辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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4月の東京は…

2023/07/13公開

人気BLコミックを実写化。初恋の相手との再会から始まるラブストーリー

 深夜枠でBLドラマ……期待や煩悩が高まります。常に一定の需要があるBLドラマは、毎シーズンのようにどこかで放映されているという、良い時代になりました。
「4月の東京は…」は、櫻井佑樹(劇団EXILE)と髙松アロハ(超特急)がW主演。アメリカ帰りの滝沢和真(櫻井佑樹)が新入社員として広告代理店に入社すると、10年ぶりに会う中学時代の同級生、石原蓮(髙松アロハ)と再会。しかし2人は、中学時代、ただの友だち同士ではないようで……。2人の過去と現在が絡み合いながら、会わなかった間の秘められた過去が明らかになっていきます。

 会社で久しぶりに和真に会った蓮は「おお、久しぶり」と和真の頭をクシャクシャします。少年時代の無邪気さを残しつつ、相手をかわいがる思いが現れているようです。中学時代も蓮は和真の頭をクシャクシャしていました。女性相手だったら髪の乱れが気になりますが、男子同士だからこそのワイルドなスキンシップです。
 入社して早々、七三分けみたいなヘアスタイルの、いかにも性格が悪そうな上司に絡まれる和真。報告書を今日中に提出しろ、などと無茶ぶりをされます。いっぽう、フランス留学経験もあり才能あふれるアートディレクターの蓮は、社内でも輝きを放っていました。中学時代も一軍オーラを放っていた蓮を、和真はどこか憧れの眼差しで見つめていました。BLの関係性としては和真が受けで蓮が攻め、とわかりやすいです。

 久しぶりに会ったのに、素っ気ない蓮ですが、和真がピンチになるとさり気なく助けてくれたり、酔いに任せてスキンシップしてきたりで、和真を翻弄します。イヤな上司に最初の話と違うことを言われたときは、蓮が用意周到に上司の発言を録音していて、和真が間違っていないことを証明してくれました。ペン型録音機を常備していてスパイかと思いましたが、もしかしたらそのくらい、蓮は人を信じられないのかもしれず、何か過去にトラウマがあったのかもしれないと推測されます。

 花火大会の夜、他の同僚が酔いつぶれて寝てしまうと、急に和真の膝に勢いよく頭を乗せて、膝枕の体勢になる蓮。膝枕というよりも、位置的に股間枕といっても良いくらいです。その体勢で、和真の頬を下から触れる蓮。いったい2人はどんな仲なのかと気になってきますが、中学時代の回想シーンその関係が明らかに……。蓮が、年上の男性と援助交際風に一緒にいるところを和真が発見し、「触るな。警察呼ぶぞ!」とおじさんを追い払います。「オレはただセックスがしたいだけだ」と言い放つ蓮に、つい「だったらオレとしよう!」と口走る和真。第3話では、男子中学生同士のラブシーンという、昨今のテレビドラマでもなかなか観ないような刺激的な場面が展開。半裸でキスしたり抱き合ったりと、わりとソフトな演出でしたが……。キスシーンのあとは,少女マンガで古典的な、シーツの上で握り合う2人の手が映し出されました。ベタなところが逆に萌えを誘います。深夜室内でこっそり観たいシーンです。好意を持っていたキラキラ系の蓮の初体験が、こんな場末のホテルで自分を相手に……と無性に泣けてくる和真でした。蓮に崇拝に近い思いを抱いているようです。しかしそのあと和真は高熱を出して髄膜炎やら急性肺炎を発症し、一ヶ月ほど入院生活に。退院したときは蓮はどこか遠くに行ってしまい、離ればなれになってしまいました。一回性交渉をしたら、いきなり入院とは……才能あふれるイケメンに見えて、蓮はサゲ◯ンだった疑惑も浮上します。

 場面は変わって、現代の2人が映し出されます。酔っぱらった蓮を和真は家まで送っていくのですが、部屋では中学時代の続きのように、押し倒されて……。「優しくしたら誤解されるぞ」と、蓮。そのあと「ベッド行こう」とささやき、10年ぶりに体を重ね合う流れに。
 今まで海外ものも含めていくつかBLドラマを拝見してきましたが、第3話で早くもセックスに至るどころか、実は中学時代に既にしていた、というのは類例を見ない斬新な展開です。原作の漫画にも興味がわいてきます。

 結ばれたあと、ありがちな筋書きは2人がラブラブになりながらも、元カレや元カノの登場で一波乱、というストーリーですが、このドラマでは想定外なセリフが飛び出しました。まるで彼女のようにかいがいしく朝食を作る、受けキャラの和真。対する蓮はクールな態度です。「和真、昨日はセフレとしてした。特別な意味なんかない。だからお互いのプライバシーはノータッチでいよう」と、蓮から驚きの提案が。さすがに和真も怒るのでは?と思ったら、「いいよ……なろう、セフレ」といきなり割り切っていました。

 そしてセフレになった2人は毎日のように行為をするのですが、蓮は明かりをつけず、行為中顔を見せないし、声も聞かせない、終わったらすぐに帰らせるという徹底ぶり。会わない間に、人に知られてはいけない何かの痕跡が刻まれているのでしょうか。蓮が身に付けている黒いバンドも気になりつつ、闇を感じさせます。そんな蓮のルールに従いながら、和真は均整の取れた半裸を見せつけ、蓮に自分の魅力をアピールしたり、仕事で疲れた蓮をねぎらったりとけなげです。

 最初はそっけなくてクールだった蓮ですが、形勢が逆転するのがこの手のドラマのカタルシス。第4話で意外と早くその兆しが。ベッドインまでも早かったし、最近のタイパを重視する若い視聴者に合わせているのでしょうか。ある日、和真の部屋に泊まった蓮は和真の過去の資料を見つけてしまいます。それは、急に会えなくなった蓮がどこにいるのか、和真が世界中リサーチしている資料でした。資料を見て、言葉を発しようとしても声にならない蓮。そのあと泣いていました。てっきり、ストーカー気質の和真に恐怖を覚え、怯えているのかと……。このあとサイコスリラー的な展開になるのかと思ったら、全然違ったようです。ここまで自分を探してくれていたことに感動した蓮は、和真とラブラブなムードに。歪んだ見方をしてしまい失礼しました。青年たちの純粋さに心洗われるドラマです。

今回ご紹介した作品

4月の東京は…

配信
TVerにて最新話を1週間無料配信中
MBS動画イズム、U-NEXT、Huluにて全話配信中

情報は2023年7月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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