辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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しょうもない僕らの恋愛論

2023/02/08公開

ロスジェネ世代の心に刺さる中年世代のラブストーリー

 40代になると、人生を振り返りながら、これまでできなかったことや反省点ばかり思い巡らせてしまう……そんな世代が感情移入しそうなのが「しょうもない僕らの恋愛論」。

 しかも主人公の、優柔不断でさえない中年男性を眞島秀和を演じるというので、それだけでも期待が高まります。

 第1話で、デザイン会社の仕事で、世代交代の風を感じ、悩む筒見拓郎(眞島秀和)。友人との集まりでは「そろそろ結婚でもしろ」「さみしいぞ~おじいさんのひとり暮らし」などと忠告され、中年の哀愁が高まります。暗い部屋に帰宅すると、スマホに着信があり、20年前の学生時代に好意を寄せていた安奈からのSNSの友達申請が届いていました。申請を許可するまで何日も悩む、というのが、人生の勢いを失っている姿をリアルに表現しています。

 申請するまで、安奈との過去が走馬灯のようによぎります。大学時代、ピアノを弾いていた安奈を、バンドにスカウトした拓郎。男子3人に女子1人の紅一点編成で、拓郎はギターとボーカル、安奈はキーボードでした。部室で練習に励んでいた青春の日々……。バンドブームを通過してきて、何かしらバンド経験がある40代視聴者の心に刺さりそうです。それにしても今はパッとしない拓郎が、大学時代バンドで一番目立つギター&ボーカルだったとは。当時が人生の全盛期だったのでしょうか。

 申請を許可すると、安奈からは「今度の土曜日、会えませんか?」というメッセージが。女性の方が積極的……と思わせて、待ち合せのカフェに行くと、待っていたのは安奈の娘、くるみ(中田青渚)でした。シリアスな表情のくるみに、すでにフラグが立っていますが、安奈について尋ねるとなぜか過去形で返すくるみ。ついに「先月、母は死にました」というショックな事実が告げられます。まだ四十九日も済んでいない時期ですが、母の遺品を見ていて、かつて仲が良かった拓郎の存在を知り、会ってみたかったようです。もしかしたら安奈の魂が、くるみを遣わせたのかもしれません。

 しかしくるみは、そのあと、男友達に向かい「お母さんがなんであの人を……全然わかんない」「まったくイケメンじゃないただのおじさん。弱そうだし」と拓郎を批評。ディスりながらも、どこか気になる様子の思春期女子でした。

 後日、ひとりで拓郎のもとを尋ねるくるみ。母の遺した学生時代のカセットを聴きたいとのことですが、女子高生が40代男性の家に行くとは危険です。しかし「弱そうだし。私でも勝てそう」というところで安心していたのでしょう。

 カセットプレイヤーで大学時代の拓郎の曲を再生するシーンを観て、いつの時代の設定なのか気になりました。2020年代から20年前だと2000年になりますが、当時流行っていたのは、BUMP OF CHICKENやくるり、チャットモンチーなど。でも、拓郎の曲はそれより前の90年代の渋谷系っぽい印象です。ネオアコバンド、ブリッジなどを彷彿とさせるような……。カセットテープというのも90年代感があります。原作漫画の設定とドラマでタイムラグがあるのかもしれません。

 当時、安奈とお互い惹かれ合いながらも、突然大学を辞め、彼女の前から姿を消した拓郎。くるみにその理由を尋ねられたけれど、率直に答えることができません。

 2話では、拓郎の当時の行動の謎が明らかに……。くるみに誘われて、拓郎は通っていた大学を久しぶりに訪れます。勝手に当時の部室のドアを開けて、20年前の場面を幻視。それにしても気になるのは拓郎のファッションです。デザイナーという職業もありますが、ダッフルコートにタートルネック、前髪重めのヘアは、40代にしては若いです。やはりネオアコ世代の当時のフッァションなのでは……。オザケンの影響も感じます。拓郎は楽しかった大学時代でファッションやヘアスタイルが止まっているのかもしれません。

 拓郎が連絡を断った理由は、急に父親が倒れて、実家の借金も発覚し学業が続けられなかったから。そのことを負い目に感じて連絡できなかったそうです。当時はSNSで近況をチェックすることもできなかったのでしょう。

「好きなようにフラフラ生きてきていろいろ選択を間違えた」という拓郎のつぶやきは共感度が高いです。ロスジェネ世代の心に刺さりそうなセリフです。普通に結婚し家庭を持ち、出世、という人生以外にもスポットを当てて、希望を見出してくれるドラマなのでしょうか。

 また、拓郎の姿を見て、どうやって年を重ねていくのが良いのか、ファッションやライフスタイルのヒントにもなりそうです。とりあえず40代のネオアコファッションは、眞島秀和ということもありますが、ギリギリ大丈夫でした。

今回ご紹介した作品

しょうもない僕らの恋愛論

放送
日本テレビ系列にて毎週木曜よる11:59~放送中
配信
TVerにて最新話を1週間無料配信中
huluにて全話配信中

情報は2023年2月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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