辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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リクエスト

あいの里

2023/09/02公開

大人たちの恋愛模様が見られる貴重なリアリティ番組

Netflixリアリティシリーズ「あいの里」シーズン1独占配信中、シーズン2制作決定

『テラスハウス』が流行っていた頃、これで中高年バージョンがあれば…と思っていたのですが、この『あいの里』はそんな大人たちの恋愛模様が見られる貴重なリアリティ番組。35歳以上のさまざまな経歴を持つ男女が、古民家で共同生活しながら、リフォームや畑仕事に勤しむうちに、お互いの魅力を見出して恋に発展していきます。好きな人ができたら、敷地内の「愛の鐘」を鳴らして告白。OKなら2人で出ていき、断られたら告白した人が1人で去る、という流れです。スタジオの出演者は田村淳とベッキー。恋愛経験豊富な田村淳といろいろあったベッキーは、2人とも大人になって丸くなったというか、コメントも優しいです。

 職業もバラエティに富んでいて、心理学者や売れない俳優、コンビニ店員、経営者、料理人、ヨガインストラクター、カフェ店員、絵本作家、セラピスト、内装業など。まず、「あいの里」に男性4名、女性4名が集結し、荒れ果てていた古民家を協力してリフォームすることに。スマホは原則禁止ということで現代人には辛そうですが、目の前の人間関係に集中することができます。みなさんそれぞれ、これまでの人生が雰囲気に滲み出ていて個性豊かです。『テラスハウス』出演者のようなキラキラ間は薄いです。服装のおしゃれ度もテラハに比べると普通ですが、親近感は持てます。

Netflixリアリティシリーズ「あいの里」シーズン1独占配信中、シーズン2制作決定

 でも、素人にしてはカメラ慣れしているような……。目線も自然でカメラを意識しないように会話しています。調べたら、何人かは元タレントや女優など地味に芸能活動していたようです。住民の選考については、演技経験のある人もいましたが、職業問わず、本気で恋をしている人に参加してもらったそうです。彼らは毎日撮影されることで、だんだん華やかな雰囲気をまとい、服の露出度が高まっていました。

 大人になると我が強くなるのか、こだわりが強くなってどうでもいいことで言い争いに発展することも。心理学者のじょにいが寝る前に睡眠薬を飲もうとしたら、俳優志望のハリウッドに、心理学者なのに薬に頼るなんて、と責められたことでじょにいのプライドが傷ついたようで、皆のいる前で口論に。「2錠も飲んだと怒られましたが1錠しか飲んでません!」「俺は1錠って…」「2錠って言いました!」 と、どうでもいい内容で争っていました。

Netflixリアリティシリーズ「あいの里」シーズン1独占配信中、シーズン2制作決定

 そんなハリウッドは、鐘を鳴らしてユキえもんに告白。まだ成立する前から、ハリウッドは一人で気持ちが盛り上がったのかボディタッチが激しく、女性としては違和感強そうです。しかしハリウッドは自信満々で、男子部屋でパンツ一丁で「振られる理由が見当たらない」などと豪語していました。結果はフラれてしまい、1人で卒業。みなさん大人で涙もろくなったのか、誰かが鐘を鳴らして告白すると感極まって泣きながら見守る、というのが通例に。華麗なる学歴を自慢したり、心理学者としてアドバイスしたりしていたじょにいも、仕事が忙しくなったと単独卒業。自分の知性に見合う相手がいないと見限ったのでしょうか。

 料理人のアンチョビも、妙な自信を持っていて、カフェ店員のユキえもんとセラピストのトッちゃんの2人とも自分に好意を抱いていると錯覚。トッちゃんは、イケメン経営者のたぁ坊、シャイなIT役員の酒ちゃんなどに次々好意を抱きますが、彼らが好きなのは途中で入ってきたヨガインストラクターの美女、ゆうこりん。内装業の準平まで彼女に好意を抱きます。大人の年齢になったら、表面的な要素にとらわれず、人の内面を見るようになるのかと思ったら、結局は見た目……。ゆうこりんはたぁ坊と一緒に庭に小屋を作ったりして、距離を縮めていきます。しかし過去に信頼していた人に大金を騙し取られたたぁ坊はなかなか心を開いて深い話ができず……。大人になるとそれぞれの過去の経験が恋愛を阻むこともあるようです。

Netflixリアリティシリーズ「あいの里」シーズン1独占配信中、シーズン2制作決定

 60歳のみな姉は実は元ミス日本でバブル時代に青春を謳歌。18歳年下の男性との結婚歴もあって、年下もいける自信があったのかもしれませんが、なかなか恋愛対象として見てもらえず、アヒルや猿など動物を連れてきて、心を慰めます。でも同年代で素朴な魅力の中さんが来てから、2人は青春の再来のように楽しげな雰囲気に。それぞれ過去があっても、いったん忘れ、大人でも何歳になっても恋愛ができる、というポジティブ思いも湧き上がるリアリティ番組です。

 しかしあまり大人がはしゃぎすぎるのもどうかという意見も。焚き火の前で酔っ払ったトッちゃんやユキえもんが踊っている姿を冷ややかに見つめる酒ちゃん。あとで「40代中年男女が汚く酔ってる姿、誰が見たいんだ」と辛口コメントしていました。大人になるとそれぞれの価値観が固まってきて、幻滅するのも早いです。体力も限界があり、ノリや勢いもスローダウン。さまざまな訳ありな事情や固定観念を乗り越えてカップルになれたら、「テラスハウス」「あいのり」よりも奇跡的なできごとかもしれません。

今回ご紹介した作品

あいの里

配信
Netflixにて独占配信中

情報は2023年8月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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