辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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年下童貞くんに翻弄されてます

2025/6/13公開

まじめな理系男子に翻弄されるあざと系オトナ女子

「あざと系オトナ女子」が「年下チェリーボーイ」に翻弄される……そんなドラマでW主演をつとめるのは、森香澄と柏木悠(超特急)。

 森香澄といえば、元テレビ東京アナウンサーで旬の存在。このところ女性アナウンサーから俳優になる人が目立っていて、森香澄も田中みな実、宇垣美里などの系譜につらなる、あざと系の勢力です。本人もバラエティー番組で「あざといってよく言われるんですけど」「彼氏の女友達にいてほしくない女NO.1」などと自認。占い師に、嫌われてもそれがプラスに働く、とアドバイスされていました。田中みな実と同じく、あざとさを逆手に取ることで、自分の存在感をアピールできます。「嫌われてる理由を、役のせいにしたい」と語っていて、メンタル的にも強そうです。

 森香澄がヒロインを演じるドラマ「年下童貞くんに翻弄されてます」でも、あざとい大人の魅力を振りまいています。

 化粧品会社の広報として働く今井花恋(森香澄)は、仕事ができて美人で後輩から憧れられる存在。常にモテまくってきたため「男たちはみんな私に翻弄される」「恋愛なんてまやかし」とどこか冷めた視点で、セフレと適当に遊ぶ日々でした。そんなある日、親友の立花恭子(北村優衣)から飲み会に誘われた花恋。そこで知り合ったのが、メガネのまじめで奥手な理系男子、堂前帝都(柏木悠)でした。実は帝都は、花恋がよく行く牛丼屋でバイトしていて、「ネギ明太マヨ大盛り 温玉トッピング」を毎回オーダーする花恋のことを覚えていました。そうとは知らず、狩りモードが発動し、帝都を手練手管で惚れさせようとする花恋。飲み過ぎて熱くなった頬に触らせようとしたり、肩にもたれたり……このあと2人で抜け出さないか、と大胆に誘いますが、帝都には全く効果がありません。「本当は僕に興味とかないですよね」「人を人として見てない人に心開けませんから」とたしなめられる始末。遊び人の花恋と対照的に、好きな人とじゃないとそういう行為はできないと語る帝都は、24歳にしてピュアなチェリーボーイでした。柏木悠は本当はクールなイケメンなのに、内向的でちょっと挙動不審なキャラを好演しています。

 展開がだいたい予想つきますが、泥酔した花恋は自力で家に帰ることができなくて、帝都が介抱する流れに。このときの酔っぱらいの演技に女優魂を感じました。酔って本音を語りながら、相手とハプニング的に接近するという、ラブコメドラマでは鉄板のシーンです。

 泥酔してしまったため、花恋は帝都と近くのラブホに泊まったのですが、とくに何もなく朝を迎えます。しかし、また2人を接近させようとする運命の力が働き、花恋が鍵を会社に忘れて部屋に入れず困っていたところ、帝都と遭遇。なんと2人は同じマンションだったのです。「朝までどっかで時間つぶすしかないよね」と言う花恋に、帝都は「危ないですよ。こんな夜中に」と部屋に招き入れます。そしてまた、花恋は帝都の部屋に泊まることに……。

 このドラマの特徴の一つは、花恋が急に視聴者の方を向いて、ドキュメンタリーのように本音を言うシーン。整理整頓された帝都の部屋に入った花恋は、カメラに向かって「私と同じ部屋とは思えない」とささやきます。あざといけれど、こうやって時々視聴者に本音を吐露することで、憎めないキャラが作られています。

 森香澄はアナウンサーだっただけあって、セリフが聞き取りやすいのはもちろん、ドラマでの会話シーン、モノローグ、視聴者に語りかける場面など、それぞれ声色を使いわけています。テレビ東京で培ったスキルを感じさせます。心の声は素で低め、男性に話しかけるときはやや高め、というのもリアルな処世術感があります。

 第二話でまたお泊まりしても何もなく、第三話では一緒に水族館でデートしますが、とくに進展はなし。ただ、水族館で肌見せデート服で風邪をひいてしまい、家で寝込んでいた花恋が、帝都に心配されて看病される、というシーンがありました。これも恋愛ドラマお約束の胸キュンシーンです。

 第四話では、親友カップルと男女四人で一緒に温泉に旅行する展開に。なぜかまた同じ部屋に泊まることになった花恋と帝都。旅先なのに仕事のトラブルの電話が入り、臨機応変に対処する花恋を見て、帝都にリスペクトの気持ちが芽生えます。そして記憶をたどると、帝都の小学校のときの初恋の相手は、花恋だっだという確信を強めるのでした。

 また何もなかったけれど、花恋が就寝しようとしていたら「おやすみなさい」と帝都にささやきかけられ、「何今の!?」と動揺。すっかり翻弄されている様子でした。

 あざとい系はピュアで天然系の方の魅力に負ける、ということでしょうか。負けたふりをして好感度を得る、というさらにあざとい処世術もありそうですが……。

今回ご紹介した作品

年下童貞くんに翻弄されてます

放送
MBS(毎日放送)ほかで木曜24時59分~放送中
配信
FOD

情報は2025年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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