地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
NOLLY ソープオペラの女王
2024/1/18公開
伝説の英国女優ノエル・ゴードンの身に起こった降板劇を描く
イギリスの国民的テレビドラマ『クロスローズ』に主演していた人気女優、ノエル・ゴードン(愛称ノリー)は、テレビと共に生きたレジェンド的存在でした。「世界で初めてカラーTVに映った女性」であり、「初めて英国首相にインタビューした女性」でもあるノリー。そんな、ポジション的に安泰な女優さんが、突然降板を言い渡されるとは……。『NOLLY ソープオペラの女王』は、実在の人物、ノエル・ゴードンの身に起こった降板劇を描いたドラマです。日本に例えると、同じく女優としてはじめてテレビに出た黒柳徹子さんが、唐突に「『徹子の部屋』は打ち切りです」と告げられるようなものです。そう考えると、世間の注目を浴びた理由がわかります。
貫祿漂うノエル・ゴードンを熱演しているのはヘレナ・ボナム・カーター。ドラマの撮影現場は、ノリーを中心にファミリー的な絆が生まれていました。"座長"としての使命感からか、時折演出にも口を挟むノリー。指定されたバーミンガムなまりでセリフを話す女優に対して「何のまね? 標準の発音に直して」などと言うと、皆彼女の言葉に従います。といっても横暴な印象はなく、ドラマを良くするために真剣に向き合っているようでした。ドラマは1500万人もの視聴者が観ていたほどの人気ぶりで、娯楽やコンテンツが少ない時代、影響力も大きかったのでしょう。ノリーに対し、「ご主人はなぜ消えたの?」とドラマと現実を混同した質問をするファンもいました。でも、今も朝ドラの登場人物の言動が気に触ったとかで炎上することもあるので、当時とあまり変わらないかもしれません。
ノリーは結婚せず、年下の親友トニーと時々会うくらいで、自由に暮らしていました。そんなある日,エージェントからの電話が彼女の平穏な生活をぶちこわします。「君はクビだ。何をやらかした?」と告げられ、ショックを受けるノリー。現場に行くと、主人公のメグがいなくなる方向でストーリーが進んでいることを知ります。「自ら役を降りると言えば」というアドバイスを聞かず、ノリーは「私はクビになりました」と大々的に発表し、世間は大騒ぎに。
それ以来、ノリーは街で知らない人に声をかけられ、同じことを聞かれ続けます。「なぜ降板に?」「降板の理由は?」「聞いてもいいかしら。なぜ降板に?」……当時のイギリスの庶民は遠慮がなかったようです。でもそうやって聞かれるのは、ノリーがお茶の間に親しみを持たれていた証拠。威圧感漂う女王様キャラだったら、怖くて誰も質問できません。聞かれるたび「わからないのよ、本当に」と答えるノリー。ある時は、レストランでぶしつけな質問をしてきた人のテーブルの会計を払っておごっていました。降板しても経済的に厳しくなったわけではない、という女のプライドだったのでしょうか。
彼女自身も、降板の理由について思い巡らせる日々でした。男たちに引きずり降ろされた、という理不尽な思いもあったようです。もしかして自分が独身を貫いているのが、世間的に受け入れられなかったのかもしれない、とまで考えてしまいます。
「夫や彼氏や子供のいない女性のことを社会は認めてくれない。居場所がないの」
と、新たな仕事の現場となった劇場で、共演者たちに話すノリー。1960年代は、結婚や家庭について固定観念に縛られていたのでしょう。今でも完全になくなったわけではない価値感なので、働く女性の心にも響きそうです。理不尽な降板に見舞われたノリーのように、現代人もいつ何時、戦力外通知をされるかわかりません。そんな時、気落ちせずに生きていくにはどうしたら良いのか……このドラマで生きるヒントがもらえます。ノリーのように時間が空いた分、海外旅行しまくるのも楽しそうです。ドラマの役を解雇されても、人生からは降板しないで、前向きに生きていけばいつか報われる時が来る……そんな希望が少し見えた気がしました。
今回ご紹介した作品
NOLLY ソープオペラの女王
- 放送
- BS10スターチャンネル
情報は2024年1月時点のものです。