辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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王様に捧ぐ薬指

2023/05/02公開

今季NO.1の「ビジュアル最強ドラマ」。契約結婚の行方は…?

 契約結婚もののドラマは常に需要があるようです。冷静から情熱へ、お互いへの思いを募らせる流れが、脳内の快楽ホルモンを分泌させるのでしょう。

 さらに、Sキャラ、玉の輿などの要素が入ったら、見たい度が高まります。『王様に捧ぐ薬指』で、契約結婚する夫婦を演じるのは、橋本環奈と山田涼介。実際ビジュアル的にも最強の2人なので、目の保養にもなります。人気の少女漫画が原作なので、展開もわかりやすく、こういうシーンが見たいという女心のツボを抑えています。

 橋本環奈が演じる羽田綾華は、蒲鉾屋を営む大家族の長女で、性格に難があるけれど見た目は誰もが認める美人。きれいな分、同性には嫉妬され、男性には勝手に惚れられてトラブル続き。職場で言い寄られたり、勝手に男性同士が彼女を巡ってバトルしたりで、職を転々としてきました。中学時代の綾華の回想で「100年に一度の美女!」というネットの記事を「これおまえだよな?」と男子に見せられるシーンがありましたが、実際の橋本環奈はアイドル時代「1000年に1人の美少女」と評判でした。橋本環奈自身、リアルな実体験があるので演技しやすそうです。

 昨今、見た目の良さを珍重するのは「ルッキズム」と批判されがちですが、原作の漫画は2014年に始まったので、まだ現代のような風潮は薄かったのでしょう。また、容姿が美しいと良いことだけでなく苦労も多い、という展開になれば、批判もかわせそうです。

 ウェディングプランナーの仕事を見つけた綾華は、面接会場で代表取締役の新田東郷(山田涼介)に「ずいぶんと職を転々とされてきましたね。男性関係ですね」と問い詰められます。「ほんと何もしてないですよ。バカな男たちが勝手に惚れてきただけなんです。この顔が良すぎるんですかね?」と、開き直る綾華。強気な彼女のことを東郷は気に入ったようです。その後、綾華に「俺と結婚してくれ」と突然プロポーズ。

「別に結婚に愛って必要ないよ」と言い放つ東郷は、何不自由ないお坊ちゃん育ちで、彼は彼でこじらせていそうです。『バチェラー』的な、たくさんの候補の中から運命の女性を選ぶ番組に出演し、結局誰も選ばなかった過去も。綾華ほどタフな女性が他にいなかったのでしょう。綾華もプロポーズをサクっと受け入れました。お互いのことをほとんど知らず、恋愛感情もないのになぜ……と思ったら、それぞれメリットになる契約結婚だったようです。

 綾華は生活苦の実家を助けるため、東郷は会社のウェディング事業の業績を上げるため、映える妻と動画をアップし、若者に結婚式への興味を持たせたい、という魂胆が。東郷の両親はそれを察しているようにも見えましたが、会社の業績のためなので、綾華との格差婚も受け入れているようです。東郷の母親を演じるのは松嶋菜々子。久しぶりに拝見しましたが、相変わらずの美貌で、そういえば『やまとなでしこ』では玉の輿を夢見るヒロインを演じていたのも奇遇で感慨深いです。一見厳しそうに見えた東郷の母親は、実はそこまでいじわるキャラではなく、華道や茶道など上流階級のたしなみを綾華に伝授しようとしていました。

 新婚とはいえ、当初は別居して通い婚状態だった綾華と東郷。動画撮影の時はキスしたり、ラブラブな雰囲気を醸し出していますが、撮影が終わった瞬間、パッと離れたり、キスした口を拭いたり、あからさまにイヤがっていました。「キスとか契約に書いてありましたっけ」「契約金いくら払ったと思ってる」と、あくまでドライな関係の2人。

 しかしところどころに、何かが芽生えそうな伏線が……。綾華に婚約相手を奪われたと勝手に恨みを抱いた女性が式に乱入し、綾華は手にケガをしてしまいます。東郷は、控え室でバンソウコウを貼って手当てして、優しさを見せていました。さらに、「その手じゃドレスが脱げないだろう」とドレスの背中のボタンを外し、綾華が少しドキドキしているシーンが。

 さらに、結婚式の夜、疲れてソファで寝てしまった綾華を、東郷がお姫様抱っこしていました。胸キュンシーンが絶妙なタイミングで出てきます。また、別の日に綾華が東郷にふさわしいハイブランドの服を買ってもらう場面もありました。「プリティウーマン」的なシーンはマストです。ハイブランドの服に着替えた綾華がかわいすぎたのか、東郷が動揺しているような表情に。

 でも、2人が交わした婚前契約書には「甲と乙は、互いに恋愛感情を抱かないものとする」と明記されていたのです。既にフラグになってます。この項目が2人の恋心を封じ込め、悶々とした思いが膨らんでいくのでしょう。第2話くらいで既に、お互いのことが気になってきているようでした。

 とくに東郷は、お姫様抱っこや手つなぎなど、綾華にさり気なく肉体的な接触を仕掛けているように見えます。演技でイチャついていたら男性本能的に火がついてしまったのでしょうか。それとも、気のない女性を落とす趣味が……? 契約<性欲なのかもしれない、という現実に気付かされました。

今回ご紹介した作品

王様に捧ぐ薬指

放送
TBS系にて毎週火曜よる10時~放送中
配信
TVerにて最新話を1週間無料配信中
Paraviにて全話配信中

情報は2023年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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