辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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私たちが恋する理由

2024/11/12公開

大人気漫画が原作の気軽に見られるラブコメディ

 菊池風磨主演で大人のオフィスラブが展開する「私たちが恋する理由」。数年間のコロナ禍を抜けて、リモートワークからオフィス出社に世の中が戻っている今、やはりリアル出社の醍醐味といえば……ラブなのでしょうか。

 大人気の漫画が原作のドラマは、現実にあったら楽しそうな、社員が美男美女だらけの広告会社のオフィスが舞台。菊池風磨(timelesz)が演じる営業部課長の黒澤智也は、クールで無愛想なため、社員から恐れられています。入社3年目の部下、森田葵(久間田琳加)も、直属の黒澤との仕事に緊張気味。菊池風磨が慶應出身オーラを全開にして、有能な上司を演じています。

 クール系の上司と、けなげな部下という関係性にすでにフラグが立っていますが……視聴者の、早くときめきたい、という欲求を裏切りません。ある日、エレベーターに黒澤課長と森田葵が一緒に乗っていたら、嫌味な上司と遭遇。その上司は、背が高い森田葵をいじってきて、黒澤がその上司に対し、彼女の長所を言って黙らせます。お礼を言う葵に対し、珍しく黒澤が笑顔を見せ、内心ドキドキする葵。その一件以来、黒澤に抱いていたイメージが変わり、意識するようになりました。嫌味な上司は、ああ見えて2人の恋のきっかけを作ったので良い仕事をしたのかもしれません。

 オフィスラブの芽は他にもあちこちで生まれています。マッチョで日焼けした男性社員に、お姫様抱っこされる妄想をする女性社員。そして、メガネのクールな女性社員、市川絢香に憧れる、同じくメガネのまじめそうな部下、坂元。また、葵にひそかに憧れる部下の男性、伊丹瑞貴の存在も気になるところです。というか、皆さん恋にかまけていますが、仕事はしているのでしょうか。同僚同士の会話も誰が好きとか気になるといった話題で、仕事の話はほとんどしていないような……。オフィスラブで志気が上がり、実際は生産性が高まっているのでしょうか。

 黒澤と葵の関係も、第1話にして少し進展を見せます。黒澤の同期の女性に飲食店に呼び出され、その女性が途中で帰ったので、2人きりで飲むことに。会話の流れで過去の恋愛の話にもなり、黒澤は5年も恋愛していないことが判明。過去に何か辛いできごとがあって、感情を封じ込め、人と深く関わらなくなったようです。でも、お酒の勢いで2人は帰り道に自然な流れで手をつないでいました。これはほぼ、両思いなのではないでしょうか……。令和の恋愛ドラマは、タイパを重視する若者向けなのか展開がスピーディーです。上司と部下が最初の飲み会で手をつなぐなんてハレンチ、と思ってしまうのは古い価値観なのかもしれません。

 その一件を、翌日のオフィスの廊下でさっそく同僚に報告する葵。自ら噂を拡散していますが、他にライバルがいる場合、自分の好意を周りに伝えることで牽制できます。いっぽうで黒澤は、やはりまだ人に対して心を開けないのか、昨夜のことがなかったように振る舞ってしまいます。大人の恋はなかなか素直になれません。

 視聴者は悶々としながらも、サブカップルに視点を移すと、ハプニングがもとで急接近する二人が。デザイン部の市川絢香が、パッケージのプレゼンのため、後輩の坂元と一緒に取引先の会社へ向かいます。しかし会社のトイレで体調が悪化し、動けなくなってしまった絢香。坂元は電話で連絡を取り、事情を察して薬局へ。生理用品やカイロ、鎮痛薬などを買ってくる、という素晴らしい気遣いを見せます。さらに、まだ具合が悪そうな絢香を横にならせ、なんと膝枕させるという展開に。「大丈夫です。僕しか見てませんから」なんてささやかれたら、たいていの女性は落ちてしまいます。やはりこの会社の社風は、恋愛が重視されているのでしょうか。坂元を演じるのは七五三掛龍也(Travis Japan)。こんなかわいくて気が利く部下がいてくれたら……と、妄想と萌えが膨らむ場面でした。ただ、これはかわいい年下男子だから受け入れられる、という説も。苦手なおじさん上司が生理用品や鎮痛薬を買ってきたら……申し訳ないけれど痛みが倍増しそうです。

 いっぽう、黒澤は、葵のことが気になりながらも、行動に移せず、ひとり悶々としていました。第1話でも風呂上がりの半裸のシーンがありましたが、第2話では、サウナに入るシーンも。裸体にタオルを巻いただけの姿でサウナで汗を流し、水風呂にもぐって勢いよく出てくるシーンが刺激的。裸体のまま「好き…なのか? オレ」と恋に悩むシーンにドキドキさせられます。菊池風磨といえば、ドッキリ系の番組でもよく裸になっていた印象ですが、ドラマでもその期待を裏切りません。ビジネススーツ姿よりも、やはり生まれたままの姿が一番自然でかっこいいです。今後、葵が、その肉体を拝む展開になったりするのでしょうか。菊池風磨は笑顔を封印しても、肉体は封印しない、ということを改めて実感させられたドラマです。

今回ご紹介した作品

私たちが恋する理由

放送
テレビ朝日系にて毎週土曜23時~放送中
配信
TELASA

情報は2024年11月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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