辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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嘘の不倫も愛ですが!

2025/4/25公開

スマホで見やすくタイパもいい「縦型ショートドラマ」が人気

 芸能関係の仕事をしている友人に、最近、若い世代に1話数分間のスマホで観られる縦型ドラマが人気だと教えてもらい、遅ればせながらチェックしてみました。中でもヒット作を次々出しているのが、クリエイター集団「ごっこ倶楽部」。TikTokやYouTube、専用アプリ「POPCORN(ポップコーン)」などでドラマを配信しています。1話数分のドラマはスキマ時間に観られて、タイパを重視する世代に人気なのも納得できます。大人世代としては、スマホ内で小さく表示される横長動画よりも、画面いっぱいに拡大されているのでありがたいです。もちろんスマホ老眼に悩む若い世代にとっても、縦長動画は観やすいことでしょう。

 アプリ「ポップコーン」を開くと、ジャンルは「王道ロマンス」「ヒューマンドラマ」「ラブコメ」そして「不倫」「復讐」など、刺激的な恋愛ものがうけているようです。ランキングで上位だった新作ドラマ「嘘の不倫も愛ですが!」を視聴。

 何の前置きもなく、結婚指輪が転がるシーンから始まり、「奥さんのとこ帰るの?」と若い女子が、年上男性を問い詰めていました。「クリスマスは?」「もちろんリサと一緒だよ」「信じてないけど」挑発するリサを押し倒す男性。場面変わって、その男性が「ただいま~」と帰宅すると、エプロン姿で家事をする女性が。「おかえりなさいませ~。今日は水回りを重点的に……」奥さんかと思ったら、セリフから察するとハウスキーパーのようです。テンポが早いので、瞬時に登場人物の属性や背景について推測しなければなりません。この早さについていけるのは、やはり若い世代? と思いながらも脳が鍛えられている感が。

 その男性、マサキは「やっぱり不倫です」「既婚ムーブです」とドヤ顔で嬉しそうに語ります。どうやら実際の妻帯者ではなく、不倫のフリで、若い女子とプレイを楽しんでいるようでした。しかもチャラい印象でしたが先生で、リサは生徒だったのです。そのリサも、友だちとの電話で「あんなおじさんのどこが好きなわけ?」と聞かれ「私のために不倫のフリしてくれてるところかな~。愛されてるな~って」と、不思議な恋愛観を語っていました。長時間のドラマだとしたら、リサの恋愛観の背景には何があるのか、など掘り下げるところですが、ショートドラマはそこまで深く考える間も与えず、数分間で次に進みます。

 2話では、ハウスキーパーのユリに、家主のマサキが、ある指示を出します。それは、もうすぐリサが家に来るので、不倫している設定を盛り上げるため、随所に妻の痕跡を感じさせるようにしてほしい、ということ。「ハウスキーパーが家を散らかすんですか?」と困惑しながらも、ユリは洗面所に化粧水や生理用品をセットしたり、メイク用鏡をちょっと汚したりして演出が細かいです。しかしリサが予定より早く家に来てしまい、ユリはベッドの脇に寝転がって咄嗟に身を隠します。

 3話では、リサが家に来て、先生のマサキとイチャつくシーンが展開。縦形ドラマの利点は、登場人物の全身像がぴったりおさまることでしょうか。周りの背景に目が行かず、集中できます。作る側としても、背景やセットを作り込まなくても良いという利点が。

 さて、リサはユリの存在に気付かないままトイレに行き、生理用品がセットされているのを見て、「もしかしてまじ不倫?」と心配になります。「女の匂いがする……」と敏感なリサ。「先生、奥さん……いる?」と聞いて、良いところで次の回に。

 4話では、2人がベッドでイチャついて、そのすぐ下でハウスキーパーのユリがじっとしている、というスリリングなシーンが展開。「女の人の匂いがする」「たまには妻も部屋来るから」妻というよそよそしい呼び方に、やっぱり不倫のフリだと安心するリサ。そして事後、「先生とのエッチ、ドキドキした。奥さんとどっちがいい?」「リサちゃんだよ」というあけすけなやりとりを、横で聞かされるユリ。ラブシーンもショートドラマではスキップされ、気付いたら終わっている、という感じです。スマホでラブシーンを観ているのが周りにバレたら気まずい、という制作側の配慮でしょうか。ユリはリサが寝ているスキに這って出ようとしますが、気付かれてしまったところで次の回になりました。

 次の展開が気になりますが、ここで広告を見るか、コインを購入することで次の回が観られる、という表示が出てきました。パズルゲームの画面が長時間表示され、そのあとアプリストアに誘導される流れに。ドラマよりも長く感じる広告を視聴して次の回に行けました。

 5話は、「人のエッチ見てたってことですよね!? おばさんのくせに!」とリサが怒るシーンから始まりました。「これって不倫じゃないですよね。不倫のフリですよね」と、リサは念のためユリに確認します。いっぽう、ユリもマサキの「既婚ムーブ」に感化されたのか、既婚者のフリをして年下男子、ユウスケとデート。ベッドに押し倒されたところで電話が鳴ると「旦那さんですか? 出ていいですよ」とユウスケ。世間には一定数、不倫というシチュエーションに興奮する人がいるのでしょう。電話は雇い主のマサキからでしたが、ユリは咄嗟に夫がいる風に「今日は帰らないから」と宣言します。

 ここでまた広告になり、野菜育てゲームの画面を長時間眺めました。他にも、鶏の産んだ卵を大量に集めて運ぶゲーム、雪山でシロクマを斧で叩き殺すゲームなど、軽い恐怖を感じるシュールなゲームの広告が流れました。ドラマの世界観とのギャップで脳が混乱します。

 縦型ショートドラマは、画面にそんなにたくさんの人数が入らないので、登場人物を少数に抑える傾向にあるのかもしれません。ユウスケとリサのつながりが明らかになり、不倫のフリをしている二組のカップルの関係が複雑化。画面も狭いですが世間も狭いです。高額な予算がかかっている壮大なスケールの配信ドラマもいいですが、部屋でひとりスマホを眺めているときは、こんな身近で半径数メートルの世界の話が落ち着きます。

今回ご紹介した作品

嘘の不倫も愛ですが!

配信
専用アプリ「POPCORN」をダウンロード、もしくはYouTubeやTikTokなどで「嘘の不倫も愛ですが!」で検索

情報は2025年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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