地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
キスでふさいで、バレないで。
2025/3/14公開
藤井流星×紺野彩夏主演、「恐縮系ヒロイン」のオフィスラブ
意味深なタイトルのドラマ「キスでふさいで、バレないで。」は、オフィスラブがテーマです。会社のIT部で働く有能な社員、塩谷大輔(藤井流星)に、密かに片思いする後輩の佐藤楓(紺野彩夏)。佐藤楓は2年間も密かに思いを寄せていたのですが、あるきっかけで2人の仲が進展していきます。
第1話のタイトルは「俺の腕、しばってー」となかなか刺激的。ドラマは佐藤楓が塩谷大輔と密着しているシーンから始まります。「これは……夢?」と戸惑う楓。何があったのかその日一日を振り返ります。
楓は不器用だけれどまじめでがんばり屋、という設定。昨今のオフィスラブのドラマは、ヒロインがまじめでがんばり屋、というキャラが多いように思います。ヒロインの性格が傍若無人だったり自分勝手すぎると、炎上しかねない世の中。原作の漫画も含めて誰もが感情移入しやすいヒロイン像が好まれるのかもしれません。日本人の性善説というか、基本まじめな性格が表れているような気がします。
今回のヒロイン、楓を演じる紺野彩夏は、相手役がアイドルの藤井流星なので、やはり女性に嫌われない、というのが前提だったのでしょうか。ロングヘアで華奢で、どこか困っているような表情がかわいくて、ふと、連想したのがかつての裕木奈江です。裕木奈江感が少し漂っていて、ともすれば同性に敵対視されがちなところ、いつも「すみません……」と恐縮している様子なので、不思議と応援したくなってくるキャラです。恐縮系ヒロイン、と名付けたくなります。
そんな、男性の庇護欲を刺激する佇まいの楓なので、先輩の女性社員には妬まれて、業務をちゃんと教えてくれなかったり、「男好き」という噂を流されたりします。男性の先輩社員、溝口悟(川島如恵留)にもキツいノルマを課せられて、遅くまで残業に励む楓。でも、夜の会社でひとり仕事して、トイレに行ったときにIDカードを席に置き忘れて、締め出されてしまうというハプニングが発生。偶然まだ会社にいた、片思いの相手の塩谷大輔に助けられ、着の身着のまま彼の家で休む流れに。メイク道具も持たずに、好きな人の家に泊まるなんて……普通ならありえないですが、若い楓は内心すっぴんを見せても大丈夫、という自負があったのでしょう。塩谷の家でビッグサイズのルームウェアを借りて着替えた楓。そのオーバーサイズ感がさらに華奢さを引き立てます。かつてドラマでよくあった、メンズのシャツを着て萌え袖になる、というシチュエーションを思い出します。楓が「がんばってるつもりでも全然できなくて……」と困り顔で仕事の悩みを語ると、塩谷は「何か俺にできることがあったら言って」と顔をのぞき込み、「佐藤さんはえらい。よくがんばってる」と頭ポンポン。オフィスラブの鉄板萌えシーンです。
でも、このドラマはありきたりのオフィスラブにとどまらず、深夜なのでさらにドキドキさせる演出が。一緒の部屋に男女で寝ることになるので、塩谷が急にローブを取り出し、「これで俺の腕縛って。それなら安心できるでしょ」と楓に提案。男女が一緒に泊まる流れで、男性が何もできないように腕を縛る……この展開は昭和初期の小説でしか見たことないので意表を突かれました。「すみません、私のためにこんなことを」と言いながら本当に縛る楓。そのとき、「ただいま~」という声と、誰かが帰宅する物音が。塩谷は実は、会社に近いこの部屋で溝口とルームシェアをしていたのです。溝口にバレないように、咄嗟にクローゼットに隠れる2人。暗い中で密着し、声を出そうとする楓の口を塞ぐように塩谷がキス、というのが冒頭のシーンにつながりました。第1話からキスシーンとは展開が早いです。
第2話のタイトルは「ごめん濡れちゃって……」とさらに攻めています。翌日、キスをしたことについて「昨日、佐藤さんの気持ちも考えずにあんなことして」と謝る塩谷。楓も「私の方こそほんとすみません」と、謝り返します。このあと、関係が発展してもそのたびにお互い謝り合うのでしょうか。それも何かのプレイのようで興奮度が高いです。「すみません」とすぐ謝りがちな、自己肯定感低めのキャラクターに感情移入する女性は多そうです。
塩谷は「もう佐藤さんに関わらないようするから安心して」と、なぜか楓を遠ざけようとします。楓が溝口に気があると誤解しての発言だったようですが、「関わらないようにするから」と自分から離れることで、かえって相手の気持ちを煽るテクニックなのかもしれません。仕事ができる塩谷は恋愛上級者でもあるのでしょう。
さらに第2話では、楓が下着のパンツを塩谷の家に忘れたことに気付く、という羞恥プレイ的な展開が。なぜパンツだけ脱いで置き忘れたのかが謎ですが、白にグリーンの模様が入ったパンツを、洗濯機の横で見つけたときの塩谷が、鼻がきく犬のような表情をしていたのが印象的でした。楓は、恥ずかしいので自分で塩谷の家に下着を取りに行く、と申し出ます。そしてまた、彼の部屋にいるときに溝口が帰ってきて……というお決まりの展開に。今度はお風呂に隠れて服を着たままシャワーを浴び、水音でごまかそうとする2人。しかも壁ドンの体勢で……。萌え要素が渋滞しています。
このときもまだ、楓が溝口のことを好きだと思い込んでいた塩谷は、こんなに溝口にバレたくないのは好きだからなんだと言い、否定しようとする楓の口を塞ぐようにまたキス。そのあと「ごめん」「いえ、私の方こそ」と謝り合っていました。普通に告白して付き合う、という順を追った展開の前に、プレイ的なシチュエーションを何度も体験してしまった2人。緊縛、着衣シャワーに壁ドン、といっためくるめくハプニングのあとに、普通のオフィスラブでは物足りなくなってしまいそうです。一見普通の会社員に見えて、実は密かにフェティッシュ、という新たなライフスタイルの可能性を教えてくれるドラマです。
今回ご紹介した作品
キスでふさいで、バレないで。
- 放送
- 読売テレビにて日曜深夜1時29分~放送中(関西地域のみ)
- 配信
- TVer、FODにて配信中(全国)
情報は2025年3月時点のものです。