辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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きみが死ぬまであと100日

2023/11/25公開

ありがちな余命ものドラマとは全く違う異色作

 2019年から2020年頃に「100日後に死ぬワニ」ブームがありましたが、2018年には漫画連載「君が死ぬまであと100日」が開始。実は3、4年前に「100日で死ぬブーム」が起こっていたようです。その「君が死ぬまであと100日」がついにドラマ化。コロナ禍を経て、人の死が身近に感じられることも多かったここ数年、世の人の心に刺さるドラマかもしれないと期待させられます。

 ドラマは、人の余命の日数が相手の体に重なって見える特殊能力を持つ高校生・津田林太郎(通称太郎)と、幼なじみのピュアな女子、神崎うみ(豊嶋花)のラブコメディ。幼なじみのうみにずっと片思いしていて、人生4回目の告白をした太郎。1話では、その告白にうみが「うん、お付き合いしよう!」と明るく答え、いきなり恋愛が成就します。感動し,号泣する太郎。しかし若い2人に忍び寄る試練が……。太郎が見ると、彼女の前に「100」という数字が表示されているのです。幼い頃から生き物の余命の数字が見えていた太郎。若くて元気な彼女の寿命はなんとあと100日しかない、という現実を突き付けられました。

 うみに長生きしてもらうため、一緒に健康診断に行ったりして気遣う太郎。そのうちにうみに「私の余命見えてるの?」と気付かれてしまいます。メガネを外すと余命が見えやすく、時々外すシーンでときめかせる、というのは少女漫画っぽい演出。

「大丈夫。私絶対死なないから!」「一緒に何ができるか考えよう」「怖いなんて言ってる場合じゃない」「死んだら泣いちゃうから死なないで」などと言って見つめ合う2人。
 観ているだけでお腹いっぱいになりそうなピュアな2人のやりとりも、余命間近だと思うと許せる気がしてきます。

 そして、見つめ合って良いムードになったことで余命が1日増えたことが判明。希望の光を感じ、2人は寿命を延ばす要因を探すため、一緒に実験を重ねます。筋トレ、お祓い、シャドーボクシングなどいろいろやっても増えなかったのが、うみの死を思って泣いたり頭ポンポンなどしていたら、余命日数が増加。

「太郎が私のことに一生懸命で必死な姿見てたら胸がじんわり暖かくなって、太郎のことが好きだなって気持ちがあふれてきた」と自分の思いを伝えるうみ。もう2人で勝手にやっててください、と言いたくなりますが、ピュアすぎる2人がもたらす羞恥心がだんだんクセになりそうです。

 どうやら、うみがときめくと寿命が伸びることが判明。実際、ときめきを感じると健康寿命が延びる、という説がありますが、この場合でも当てはまるのでしょうか。

 以来、うみをときめかすためワイルドに接してみたり、鎖骨チラ見せしたり、壁ドンしたりと様々な方法を試しますが、空振りしがちな太郎。謎の転校生でモテキャラの小野寺いつき(井上瑞稀)が登場し、太郎は彼を師匠と崇め、ときめかせるコツをつかもうとします。そんなある日、太郎に好意を抱く魔性の女子、藤井みのり(咲耶)が、太郎にアプローチしはじめます。ウェーブのロングヘアで、クラスメイトからは、人の彼氏を取るとか。尻軽女とか陰口を叩かれていた、陰のあるあざとい系女子です。いつきは茶髪だし、みのりはウェーブへア。この高校は結構校則がユルそうなのも気になります。風紀が乱れてもおかしくないのに、奥手でピュアな太郎とうみは、やたら純愛の空気を振りまいています。

 対照的に、恋愛経験値の高そうなみのり。太郎とうみの水族館デートについていきたいとまで言ってきますが「いいよっ」と、うみは明るく受け入れます。「良い人は短命」ということわざがありますが、常に明るく良い子のうみの振る舞いにはフラグが立っているような……。

 みのりの度重なる挑発にもめげず、うみは「わたしも太郎が好き! どうしても失いたくない」と正直な思いを伝えます。太郎は、水族館のイルカショーのお姉さんに憧れるうみのために、イルカの着ぐるみを借りて着用し、うみの夢を応援すると伝えます。「ずっとずっと一緒にいて絶対に叶えられるよう力になる!」と、またしてもクサいセリフが……。みのりは立ち去り、2人きりになった太郎とうみはついにキス! 恋に不慣れなうぶな2人のわりには、キスは一回で角度も決まって成功していました。余命もかなり増加。もしかして肉体的にイチャつけばどんどん増えるのでしょうか? 視聴者としてさらにお腹いっぱいになりそうですが、話はそんな単純ではありませんでした。

 純粋なうみは、キスをしたことが恥ずかしくて、太郎の顔を直視できなくなってしまいます。うみが太郎を見て挙動不審になり、両手を広げてバタバタ走る姿の、天然系の演技がうまいです。

 4話では、最近影が薄かった小野寺いつきにスポットが当たり、いつきが転校前に通っていた学校で彼を思ってストーカー行為に及んでいた美少女が登場。その女子高生、佐藤千明は太郎に、いつきに思いを伝えるための協力を頼みます。黒い日傘で現れて「放課後プリントのホッチキスどめを手伝ってくれた」と、太郎にいつきの優しさについて語る千明。いつきの前に現れると、「放課後、委員会の資料をホッチキスでとめるの手伝ってくれたでしょ」とまたもや思い出を語りますが、それは彼女の妄想でした。「ホッチキス女」と呼びたくなるホラーな女子が登場し、ラブコメのムードに水を差しました。

 さらに追い打ちをかけたのは、いつきに秘められた超能力。人に触るとその人の未来が見える、といういつきは、うみに「君は近い将来林太郎くんのせいで死ぬ」と恐ろしい予言を告げます。人の死を予言するのはタブー感ありますが、ストーカー女子に来られて彼も動揺していたのでしょうか。それにしても同じ高校に、「人の余命日数が見える」「人の未来が見える」2人の能力者が存在しているとは。コラボしたら何かのビジネスになりそうです。

 ピュアすぎて恥ずかしいセリフやイチャつきシーンで赤面させたと思ったら、ホラーやミステリーの要素で軽い恐怖を与える展開で、視聴者を翻弄。今までのありがちな余命ものドラマとは全く違う、異色の作品かもしれません。

今回ご紹介した作品

君が死ぬまであと100日

放送
日本テレビ系で毎週月曜深夜24時59分~放送中。
配信
TVerで最新話を1週間無料配信中。
Huluでノーカット完全版過去話を配信中。

情報は2023年11月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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