辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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きらめく帝国 ~超リッチなアジア系セレブたち~ ニューヨーク編

2023/03/10公開

NYの超セレブ生活を遠く日本から垣間見る

Netflixシリーズ『きらめく帝国 ~超リッチなアジア系セレブたち~ ニューヨーク編』独占配信中

 「金持ち喧嘩せず」ということわざがありますが、もしかしたら海外では通用しないのかもしれません。『きらめく帝国』シリーズは、アメリカでゴージャスなライフスタイルを送る超富裕層アジア人のリアリティドラマ。成功者だからといって人格が伴っているとは限らない、というのは前シリーズのLA編『きらめく帝国~超リッチなアジア系セレブたち~』で確認済みです。

 そして今回の『きらめく帝国 ~超リッチなアジア系セレブたち~ ニューヨーク編』を、楽しさ半分、怖いもの見たさ半分でチェック。主な登場人物は……、LAから引っ越してきた中国系アメリカンのドロシー・ワン(父親が不動産系のCEOで大富豪)、香港出身のファッションブロガー兼スタイリストのティナ・リュン、シンガポール出身のデザイナー、リン・バン、そして中国系とスコットランド系のミックスで編集者のブレイク・アビー、香港出身の投資家でカジノを運営する超大金持ちのスティーヴンと年の差妻デボラ、父親がタイの大富豪で、コロンビア大学に通うお嬢様のナム・ラクス、野心家でウェルネス系企業の最高事業成長責任者(CGO)で台湾系のリチャード・ワンと彼女のヴィカ・アビアエバ、など。皆さん普通に億単位の資産をお持ちです。

Netflixシリーズ『きらめく帝国 ~超リッチなアジア系セレブたち~ ニューヨーク編』独占配信中

 こうして見ると日本人はいないというのに、日本の経済力や国力の斜陽ぶりを感じて切なくなります。ちなみにLA編には武器商人の娘で日本人の血を引くアナという強烈な女性が出てきました。今回は日本人として誰に感情移入したら良いのか……というかクセが強すぎて誰にも感情移入できません。まず、メイクが威圧的で抜け感というものが一切感じられないです。日本ではここ何年もメイクやファッションで抜け感が大切にされ、わびさびに通じる文化となりつつありますが、生き馬の目を抜くNYでは抜け感とか言ってたらサバイバルできないのでしょう。出てくる女性の多くはアイラインが黒々としていて、戦闘モードを感じさせます。

 ドラマは序盤から、早くも火花が散っていました。ドロシーがNYに引っ越してきて人脈を広げるためスティーヴンとデボラ夫妻のパーティに赴くのですが、2時間遅刻してしまいます。ギャラリーみたいな空間で集うだけなので遅れても良い気もしますが、デボラは不快に思ったようです。ドロシーの方は、パーティにオードブルがなく空腹になって不満を抱きます。「セロリスティックもナッツもない!」と文句を言うドロシー。二人のSNSで嫌味を言い合う場外乱闘に。超リッチなセレブなのにこんな小さいことで喧嘩になるとは。以来、別のパーティで顔を合わせても無視したり、デボラにいたっては番組内のインタビューでドロシーの名前をわざと「ティファニー」と間違えまくったり、狭い社交界に気まずい空気が立ちこめます。

 ドロシーやデボラ、皆に対して良い顔をしていたリチャードは、常に笑顔なのが逆に不自然ですが、大きなことをやりたい、という思いでチャリティーパーティを企画。ドロシーやティナのフォロワーを目当てにして、2人にチャリティー商品の企画として知らない男性とのブラインドデートの権利を出品させます。他にも要求が多いリチャードに、ティナとドロシーは怒って約束を無視したり、ここもまた不穏な関係に……。後半、リチャードのいないところで、営業マンっぽくて偽善者だとか、昔金持ち男のパシリで女性をあてがうアテンドをしていた、など陰口を言いたい放題です。ドロシーは友だちのティナ思いではありますが、何かあると負の念が爆発するタイプのようです。

Netflixシリーズ『きらめく帝国 ~超リッチなアジア系セレブたち~ ニューヨーク編』独占配信中

 インフルエンサーのティナは、ファッションウィークで、やっと招待券を手に入れたシャネルのショーに遅刻してしま い、門前払いで号泣。キャリアについて改めて考えさせられることに。登場人物の中でも、一番親近感が持てるキャラかもしれません。

 一番浮世離れしているのがタイの超絶お嬢様ナム。雰囲気が高橋真麻さんっぽくて、お嬢様は世界共通で似た雰囲気になるのでしょうか。女友達と海に行くことになったら、担当のスタイリストに水着のコーディネイトのセットを持って来させます。大学に行く服も、プロのスタイリストがコーディネイトしているとか。親のカードでドレスを一気に100万円以上買って、危うく仕送りを止められそうになっていました。

 つわものの女性ばかりが出てきますが、精神的に強くて、男性に依存しない、というのがポイントかもしれません。後半、夫が妻に転勤でついて来てほしいと伝えたら「私はニューヨークから引っ越さない」と明言したり、またあるカップルで男性がプロポーズしようとしたら「もしかしてプロポーズするつもり?」と押しとどめるシーンもありました。多分、彼女たちは何よりも、身近な男性よりもNYという街を愛しているのだと思います。

 このアジア系セレブたちと、誰か対等に渡り合える日本人はいるのか、観ながら考えていましたが……デヴィ夫人クラスにならないと負けてしまいそうです。国力が低下している日本から、遠くなった摩天楼を仰ぎ見るつもりで観賞しました。

予告編

今回ご紹介した作品

きらめく帝国 ~超リッチなアジア系セレブたち~ ニューヨーク編

配信
Netflixにて独占配信中

情報は2023年3月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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