辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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タイラー・ヘンリーの死後の世界

2023/05/30公開

霊視を通してアメリカの「今」が視える

Netflixシリーズ『タイラー・ヘンリーの死後の世界』独占配信中

 アメリカの有名な霊能者、タイラー・ヘンリーに密着するリアリティシリーズ。まだ27歳と若いですが、10歳の頃から能力を発揮し、今まで30万人以上鑑定してきたというキャリアの持ち主。クライアントの元に赴き、亡くなった近親者のメッセージを伝えることで、人々に救いと癒しをもたらしています。

 霊能者というとクセの強いおじさんが出てきそうですが、タイラーは画面映えするルックスで、自他ともに認めるマコーレ・カルキン似。子役以上に完璧な話術と気遣いで、悲しみの中にいるクライアントの心に寄り添います。日本の霊能者は、テレビ番組などで、亡くなった人からの感謝や戒めの言葉などありがたいメッセージを伝えることが多いですが、タイラーの場合はもっと具体的で核心に迫ります。

 女友達のグループに呼ばれて行った時のこと、彼女たちの共通の親友、ローレンの人となりについて話したあと、タイラーは彼女が病気を発症して命を落とすまでの心境の変化について伝えました。最後に「今、皆さんと繋がれてすごく喜んでいる」と、心温まるメッセージで締めくくっていました。

 病気で亡くなるのはまだ平和な方で、黒人男性のクライアントに呼ばれた時は、「若い人と少し年上の男性が現れました」とのことで、1人は多くの荷物を持っていたそうです。その場合は「暴力的な死」を意味するとか。

タイラーはノートに半ば無意識に図形を描きながら霊視しています。時々、キャンバスに本格的な絵も描いていて、芸術活動によってビジュアル化される霊視の力が高まったようです。

Netflixシリーズ『タイラー・ヘンリーの死後の世界』独占配信中

 また、霊能力をアップする練習として「暗い部屋で鏡を見つめる」ということを推奨していました。だんだん記号や文字、人の顔が浮かんでくるそうです。普通の人はあまりやりたくない訓練です。

 イメージが見えるだけではなく、実際に死亡時の痛みや苦しみを感じることも。暴力的な死を迎えたのは依頼者のいとこで、霊視中に「胸に激しい痛みが……参ったな」と苦笑。「横から撃たれた?」というタイラーの言葉に「おいマジかよ」と驚くクライアント男性。亡くなった人と同じ痛みを感じてしまう能力は辛そうです。

 日本と違ってアメリカの銃社会の恐ろしさを感じるのは、銃で殺された人が結構出てくるということ。ギャングとの揉め事で撃たれたり、音楽フェスの銃乱射事件に巻き込まれたり…。非業の死に巻き込まれた人は残された人に対して「引きずらないで」と言っていることも多いようです。また、死んだ時の姿ではなく、生きていて楽しかった姿を思い出してほしい、というメッセージも…。これは全ての人に言えることだと思うので、あの世に行った家族や友人のことを思い出す時は元気な姿を思い出した方が良い、と学びました。

 タイラー自身も、祖母が殺人を犯したという因果な家庭に育ったようです。調べたら祖母と母は実際血が繋がっていなかったり、この番組では霊視だけでなくタイラーの家族の問題も明かされていきます。自分が複雑な家庭に育ったからこそ、苦しんだり悩んでいる人の気持ちがわかるのでしょう。

それにしてもタイラーのリアクションは完璧です。相手が、友人の死について語るとき、同情と、励ますような笑顔が入り混じった表情を見せたり、大切な家族の死を悲しんでいる人には、下の方一点を見つめて遺憾の表情を見せたり…。笑顔と泣きそうな顔の中間で、ゆっくりとうなずく、という表情も。相手の心を慰め、寄り添うような表情がすぐにできるのは、さすがプロです。悲しんでいる人に対し、どういう表情をすればいいのか参考になります。

Netflixシリーズ『タイラー・ヘンリーの死後の世界』独占配信中

 大半が悲しい死や不穏な事件の話で暗くなりがちなところ、唯一の癒しと目の保養になるのが、タイラーとイケメンの彼氏のシーン。2人が見つめあって料理したり、自然の中を散策したりする姿がとにかく仲良さそうで心温まります。愛の力が、霊の話の恐怖感を和らげてくれます。この2人の関係はずっと平和で幸せであることを祈らずにいられません。

予告編

今回ご紹介した作品

タイラー・ヘンリーの死後の世界

配信
Netflixにて独占配信中

情報は2023年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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