早智に、短時間で自分の事業について売り込む佐奈。しかし、貧しかった生い立ちで同情を集めようとしている、と見破られてしまうのでした。

 それにしても野心にかられている佐奈はなりふり構わないところがあります。誰もが平等に教育を受けられるようにする、という企業理念は素晴らしいのですが、そもそも高卒で名門大に潜り込んで授業を受けていたという過去が。もぐりは犯罪とみなされる可能性もあるので、そんな人がエドテック(※編集部注:エデュケーション(教育)とテクノロジーを合せた造語)のCEOをやっていて倫理的に大丈夫なのか気がかりです。最初にビジネスコンテストに出場した時も、功や次郎と同じ大学のように名を連ねていました。もしかしたらこのことが伏線となって後半、炎上に発展したりするのでしょうか。全てが危ういような緊張感が漂います。

 早智に厳しい言葉をぶつけられ、仕事がうまくいかず、落ち込んで涙目になっていた佐奈と偶然会った小鳥はティッシュを差し出します。そういえば『マイ・インターン』でもこんな場面があったような……。佐奈は小鳥のことを「理念を共有できる人」だと感じ、いったんは取り消していた採用を決めるのでした。

 しかしそれから小鳥のITオンチぶりが明らかに。「相互フォロー」という単語を用語集で調べたり、改行するつもりが送信ボタンを押してしまったり、書類をいちいちプリントアウトしようとしたり、チャットの連絡を見逃したり、クリアファイルとパソコン内のファイルを間違えたり、失態続きです。カタカナに弱い小鳥に買い出しを頼んだ若い社員たちが「レギュラーダークモカダブルショット」とかやたら長い注文名を次々言うのはほぼいじめでは?やはりこの会社、雰囲気良くないです。むしろ良識ある小鳥が会社のムードメイカーになっていく必要がありそうです。

 それにしても,40代をITリテラシーが低い、という描き方に対しては,同年代としていろいろ思うところがあります。むしろ40代はパソコン通信からインターネット、SNSまでの通信の変化や、Windows98の発売やアップルの躍進など、IT業界の発展を肌で感じてきた世代なのでは、と思います。このドラマが、40代=ITができない、という変な認識を植え付けないことを願います。まだまだ働かなくてはならない世代なので……。

今回ご紹介した作品

ユニコーンに乗って

放送
毎週火曜よる10時 TBS系で放映中
配信
最新回を1週間Paravi、TVerで見逃し配信中

情報は2022年8月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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