辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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超サイテーなスージーの日常

2022/09/26公開

落ち目俳優のイタすぎる日常には女性の本音がいっぱい

©2020 Sky UK Limited. All Rights Reserved.

 炎上と隣り合わせの芸能人。日本もイギリスも同じのようです。スージーは15歳の時に華々しくデビューしたものの落ち目になり、30代半ばの今は時々ドラマや映画に出演し、生活費を稼いでいます。そんな彼女に突然、ディズニーの仕事という大型案件が、マネージャーのナオミによってもたらされます。大学教授で夫のコブに「歳食いすぎてるだろ」と突っ込まれながらも、耳の不自由な息子のフランクに「ママはプリンセスになるの!」と手話で報告。

 幸運に浸っている時ほど人はスキが多くなってしまいます。直後にスージーを奈落の底にたたき落とすようなできごとが。なんと夫以外の男性との「親密画像」がハッキングされて流出。ネットニュースに出てしまったのです。

 ショックの苦悩じわで一気に老け込んだスージー。家では撮影の仕事が行われていましたが、画像を見た夫が激昂し、「みんな出て行かなきゃエアライフルで皆殺しにする」と、脅しをかけます。スージーが明らかに自分ではない男性と一緒に写っていたので、釈明の余地はありません。「沈黙を通せば騒ぎも治るわ」と、やり手のマネージャ、ナオミは提案。スージーを演じるビリーパイパーと、共同クリエイターのルーシー・プレブルは、プライベートでも親友同士。女性による女性のドラマがおもしろくならないわけはありません。

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 ナオミ役のレイラ・ファーザドはバイセクシャルという設定で、男性社会に物申すというか、女性をエンパワーメントするようなセリフを放っているのが心に刺さります。

 悲惨な状況を描きながらも、コメディなのでギリギリの笑いで攻めてきます。流出後、スージーがコミコン(コミック・ブック・コンベンション)のトークイベントに出演。写真のニュースを皆知っている状況での出演でしたが、スージーは「こんな持ち方はどう?」と、なぜかマイクに角度を付けて性的な持ち方をしてみせます。

 スージーは一言多いというか、自分で新たなトラブルを作り出す傾向が。例えば、言わなければいいのに、自分の流出画像に小さく映っていた白い粉についてわざわざ知らせる感じで「あの白い粉は合法ですから!」と説明したり……。夫の授業風景を見学に行って、女学生と怪しいと疑ってみたり、悩みを作り出す才能に長けています。

 他にスージーの運気が下がっていく原因といえば、欲望に負けがちなところでしょうか。イベント後に立ち寄ったバーで、業界人のあやしいおじさんと知り合い、部屋についていってドラッグを吸引。そこにナオミも合流して、彼女も流れでおじさんと関係を持ってしまいます。スージーのウィークポイントはセックスとドラッグかもしれません。日常的に、息子の同級生の保護者との性関係を夢想。スージーの浮気相手で、画像に写っていたカーターも、たびたび彼女の妄想のネタに……。夫がなかなか妄想の相手にもならないのが淋しいですがリアルです。

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 唯一続いている仕事だったゾンビのドラマも、脚本家のカーターとの関係がこじれてしまい、先行きに暗雲が。次々とトラブルが振りかかります。残されているのは、良き母、良き妻としての生活。かわいい息子のフランクとの生活を充実させ、母親として地道に生きていく……息子とのシーンが増えてきたのでそんな展開になるのかと思ったら、ありがちなところに落ち着かないのがさすがです。

 せっかく手にしたミュージカルの仕事を、四文字言葉の悪態をついて出て行ったり、後半もスージーの受難は続きます。このドラマを観たあと、しばらく、スージーの精神状態に感化されて、実生活でも無駄にトラブルを引き起こしそうになるのが要注意です。

予告編

今回ご紹介した作品

超サイテーなスージーの日常

配信
「スターチャンネルEX」
<字幕版・吹替版>独占配信中
9月5日(月)より配信開始(毎週1話ずつ更新)
放送
BS10 スターチャンネル
STAR1 字幕版
10月11日(火)より 毎週火曜23:00 ほか
※STAR1にて、10月8日(土)13:00~ 第1話 無料放送
STAR1 吹替版
[二ヵ国語版]10月13日 (木) より 毎週木曜 22:00 ほか

情報は2022年9月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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