辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ハリー&メーガン

2023/01/23公開

全世界注目!英国王室のリアルドキュメンタリーシリーズ

Netflixシリーズ「ハリー&メーガン」独占配信中

 王室離脱以降、世間を騒がせているハリー王子とメーガンさん。Netflixと約1.5億ドル(約197億円)もの巨額の契約を結び、ドキュメンタリー番組『ハリー&メーガン』を制作。配信後は最初の4日間で2800万以上の世帯が視聴し、ドキュメンタリーの初週の記録を更新したそうで、世界中に話題になっています。2人のリアリティドラマともいうべきシリーズですが、前半(エピソード1~3)と後半(エピソード4~6)を拝見し、あまりにも自分たちを自画自賛している内容に驚きました。197億円もらって、自分たちの正当性を好きなだけ主張させてもらえるなんて、こんなにおいしい話はありません。

 エピソード1では、2人のなれそめなどが紹介。ハリー王子がSNSでメーガンさんの写真を見て興味を持ち、共通の友人が仲介したのが出会いのきっかけだったそうです。初デートで王子が渋滞に巻き込まれて遅刻。メーガンさんは「ああ、こういう人なのね。わかった」と思ったそうですが、現れた王子が汗だくで真っ赤になって申し訳なさそうな姿を見て、態度を軟化。渋滞なのでしかたない気がしますが、最初からメーガンさんが主導権を握ろうとしているのが表れていました。しかし隣で話を聞いているハリー王子の覇気がないような……。イギリス王室とメディアの関係性について語る時だけ生き生きしていました。メーガンさんを見ていると、自己肯定感の強さが羨ましくなるほどです。自分が少女時代に書いた結構長い詩を暗唱するシーンなど、表情から自己愛がにじみ出ていました。そんな自信あふれた姿にハリー王子は惹かれたのでしょうか。

 学歴の上でもメーガンさんの方が上で、年齢も上。自己主張も強く自分の意見をしっかり持っているメーガンさんにハリー王子は心酔しているようです。メーガンさんと出会ったのは、「干草の中で針をみつけたようなもの」だと語っていました。なぜわざわざ傷つける針に例えたのか……。おとぎ話の魔女の呪いのようです。無意識のうちに、メーガンさんの攻撃性を表現したのかもしれません。

Netflixシリーズ「ハリー&メーガン」独占配信中

 とにかく2人は、ジェンダーや人種の平等性、環境保護についての価値観を共有していいて、素晴らしい使命感を持った意識の高いカップルだと言いたいようです。
「お互い別々にやってきてそれが一緒になった。すごい合体です」とハリー王子。そんな2人は後世に残る世紀の大恋愛で結ばれた、ということなのでしょうか。全エピソード通してラブラブ写真が頻繁に挿入されています。といっても手つなぎやキスシーンくらいで、純愛路線の演出が。もっとサービス精神を発揮して、夜の夫婦生活エピソードなどを公開してくれてもいいように思いますが、キスシーン止まりで美しいイメージを保っています。

Netflixシリーズ「ハリー&メーガン」独占配信中

 いっぽうで、メディアやイギリス王室など巨大権力の被害者というスタンスで、時には涙ながらに訴えていました。
「私がどんなにいい行いをしても彼らは手段を見つけます。私を破壊するための」と、メディアの非道さについて語るメーガンさん。
「連中は兄を守るために喜んでウソをつく」とハリー王子も、英国メディアや王室を非難していました。

 この2人は今までいい思いもたくさんしてきたと思いますが、基本的に感謝が足りないような……。

 結婚した当初はわりと歓迎されていたそうですが、ロイヤルファミリー総出で参加したイベントの翌日、メーガンさんの写真がタブロイド紙の一面を飾ってから、嫉妬の念を抱かれ、風向きが変わってきた、と2人は主張。
「私は、『オーマイゴッド!』って言ったの」と、メーガンさん。その時は絶対喜んでいた気がしてならないですが……。

 ハリー王子によると、イギリス王室の、それぞれのファミリーごとの広報官の熾烈なバトルもあるようです。メディアに手の平返しされてメーガンさんは落ち込み、「私がいなくなればいいと思った」という心境に……。2人は王室から解放されたいと思うようになります。

 でも、離脱したら離脱したで、英連邦やイギリス王室にとってメーガンさんを失ったことは大損害だ、と友人たちに口々にコメントさせていました。
 ハリー王子も「誰もが僕の妻について大きな機会を逃しました。世界的な損失です」と、愛妻を過大評価。

 そもそも自分たちから離脱したかったのでは? それとも離脱させられたの?と、もやもやさせられます。そして、メーガンさんやハリー王子に肯定的なコメントしかしない友人たちはいったいいくらギャラをもらったのか気になるところです。

Netflixシリーズ「ハリー&メーガン」独占配信中

 自分最高、というマインドのメーガンさんは、英国の歴史や伝統についてあまりリスペクトがなくて、女王陛下へのカーテシーというお辞儀をわざと大げさにやって、中世みたいと笑ったり、イギリス国歌をGoogle検索したと鼻で笑いながら語っていました。そんなメーガンさんを注意することもなく、言いたい放題にさせているハリー王子。恋は盲目です……。

 当初、予告編でメーガンさんがエルメスのブランケットがかけられた椅子で泣いているシーンが流れ、物議を醸していましたが、エピソード6を見たら苦悩の涙ではなく、宿敵「デイリー・メール」紙に勝訴した喜びの涙だったことがわかりました。人騒がせですが、ここまで挑発された「デイリー・メール」紙が今後も黙っていないような……。ハリーとメーガンの世界を巻き込んだリアリティードラマはこれからも続いていくのでしょう。

 この壮大で不毛な物語を終了させるには、メディアが一切2人を報じないで、そっとしておく、というのが良いのかもしれません。プライバシーを守るのが2人の一番の望みなら、それでハッピーエンドなはず。でもメーガンさんの承認欲求がそれではおさまらなさそうです……。

予告編

今回ご紹介した作品

ハリー&メーガン

Netflixで独占配信中

情報は2023年1月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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