辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ブラックガールズトーク

2024/3/26公開

感情移入しすぎない距離感で見られるドラマ

「グータンヌーボ」や「はやく起きた朝は」のような、気のおけない女性が3人でトークする番組はいつの時代も共感を得ています。「ブラックガールズトーク」はそんな、ガールズトークの内容をドラマにしたら……というような企画。原作はマキノマキ氏の漫画で、朝日奈央、関水渚、石井杏奈が仲良しの女性3人を演じます。この3人はどんな時も味方で、お互いを否定せず受け入れる、という理想の関係です。

 1話の前半は、キャリア系OL佳央梨(朝日奈央)の会社に、派遣社員の亜紀(小林涼子)が現れたエピソード。一見有能そうな派遣社員が、実は仕事ができなくて、他の人に責任を押し付けるタイプでした。注意したら「私が目立つからって言いがかりつけるのやめてほしいです」と言い放ち、佳央梨を困らせます。派遣期間が延長されそうになったので、部長に彼女の悪影響をプレゼンして、なんとかしてもらった、というエピソード。ドラマの合間に友人たちの「それで?」「うんうん」といった相づちが入ってきて話に引き込まれる効果が。エピソードのあと、3人のトーク部分がスタジオのVTR受けのシーンのようです。

 1話の後半は、奈緒(石井杏奈)の彼氏の高城が浮気していたので、その相手の女性と結託して問い詰めた、という話でした。彼の母親に電話して悪行をバラし、彼には「セックス下手なくせに!」という禁句を浴びせてすっきり。バラエティ番組、「痛快TVスカッとジャパン」のような要素もあり、適度な爽快感があります。1エピソードがそこまで長くないので再現ドラマを観ている感覚です。奈緒を演じる石井杏奈は、悲しみを表現する時の声を震わせる演技など気合いが入っていて、当然ですが再現ドラマよりクオリティーが高いです。

 2話前半は、保育士のあや(関水渚)が働く職場に現れたモンペ母のエピソード。園児のひろきくんパパとの合成写真を何者かに作られて、あらぬ疑いをかけられたあや。乗り込んできたモンペ母にモラルがないと責められ「0点」と点数までつけられてしまいます。さらにあやの捏造写真を作ったのは、あやと同僚の隼人(板垣瑞生)が結婚することを妬んだ同僚の女性の仕業だと判明。ストレスが多いですが、女友達のトークで発散し、癒される、という流れです。

 3話前半は、奈緒がマッチングアプリで出会った2人の男性とデートする、というストーリー。1人目のヒロはカフェをリサーチしてくれて好印象だったのですが、店員に対し舌うちしたりクレームをつけたり、横柄な態度で奈緒を幻滅させます。とどめに自転車のカゴにゴミを捨てていて、奈緒は「ムリなんです」とキレて終了。2人目の橘は、穏やかで良い人そうに見えましたが、料理も行く場所も自分では決められず、意志表示すらしない典型的な支持待ち人間でした。そんな体験談を聞いて、奈緒の苦労をねぎらう親友たち。

 4話目後半は、過去に交際したマザコン男につきまとわれる佳央梨の体験談。ストーカーっぽいメールに悩まされ、さらに母と息子に居場所を突き止められて困っていたら、会社の後輩社員、諏訪元哉が警察に電話するフリで助けてくれました。

 5話は、あやと隼人夫婦の友達、航基の彼女の困った習性についてのエピソード。2組のカップルで一緒に食事に行くと、その彼女はなんでも一口欲しがる女性で、周りをウンザリさせます。ステーキをもらったお返しが、スープ一口という、細かいけれど絶妙にいら立ちが募る描写です。

 5話の後半は、奈緒が高校の友達にハブられていたというストーリー。そんな友達よりも、私たちがいる、と抱き合って泣く女の友情シーンが繰り広げられました。現実になかなか存在しないような関係です。さらに佳央梨が、後輩社員に告白されるという展開に。

 共感を誘うドラマに見えて、主要な登場人物がイケメンに好かれる、というのが羨ましくて感情移入しづらい部分です。佳央梨に好意を持っていていろいろ助けてくれる後輩は性格の良いイケメンで、あやと結婚した保育士の同僚、隼人も同様に好青年のイケメン。このままいくと奈緒もイケメンと結ばれそうな勢いです。女友達が素敵な男性と付き合ったり結婚したりしても、心から祝福できるのは本物の友情です。ドラマはそんな理想の友情も描いています。

 ガールズトークで共感しかけて、イケメンにモテる登場人物を見てちょっと淋しくなる……と、感情移入しすぎない距離感で見られるドラマ。再現ドラマ風の構成で現実の話かと脳が錯覚しそうになりましたが、やはりドラマはドラマだと我に返らされます。

今回ご紹介した作品

ブラックガールズトーク

放送
テレビ東京系で月曜23時06分~
配信
U-NEXT、Lemino

情報は2024年3月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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