辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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星屑テレパス

2024/8/9公開

ロケット少女と宇宙人!AKBメンバーが贈る青春ドラマ

 宇宙がテーマのコミックが実写化。萌え系のアニメとしても大人気だった『星屑テレパス』です。AKB48のメンバーがメインのキャラクターを演じています。ここ最近のAKBメンバーをちゃんと把握できていなかったのですが、女子校が舞台ということもあり、なんとなく乃木坂っぽいお嬢様感が漂います。

 小ノ星海果は、自分の意見もなかなか言えない内気な性格ですが、宇宙人と出会いたいと願っていました。高校の入学初日、なんと宇宙人と名乗る女子が現れます。「宇宙船の故障で遅れてしまいました。『モヴロヴ ピヴーバヴヴ』、今のはこんにちはっていう意味です」と、挨拶。両側におだんごを作ったヘアスタイルも宇宙っぽい彼女の名前は、明内ユウです。

「さっきのあれすごかったね」「派手な登場きめてたね」と、ユウはクラスメイトに話しかけられます。入学初日にどれだけ目立てるかが、その後のポジションを決める、と聞いたことがあります。クラスメイトたちに注目されながらも、ユウの関心は海果にありました。ベランダで体育座りする陰キャの海果に「ボナヴー!って言ったらマティヴーだよ」と宇宙語の挨拶で話しかけます。戸惑いながら、ちょっと嬉しそうな海果。宇宙人好きの海果が持っていたのは宇宙語辞典でした。

 漫画の原作者さんはとくにスピリチュアル系ではないと思いますが、スピ系でも根強い「スターシード幻想」や、宇宙語ブームを思わせる展開です。スターシードとは宇宙の異星由来の魂で、スターシードを自認する人は、地球に生まれたけれどどこか居心地が悪く、自分の居場所はもっと高次元の星にあるのでは、と思う傾向にあります。宇宙語は、「ライトランゲージ」と呼ばれ、スターシード系の人は地球の言葉とは違うワードが口をついて出てきたりします。AKBファンや原作のファンだけでなく、スピ系にとっても要注目のドラマかもしれません。自分が、もっと文明が進んでいる他の星出身だと自覚しているユウは、地球人に対して上から目線ではないのが好感が持てます。宇宙語(ライトランゲージ)も尺が長すぎるとリアクションに困りそうですが、挨拶程度なので、かわいい範疇です。

 また、このドラマの見どころは、美少女同士がおでこをくっつけるシーン。「おでこパシー」というのは、ユウが主導でおでこ同士を合わせることで相手の感情を読み取る、という行為。さっそく海果におでこパシーするユウ。「小ノ星海果ちゃん、よろしくね」と名前のデータも読み取れたようです。女子同士のちょっとドキドキするシーンも、おでこパシーや手つなぎなどで、平和で癒されます。

 ユウに対し次第に心を開いていった海果は、勇気を出して「将来の夢は自分の作ったロケットで宇宙に行って宇宙人の仲間を見つけることです」と、打ち明けます。宇宙船が壊れて故郷の星に帰れなくなっていたユウの目的と一致し、「宇宙目指して一緒にがんばろう」と盛り上がる2人。現実のロケットは、イーロン・マスクでもなかなか成功しないので、先が見えませんが……。海果を演じる佐藤綺星が、朝ドラ「舞いあがれ!」ヒロイン役の福原遥の雰囲気に似ていることもあり、宇宙を目指すといって最終的にロケットのネジを作る工場で働くことになるのかも、と想像してしまいます。

 2人だけだと実現が難しいところ、理系でロボット制作が得意なクラスメイト、雷門瞬の存在を思い出す海果。しかし瞬は学校に来ないでひとりで家のガレージにこもっていました。さらに、ユウが勝手に暮らしている灯台をたまたま訪れた宝木遥乃も仲間に加わります。

 女子校が舞台ということもありますが、男子が出てこないので、AKBのメンバーのファンは心安らかに観ることができそうです。また、いじわるな女子もいなくて、平和な校風の女子校で、女の友情と共に美化された理想の世界です。

 ロケット作りの第一歩として、「いきなり本物は難しいから……」とペットボトルロケットを作ってみる海果。発射台に設置してスイッチを押すと、弧を描いてきれいに飛んで行って、皆で無邪気に喜びます。もっと本格的なロケットを作りたい、という思いを胸に秘め、雷門瞬の家を訪れた3人。「おまえらのくだらない話は一切興味ない」と追い返されますが、海果はあきらめず再訪問。宇宙に行きたくてペットボトルロケットを試作していることを告げると、瞬に「宇宙工学ナメすぎなんだよ。ムリに決まってるだろ」と、もっともな正論で返されます。

「みんなで一緒に宇宙に意向って約束したから。どんなに大変でも必ず何とかしてみせる」と、内向的だった海果も強い思いを伝えられるように。

「地球で見つけられなかったものを、私は宇宙に行って見つけたい」と壮大な夢を語る彼女に対し「おまえ自分探しのスケール見誤りすぎだろ」と冷静に突っ込みを入れる瞬。

 たしかに今のままだと、ロケットに乗ったとしても死亡フラグが立っています。皆で一緒にロケットに乗って危険な旅に出ることが、女の友情の踏み絵になるのでしょうか。皆で一緒に星屑になる……というオチじゃないことを祈ります。

 海果は瞬に、ペットボトルロケットでの決闘を申し込みます。遠くまで飛んだ方が勝ち、というシンプルなルール。海果たちのロケットも100メートル以上飛んでいましたが、火力を使った瞬のロケットが圧勝。負けたけれど、海果は「雷門さん、頭のそのゴーグルかっこいいね」と前から言いたかったことを伝えることができました。瞬は「お前、まさか直接言いたいことってそれ?」と、脱力。それまで反発を見せていた瞬も、3人の女子たちの平和な空気に感化されたようです。結局「お前らだけじゃ宇宙に行けるロケットなんて一生作れない。少しだけ付き合ってやる」と態度を軟化させ、4人の女子たちは同じ目標に向かって進む仲間になりました。

 3話の時点で、最初反発していた瞬もすぐに友だちになり、誰と誰が仲がいいと嫉妬することもなく、4人の関係は調和がとれています。悪口を言うこともなく、純粋で性格が良い美少女たちは、それぞれ個性を尊重し合っています。高校1年でここまで平和で理想的な女の友情はなかなかないので、やはり彼女たちは皆、高次元の宇宙人の魂なのかもしれません。地球の人間関係に疲れた人が観たら癒されるドラマです。

今回ご紹介した作品

星屑テレパス

放送
テレビ東京系で火曜深夜24時30分~
配信
U-NEXT、ネットもテレ東、Amazon Prime

情報は2024年8月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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